今、一番イケてる音楽って何かわかる?【平成はLOVEだった#2】

今、一番イケてる音楽って何かわかる?【平成はLOVEだった#2】

文=奈都樹 編集=山本大樹


1994年生まれのライター・奈都樹が駆け抜けた平成の時代のすべてをLOVE一本槍で語り尽くす新連載。恋に恋したあのころを、もう一度みんなで見つめ直そう!

今、一番イケてる音楽って何かわかる?

『オトナ帝国の逆襲』(1)でいうところのダークヒーロー・ケンみたいに私は令和時代に平成を生きているみたいで、ちょっと油断するとすぐCHEMISTRY(2)ばっかり聴いちゃうし、『ランチの女王』(3)観ちゃうし、あのころの『egg』(4)がどれだけエロくて、『CUTiE』(5)がどれだけおしゃれだったかとか、そんな昔話を持ち出したりもしちゃうもんだから、最新のSNS事情とか全然わからないし、TBSドラマで妻夫木聡×安藤政信(6)の名コンビが再共演してることも知らなかったし、まだ小栗旬のNetflixドラマも観られてない。

私がトレンドを追えなくなったのは今に始まったことじゃない。中1の4月からだいぶ遅れを取っていた。ふんわりと暗鬱な空気が吹き込む春、新しい学校にドキドキしながら席に座っていたら、隣の男子がうしろの席のちょっぴり軟弱な男子に向かって「なあ、今一番イケてる音楽って何かわかる?」と話しかけていて、空気が読める軟弱男子は「え? 何?」なんて聞いてあげてたのだけど、そしたらそいつは得意気にこう言うのだった。

「え? 知らないの? Aqua Timezだよ」

それからもうトレンドのことはだいたいあきらめてる。当時そうやってドヤる中坊がいるぐらいにAqua Timezは一世を風靡していたらしいのだけど、とはいえあのころのティーンエイジャーがあの人たちの曲みたいにピュアマインドに満ちていたかといえばそうでもなくてけっこう最低だった。常に地上から5cm浮いてたような私は、ドヤ顔Aqua Timez男子を含む学年男子の8割ほどに入学早々いじめられていて、登校すれば私の机はひっくり返ってるし、机には誰かの足跡がびっしりついていた。そんな殺伐とした教室で中坊たちはこう歌うのだ。「辛い時 辛いと言えたらいいのになぁ〜♪」(7)。

翌年、例のAqua Timez男子は再びうしろの席のやっぱり軟弱な男子に「なあ、今一番イケてる音楽って何かわかる?」なんて聞いていて、やっぱり空気が読めてしまう軟弱男子は「え? 何?」なんて返してあげるのだけど、そしたらAqua Timez男子は待ってましたと言わんばかりに「え? 知らないの?」とドヤったあとで、「GReeeeN(8)だよ」と言い放つもんだから、内心ツボりすぎてやばかった。そんな陰鬱中学生だったので吹奏楽部に入っても演奏した曲はどれもイマイチしっくりこなくて、多数決で決まった羞恥心のデビュー曲(9)だって、最後まで何がいいのかひとつもわからないまま、でもやるからには魂込めてブッブッブッブッ吹いてたわけです(担当楽器はTUBA)。

でも本当は私だって。Aqua Timezのいう「七色の橋」を信じたかったし、GReeeeNのいう「ただ泣いて笑って過ごす日々」に共感したかったし、ヘキサゴンファミリーのおバカっぷりだって無邪気に愛したかった。変に大人にならないで子供らしくいたかった。でも現実は子供だろうが関係なく悲惨で、あのころの私が夢中になれる音楽といえば、宇多田ヒカルとか椎名林檎とかBUMP OF CHICKENとかひっそり孤独に怯える歌だった。

ふたりのミスチル好きモテ男子との出会い

それでも中学時代を思い出すとどうしても胸が締めつけられて心がピンクに染まってしまうのは、ふたりのミスチル好き男子のおかげだと思う。彼らに出会ったことで私の中学生活は見違えるほどに変わった。

片方は学年で2番目にモテると噂されていた男子で、私がミスチルに関心があると知ると「『Replay』って知ってる? すっげーいい曲だよ」なんて話しかけてくれて、中1のころの私にも普通に接してくれる数少ないクラスメイトだった。もう片方は学年で一番モテると噂されていた男子で、私がミスチルのアルバムに関心を持つと「初めてなら『シフクノオト』がいいよ! あれはまじ最高だから」とか言いながらスキンシップなんかしてきたりして、やたら距離も近くて、中2のころの私を女の子として扱ってくれる唯一のクラスメイトだった。

そうして異性と音楽でつながる喜びを知って、私はようやく宇多田ヒカルが歌っていた「誰かの為じゃなく自分の為にだけ歌える歌があるなら私はそんなの覚えたくない」という言葉の意味を知った気がする。そして他の女の子たちと同様に、どちらにもちゃんと恋をして、地上から5cm浮いたまま見た目だけちょっとかわいくなった。

ふたりのミスチル好き男子との出会いで、暗闇に間違いなく光が差した。私も普通の女の子になれるかもしれない。そんな希望が、私に息をさせてくれた。まあその後、後者のほうは俗にいう沼男に進化を遂げて、私はカラオケで「ねぇ〜くるみ〜♪」(10)とか歌われればキュンとして、長いことまあまあ振り回されてうんざりして、今はもうあの夢からはすっかり覚めてしまったんだけど。でもやっぱりそれとこれとは別なので。心から感謝してるのです。前を通れば指差して笑われるような存在だった私を、絶望から救ってくれてありがとう。

注釈

(1)『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年公開)。20世紀への逆戻りを企てる悪役・ケンが作り出した「20世紀の匂い」によって人々が幼児返りしていく様には、大人たちが抱える逃避願望が映し出されていて、30代になって観直すと身につまされる

(2)オーディション番組『ASAYAN』(テレビ東京)から輩出された男性ボーカルデュオ。なにかと感傷的で未練たっぷりな「PIECES OF A DREAM」「Point of No Return」など名曲多数。芳醇で筋肉質な川畑要と儚げな堂珍嘉邦の歌声が、特別なエモーションを生み出している

(3)黒髪ボブから茶髪ショートヘアにイメチェンした竹内結子主演ドラマ(フジテレビ)。舞台である洋食店「キッチンマカロニ」のオムライスをうれしそうに頬張る姿は、日本女性のモテ仕草に影響を与えているはず

(4)かつて兄の彼女たちが家に来るたびに置いていった雑誌。名物企画「アニマルトーク」は当時小学生の私にはあまりに刺激的だったため「家族に隠れて読むエロ雑誌」のひとつに認定

(5)原宿系ストリートファッションを好む女性たちのバイブルとして長きにわたり愛されたが、2013年に20代に向けたガーリーカジュアル路線へと大幅にリニューアル。2年後に休刊へ

(6)映画『69 sixty nine』(2004年公開)で共演。若手人気俳優だった妻夫木聡と、ある時期から表舞台にあまり姿を現さなくなったレア俳優・安藤政信の共演とあって世間から注目を集めた。主題歌であるCHEMISTRY「いとしい人」はしばらく私の着メロに

(7)Aqua Timez「決意の朝に」に励まされていた中学生は数多。とにかく歌詞がいい!ということでその場で歌詞カードを読まされたことは何度かある。いじめっ子だろうがなんだろうがみんなそれなりに悩んでいるということはAqua Timezから学んだ

(8)いつの間にかグループ名がGRe4N BOYZに変わっていた

(9)バラエティ番組『クイズ!ヘキサゴンII』(フジテレビ)発の男性3人組”おバカ“ユニット。デビュー曲「羞恥心」はドンマイを連呼するサビが印象的で、ストレス社会を生きる人々の思考をおかしくさせる魔力があった。が、その陽気さは恐ろしいまでに人工的でもあった

(10)Mr.Children屈指のモテ曲「くるみ」の名フレーズ。元カノらしき女に呼びかける歌詞には多くの女性たちを切なくさせる効果があるが、元カレに歌われると苦い顔をしたくなる曲でもある

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奈都樹

(なつき)1994年生まれ。リアルサウンド編集部に所属後、現在はフリーライターとして活動しながら、クオーターライフクライシスの渦中にいる若者の心情を様々な角度から切り取ったインタビューサイト『小さな生活の声』を運営中。会社員時代の経験や同世代としての視点から、若者たちのリアルな声を取材している。