『WEAPONS/ウェポンズ』は興奮も爆笑もくれる傑作ホラー。事前予習すら裏切るワクワク感と、“あの人”に似た異質の存在(石野理子)
2023年よりソロ活動を開始し、同年8月にバンド・Aooo(アウー)を結成した石野理子。連載「石野理子のシネマ基地」では、かねてより大の映画好きを明かしている彼女が、新旧問わずあらゆる作品について綴る。
第14回は、制作国アメリカそして日本でも昨年スマッシュヒットとなった超常ホラー『WEAPONS/ウェポンズ』を取り上げる。ホラーファンを唸らせる物語設定と演出、複数の登場人物による視点が絡み合う構造に魅了された石野。さらに、本作の怪演でアカデミー賞にもノミネートされたエイミー・マディガン演じる登場人物・グラディスの強烈な存在感は、ホラー作品の本質「恐怖」すらも前振りにするパワーがあったという。
『WEAPONS/ウェポンズ』あらすじ
とある水曜日の深夜2時17分、ある学校の教室の生徒17人が消息を絶つ事件が起こる。ベッドから起き、階段を降り、自らの手でドアを開けた子供たちが、闇の中へ走り出したまま消えてしまったのだ。疑いをかけられた担任教師のジャスティンは、残された手がかりをもとに集団失踪事件の真相に迫ろうとする。しかし、この日を境に不可解な事件が多発し、やがて町全体が狂気に包まれていく。
※本稿には、作品の内容および結末・物語の核心が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください
動機は「キーン!走りが見たい」
私は映画を観るとき、さまざまな映画レビューサイトを見て、あらかじめ概要やどんな描写があるかを頭に入れ予習することが多い。最新作を観る場合は、詳細に紹介してくれているサイトに行き、内容を熟読する。
また、好きな映画批評家やレビュアーもいるため、そういった方たちの感想を頼りにすることもあるのだが、特にお世話になっているのは、RHYMESTER宇多丸さんがパーソナリティを務めるラジオ番組『アフター6ジャンクション2』(TBSラジオ)の「週刊映画時評 ムービーウォッチメン」だ。
その中でも特に楽しみにしているのが、年間ベストの回で、去年の年末の回は、憧れているライターの奥浜レイラさんも出演されており、いわゆる“俺得”回だった。そこで言及されていた映画が、今回ここで紹介するザック・クレッガー監督作『WEAPONS/ウェポンズ』だ。

気になった理由は、すごくシンプルだった。アラレちゃんのキーン!走りが印象的すぎる、という感想がすごく引っかかり、それを自分の目で見てみたくて仕方がなくなったのだ。そして、私はキーン!を、ただキーン!を目撃したい一心で、あの『バーバリアン』監督作という情報以外は知らないまま、劇場へ足を運んだ。
なんてこった! 結果、非常におもしろかった!
ノーマークだった作品がおもしろかったときの喜びは、事前に注目していた作品のそれを上回るワクワクをくれる。このときがまさにそうだった。
良質な物語と演技に引き込まれる

物語は、深夜2時17分、ある学校のクラスの生徒ひとりを除いた全員が消えてしまうところから始まる。冒頭から、子供たちがむくむくとベッドから起き上がり、何かに突き動かされるようにして、腕を逆V字(そう、キーン!)にして暗闇に駆けていったとき、これだ! これこれ!と大興奮したのを覚えている。もちろん、これは単なる出落ちではなく、最後まで物語に絡んでくる。
前半は、非常に質の高いミステリーだ。不可解な事件により、街全体が疑心暗鬼に陥るなか、担任教師ジャスティン(ジュリア・ガーナー)が犯人扱いされ、追い詰められていく。ジュリア・ガーナーの、気が強いようでいて崩れそうな繊細さを併せ持つ多面的な演技には、さすが!と思わず拍手を送りたくなった。

学校の校長やジャスティンと不倫関係にある警察官、そして失踪した子供の父親、そして唯一残った生徒アレックス、群像劇形式でそれぞれの視点を通して描きながら、この事件の真相に近づいていく。この構成によって、特に前半は、誰が?なぜ?という疑問に集中させられる。その上で、規則的に作品の緊張感を高める、あるいは解き放つ出来事が起きるため、その緩急が素晴らしいと感じた。
緊張と緩和がクセになる!
物語の様子が一変するのは、最後にアレックスの視点になったときだ。ある日、ひどい病気にかかったという伯母・グラディスが具合がよくなるまでアレックスの家で生活することになり、家を訪れる。
グラディスのビジュアルは強烈だ。小柄で奇抜なファッションをしており、オレンジのショートボブ、白塗りしたような肌に、赤いリップと、性別も不明瞭に見えるほど異質だった。
観ていて、なんかなじみがあるルックスだと思っていたが、鑑賞から数日経って、吉本新喜劇に登場する“すち子”がその既視感の正体であることに気がついた。
ちなみに、グラディスの存在は前半でも風変わりで怪しい者、邪悪な存在として仄めかされている。
この“すち子”に似た異質な存在が、小枝と血とベル、そしてターゲットの持ち物を使った禍々しくも奇妙な魔術で家族を支配していくあたりから、物語は一気にオカルティックになる。そして終盤、グラディスと周囲の人間による攻防戦が始まると、私はそれまでの神妙な面持ちを捨て、爆笑の波に飲み込まれた。
ただ唯一、笑えなかったのはキッチンでの取っ組み合いシーンだ。劣勢に立たされたジャスティンがとっさにピーラーを握ったのだ……。それを相手に向け……。ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……!!!! 見ていられなかったが、同時に新しい戦い方すぎると妙に感心してしまった。
そして、魔術のルールを見抜いたアレックスによる復讐が始まると、想像以上のインパクトある絵面があまりに滑稽で、大爆笑してしまった。
前半のじっとりとした緊張感は、この後半の狂騒的な爆笑を引き立てるための壮大な前振りだったのだろうか……。

個々のキャラクターの強さと、伏線を回収していく緻密な構成。そして何より、性別さえ超越した「人ならざる老いた者」の魅力。鑑賞後には爽快感と心地よい疑問が残り、「続きが観たい」と心から思わされた。
そして、事前の予習も楽しいけれど、それを裏切られる喜びはもっと楽しい。『WEAPONS/ウェポンズ』は、そのことを改めて教えてくれた、最高にクセになる一作だった。
『WEAPONS/ウェポンズ』2月13日(金)デジタル配信開始

権利元:ワーナー ブラザース ジャパン合同会社
3月18日(水)Blu-ray&DVD発売
発売元/販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
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