コントの小道具の引き出しから
さてさて、僕が依存症でない事を分かって頂けたところで、まずはパチンコ屋の礎、パチンコ玉を作る。
やはり人間好きな事に関しては頭が回るもので、
僕の大学を4年通って0単位で中退した脳が瞬時にコンピューターを弾く。
これは、アルミホイルと丸いものがあれば出来る!
丸いものは、もう見つかっている。
僕の最近覚えたZoom飲みのお供「グリーン豆」だ。
問題はアルミホイルだ。
普通の家庭なら必ずあるものだろうが、炊飯器はおろか、レンジも包丁もない僕の家にあるわけがない。
でもどこかで見た記憶があるのだ。
奴はロフトの上の、コントの小道具の引き出しから出てきた。
良かった! 丸々一本ある!
僕は思い出した。昔宇宙人のネタをやった時に買ったアルミホイルなのだ。
あの時スベったのは無駄じゃなかったんだ。やはり人生無駄な事なんてない。
コントをやっていて良かった。
皆様も芸人の家に行く機会があったら、アルミホイルを確認してみて欲しい。
アルミホイルがあったらコントの人、なかったら漫才か漫談の人である。
夜な夜な無心でグリーン豆で
芸人豆知識を披露したところで、ここからはひたすらアルミホイルをちぎり、グリーン豆を巻いていく地味な作業である。
これが2週間くらい続いただろうか。
昔、ショートケーキに苺をのせるバイトを10時間くらいやった事を思い出した。
若い頃は気が狂いそうになったが、この歳でこういう単純作業は無心になれるからお薦めだ。
たまにやってくる自分は一体何をやっているんだろうという理性と、特技とか身に付けた方がいいんじゃないか? という向上心という名の邪念と戦いながら、僕は夜な夜な無心でグリーン豆でパチンコ玉を作った。
途中、Zoom飲みの度に折角作ったパチンコ玉を剥いて食べるという愚行により進みが遅れた事もあったが、何とか目標の2000発が仕上がる。
しかしまだこの状態では、グリーン豆をアルミホイルで巻いただけのものだ。
やはりパチンコ玉はドル箱に入ってこそのパチンコ玉なのだ。
こういう時はペットボトルの出番だろう。
ペットボトル2つを適当にカッターで切って適当に繋げればドル箱が出来る。
こんな雑でいいのかと思われるだろうが、僕は知っている。
ピンクのマジックを適当に塗るだけで、もうドル箱にしか見えなくなるのだ。
どうだろうか?
耳を澄ませば軍艦マーチが聞こえてきやしないだろうか。
懐かしい。あの開店前のワクワク感、ドル箱を積んだ時の無敵感……。
テレビから聞こえてくるパチンコ屋を叩くコメンテーターの声に僕の達成感が邪魔される。
確かに今は行くべきじゃないし、店も閉めればと思うが、いろんな人の生活がある。
難しい問題だ。
一度パチンコ屋に入ったら2週間打ち続けなきゃいけないというルールを作れば、丸くおさまるんじゃないか? いや、普通にコロナ関係なく死ぬか……。
こういう人達の為にも僕はパチンコ台を完成させなきゃ!
謎の使命感を覚えた僕は台の製作に取りかかる。
もうパチンコ台じゃねーか!
とりあえず使えそうなものがないか部屋を見渡す。
よくある無人島に漂流する物語の主人公の気分だ。
今はこの20平米にも満たない、6畳1間が僕の世界の全てなのだ。
とりあえずこのゴミで試してみるか……。
僕は昨日食べたピザの箱を手に取る。
おいおい、嘘だろ! もうパチンコ台じゃねーか!
ピザの箱って家でパチンコ台作るように設計されていたのか!
自粛生活で一番テンションがあがった瞬間かもしれない。
おいおい、これはいけるぞ!
アイデアが止まらない。僕はピカソだ!
パチンコピカソだ! パチソだ!
釘はピンを刺しまくるだろ。
発射するところにはバネがいる。バネ、バネ……バネ! 洗濯バサミだ!
そして玉が飛び出さないように、去年鶏肉をもう一度大空に飛ばすネタでナマモノ禁止の会場で鶏肉を包んだラップを使うんだ!
こうして『CR岡野』が誕生した。
達成感、充実感、高揚感……。
夜な夜なパチンコ玉を作った日々を思い出し、ありとあらゆる感が押し寄せてくる。
最高の気分だ。
釘は感覚で作ったので、打ちながら調整していこう。いや、奇跡的に完璧なバランスになっているかもしれない。
面白過ぎてパチンコ屋と同じように13時間打ち続けちゃったらどうしよう。
当たったら泣いちゃうんじゃないか。
緊張の初打ち。