芥川賞作家・町屋良平が『Quick Japan』での連載に大幅な加筆・修正を加えて完成させた小説『IDOL』が、2026年4月7日に刊行された。同作は、「夢」という巨大なエネルギーに突き動かされる弱小ボーイズグループを描いたSF青春劇だ。
その刊行を記念して、『Quick Japan』vol.178の「INIと言葉」特集に掲載された町屋から11人組グローバルボーイズグループ・INIへ贈られた“言葉”を転載する。
町屋良平からINIに贈る言葉
ボーイズグループ小説を連載している関係で、今回インタビュー&撮影の現場に立ち合わせて頂いた。インタビューに応える様子を薄目で見ていると(邪魔したくなく、なにより私が緊張していたため)、メンバーは皆、気さくなスーパー好青年の体である。しかし撮影になると、というよりは撮影に向かう準備の段から、身に纏(まと)う空気が変わっている。それは今回の撮影のコンセプトでもある薄闇のなか帯びる光のような状況と妙にマッチしているのだった。
私事ではあるが四十歳を越えて、若いときのような情熱、夢、執着、言い換えればキラキラのようなものが随分褪せてしまった気がする。好きなものへの執着も、何度も洗濯をし着ているお気に入りの服のいろのように。薄れていた。
そんな私も「INI FOLDER」をすべてみている。いくつかの動画はお気に入りで十回ぐらいみている。INIがデビューするきっかけとなったオーディションこそ、その眩しさにつきまとうこちら側の感情の爆発にもう体が持たずリアルタイムで追うことができなかったが、しかし後を追う形で結果を知ってから夢中で観た。
INIは優しいグループだと言われる。しかし私見ではその優しさはINIのたんなる一つの特性、武器ではない。優しさはかれらの活動、パフォーマンス、作品全般にめぐる血液のようにすべてに影響を与えているし、また果たされた活動、パフォーマンス、作品からも切り離せず影響を受けているものでもある。存在から作品から相互に交換するようにして。つまり、優しさはINIの一部であると同時に全てでもあるのだ。
私の若いころに比べれば顕著に、現代はボーイズグループ隆盛の時代である。それは人気、実力ともにそうだ。魅力あるグループ、魅力あるパフォーマンスはつぎつぎに現れ、高速で更新されていく。だがINIの眩しさはたやすくは更新されない。それどころか、これからますますその影響力は増していくだろう。私はINIの知性に注目したい。
優しさは知性だ。INIはあらゆる排除を排除する。メンバーの誰かを輝かせようと努める、その姿こそがもっともINIを輝かせるのだ。だからファンもまるでメンバーの一員みたいにINIに輝かされている。だからこそファンもINIを輝かせる。そのようにINIを応援する。それぞれの輝きも交換するように。
そのような居心地のよい空間、居心地のよい時間をどのようにファンと共有するか。INIという組織は発足いらい、つねにそのことについて考え続けているとわかる。ひとりひとりの輝きも素晴らしいが、だれかを輝かせているときのINIがもっともつよく発光している。
それは音楽にもよく表れていて、抽象とメッセージの双方にすぐれた歌詞を表現する高いパフォーマンス、音楽性、INIの楽曲は紛れもないINIの楽曲だとすぐに分かる。端的に「俺たちはすごい」という押し付けではない、歌詞で表現していることが「俺たちはすごい」だとしても、INIの優しさと知性に包まれた音楽、なによりパフォーマンスの重層性が歌詞のたんじゅんな意味よりも、もっと深いところにある心地よくて優しい、そして鮮烈なイメージを聞き手と共有する。

町屋良平
(まちや・りょうへい)1983年生まれ。2016年『青が破れる』で文藝賞を受賞しデビュー。2019年『1R1分34秒』で芥川龍之介賞、2022年『ほんのこども』で野間文芸新人賞、2024年「私の批評」で川端康成文学賞、『生きる演技』で織田作之助賞、2025年『私の小説』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2026年4月、『IDOL』(太田出版)を刊行
ボーイズグループ×青春小説『IDOL』

これがおまえが「夢」見た「アイドル」だろ。責任とれよ──
芥川賞作家・町屋良平が、「アイドル」の輝きと暴力性を克明に描き出すタイムトラベル青春劇!
「夢」が禁じられた未来から、現代にタイムスリップした双子の兄弟・アリスとキルト。国民的オーディション番組の落選組によって結成された弱小6人組ボーイズグループに加入したふたりは、あらかじめ運命づけられた解散の日を迎えるまで束の間の夢を見る。しかし、バンコクでのフェス出演をきっかけに、運命は少しずつ変わり始めた──。
著者:町屋良平
発売:2026年4月7日
刊行:太田出版
仕様:四六判/ソフトカバー/352ページ
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