大谷亮平が低音で「それはちくわだ」「昆布だ」「しらたきだ」『異世界居酒屋「のぶ」』が深夜に転生

2020.5.15
異世界居酒屋「のぶ」

文=大山くまお イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


居酒屋は素晴らしい。異世界の住民たちが、枝豆や唐揚げなど居酒屋料理のおいしさに感激する不思議な深夜ドラマを大山くまおが吟味する。品川ヒロシの演出の手腕も気になるところ。先週の『ワカコ酒』につづき、酒好きを励ましたい連載第7回。

「トリアエズナマ」を飲んで

WOWOWにも深夜ドラマはある。5月15日の深夜0時からスタートした『異世界居酒屋「のぶ」』だ。原作はシリーズ累計300万部を記録した蝉川夏哉によるライトノベル。ヴァージニア二等兵によるコミカライズも好評で、2018年にはアニメ化もされている。ドラマ版はWOWOW未加入者でも公式サイトとYouTubeで無料公開されている第1話を観ることができる。

コミック版『異世界居酒屋「のぶ」』<第1巻>ヴァージニア二等兵、蝉川夏哉、転/KADOKAWA
https://www.youtube.com/watch?v=V3-zptKJ4-M
YouTubeで無料公開中の1話

中世ヨーロッパを思わせる異世界の古都アイテーリアに入口がつながってしまった居酒屋「のぶ」を舞台に、異世界のさまざまな人物が寡黙な店主ノブこと矢澤信之(大谷亮平)の作る日本人ならなじみ深い居酒屋料理に舌鼓を打つという物語。

異世界ものだが主人公は転生したわけではなく、ドラゴンやモンスターなどを討伐するような展開もない。「のぶ」を訪れるのは、あくまで異世界に住む普通の隣人たち。違いがあるとしたら、彼らは日本の居酒屋の料理を一切知らないということだ。

いつもぬるいエールを飲んで味気のないじゃがいもをつついている彼らは、キンキンに冷えた生ビール(「トリアエズナマ」と呼ばれる)を飲み、塩をふった枝豆や出汁の染み込んだおでん、レモンを絞っていただく唐揚げなどを頬張ると、誰もが心の底から感激し、可憐で気配りの行き届いた看板娘のしのぶ(武田玲奈)のサービスを受けることで、「のぶ」の虜になっていく。

異世界の衛兵から皇帝までが現代日本の居酒屋料理に平伏して感激するという意味では、ほかの「なろう小説」によく見られる「俺TUEEEE」な「チートもの」(努力せずとも得られたものすごい力で活躍する物語)の一種であり、「日本賛美もの」でもあるのだが、確かに登場する居酒屋の料理はどう見てもおいしそうで、異世界の人物たちの食べっぷり、感動の仕方も上品なのであまり気にならなくなる。好評を得たコミック版を読むと、同じく「なろう小説」だった『居酒屋ぼったくり』(秋川滝美、しわすだ)のコミック版とテイストが似ていると感じる。

原作者も絶賛の品川演出と「WOWOWクオリティ」

異世界もので、コミック版も好評となると、実写化のハードルはずいぶんと高そうだが、それに挑んだのが監督・脚本を務めた品川ヒロシ。原作者の蝉川は「コントみたいにならないかなと若干の心配」があったそうだが、完成した作品を観て「いい実写化」「品川監督の気持ちがすごく伝わってくる」と賛辞を送っている(『映画ナタリー』品川ヒロシ×原作者・蝉川夏哉インタビュー)。

キャストも深夜ドラマとは思えないほど豪華で、大谷、武田のほか、衛兵のハンス役として「BOYS AND MEN」の小林豊、ハンスを「のぶ」に誘った同僚のニコラウス役としてテニミュ出身の白洲迅、「のぶ」で働くことになる給仕のヘルミーナ役として堀田茜、のちに「のぶ」の一員となる女傭兵リオンティーヌ役として元宝塚雪組トップスターの早霧せいなが出演。ファンに人気の赤毛の少女エーファは、「さくら学院」の元メンバーだった16歳の新谷ゆづみが演じる。

さらに波岡一喜、梶原善、木下ほうか、田山涼成、篠井英介ら名バイプレイヤーらが顔をそろえるほか、監督の品川とのつながりからか、ロバートの秋山竜次、ブラックマヨネーズの小杉竜一、品川庄司の庄司智春、木村祐一らベテランお笑い勢も登場する。居酒屋のセットや異世界の作り込みなどもしっかりしており、深夜ドラマであってもチープさに逃げないところがよい。これが顧客満足度をなによりも追求する「WOWOWクオリティ」なのだろう。

失われた居酒屋の楽しみよ、もう一度

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大山くまお

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大山くまお

1972年生まれ。名古屋出身、中日ドラゴンズファン。『エキレビ!』などでドラマレビューを執筆する。

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