塾に行きたいみなみかわと、違法原付ヤンキーvsダサヤンキー。あの日、駐車場で蹴られて悟ったこと「不幸を打開するのは、さらなる不幸」<映画『ヒグマ!!』レビュー>

文=みなみかわ 編集=菅原史稀


闇バイトとヒグマ被害が交差する、異色のスリラー映画『ヒグマ!!』が近日公開予定だ。

一見かけ離れているようだが、それぞれが近年さらに注目を集めている社会問題という共通項もある。特に、昨今のヒグマ被害の深刻化を受けた同作製作委員会は、公開時期の調整を発表した上で「物語には襲撃・食害の描写も含まれますが、それは過激さを目的としたものではありません」「モンスター・スリラーが本来持つ『恐怖を通して現実をシミュレーションし、人の生を映す』という寓意に根ざした表現」(映画公式サイトより)と、本作について説明している。

そんな『ヒグマ!!』を観て、自身の体験を思い出したというみなみかわは、今回も独自の視点から作品を熱血レビューする。「シネマ馬鹿一代」第16回。

なんでコーラやねん!

「みなみかわさんってヤンキーだったでしょ?」

たまにそう言われることがある。身長だったり、見た目の怖さだったりでそう思われるかもしれないが、むしろ私はヤンキーにビビる人生を送ってきた

タバコを吸ったこともないし、当時ヤンキーの象徴だったラスタの服も一着も持っていなかった。髪型も100%和田アキコさんと同じだった。

恥ずかしげもなくいえば、ヤンキーにビビっていたその反動で、体を鍛え始めたところさえある。

あれは中学生のころ。駅前に本屋があった。

塾に行く前に、その本屋でTHE YELLOW MONKEY情報を立ち読みして塾に向かうのがルーティンになっていた。

ある日、いつものように立ち読みをしていた。店内は広く見晴らしがいい。

すると自動ドアからヤンキーの3人組が入ってきたことが確認できた。

当然、ヤンキーを見て確認したわけではない。当時の堺市では、私みたいに戦闘力の低い人間にとって、ヤンキーを真正面から見るなんて愚の骨頂だったのである。なぜなら、ヤンキーは目が合うとなぜか腹を立てるというバカげた習性があるからだ。

なのでそっちのほうを見なくても、長年培った“周辺視野(目を動かさずに1点を見ているとき、その中心から外側に見える視野のこと)“で髪の色を確認。黄色っぽい。そして必要以上に足音を立てる音を確認、我が物顔で本屋で会話する声の大きさ。

総合的に考えた結果、「間違いなくヤンキー」という予想を確定させた。そして、そのヤンキーが会話しながら私のうしろを通ろうとしている。

全身を集中させ、自分の体を本屋の風景に溶け込ませた。「私は背景の絵でございます。あなた方が声をからけたところで、声を出せない無機物です〜」、私の体からはそういうオーラが出ていた。

情けないが、当時はそれが地元をサバイブする方法のひとつだったのだ。

何事もなく私の後ろを通り過ぎるヤンキーたち。ホッとした。バカな私はホッとしてしまったのだ

通り過ぎたヤンキーのうしろ姿を安心して何気なく見てしまった。すると、ヤンキーの前にはミラーがあって、反射してうしろからヤンキーを見ている私が丸見えになってしまった。

するとすぐ振り返り私の肩に腕をかけてきた。

「なあなあ、お金持ってる?」

終わった。なぜだ。私はいつだって詰めが甘い。どうしよう? 振りきって逃げるか? いやたぶん間に合わない。私は成長期が遅く、当時150センチ台だったと思う。到底勝てない。

お金は大して持ってない。そうなると、何発かは殴られるかもしれない。

本屋の外に連れて行かれ、裏の駐車場へ。

「どこの中学なん? 自分」

ダサいヤンキーファッションの男が聞いてくる。

「……中学行ってない」

意味のない嘘をついてみた。

「まあええわ。財布見ーせて」

ダサヤンはそう言いながら、私の太ももを軽く蹴った。

「金持ってない」

そんな会話をしていると、遠くのほうで「何やってんの〜? あれ?」と、純正じゃない音を立て3人を乗せた原付がやってきた。

違法原付に乗っていたのは、私の中学の上級生だ。そのときは中学は卒業してたが高校に行ってるか定かではない。

「自分中学一緒やんな?」

私に聞いてくる。

「こいつら友達なん?」

私は無言で大きく顔を横に振った。わかりやすくいえば、3人の違法原付ヤンキーは、今私が絡まれているダサヤンキーより、ヤンキー度数が高かった。

ヤンキーの世界では、戦闘力の違いがわかりやすいらしく、ダサヤンの勢いはどこかへ行って黙りこくっていた。

「お前ら金持ってんの? 千円貸してよ」原付ヤンキーがダサヤンキーに聞く。

弱肉強食、食物連鎖、形成逆転というワードが頭に浮かぶ。私は歓喜した。危なかった! 助かった! 早く塾に行かせてくれ。

「ああ……千円やったら……」

ダサヤンキーが、私の目を気にしてか全然ビビってないみたいな空気を出していた。

バカが!! 早く出せ! クソ野郎! 勉強しろ!

ダサヤンが原付ヤンキーにお金を渡す。

一件落着! 「私はこれで」と行こうとしたとき、原付ヤンキーのひとりが私に言う。

「これでジュース買ってこい」

「え……僕は塾が……」精いっぱいの声で言うも「買ってこい。なんでもええから」

有無も言わさず、千円を押しつけてきた。

お金を持った私はこのままパクって塾に行こうとよぎったが、あとが怖すぎるのでコーラ3本買って駐車場に戻った。

するとダサヤンが正座させられていた。私はコーラを渡すと

「なんでコーラやねん! センスないんか!」

と思いきり蹴られた。「痛って〜〜〜〜!!!!」蹴られたリアクションを大きめに取り、そのまま「塾行きま〜す」と言いながら塾に行った。

今でも思い出す、我ながら情けない思い出である。

毒をもって毒を制す

映画『ヒグマ!!』を観た。

18歳の小山内(演:鈴木福)は、大学合格の通知を受け取ったその日、特殊詐欺の被害で多額の借金を背負った父親が自ら命を絶ったという現実に直面する。突然の悲劇によって進学を断念せざるを得なくなった小山内は、父の死の真相を追ううちに、金を得るための手段として闇バイトの世界へと足を踏み入れてしまう。

やがて彼は、高額報酬をうたう“拉致工作”に参加することになるが、知らぬ間にその任務は“拉致”だけでなく、“殺害”と“死体遺棄”へとすり替わっていた。

かわいそうな鈴木福くん(演じる小山内)。ずっとかわいそうでドジな男なのである。闇バイトに手を出し人生が暗転し、そのまま不幸が続いたとき、打開するのは明るい未来でなくて実はもっと不幸なことである場合だってあるんだと、この映画は教えてくれる。

まさに毒をもって毒を制す。

それでいてこの作品は暗くなりすぎず、そしてコメディになりすぎないかたちでめちゃくちゃ楽しめる作品になっている。とてもおもしろかった。

あ、最後に。私の地元・堺市は、今はめちゃくちゃ平和です。

皆様、ぜひ。

映画『ヒグマ!!』

近日公開

出演:鈴木福、円井わん、岩永丞威、上村侑、住川龍珠、占部房子、清水伸/宇梶剛士
監督・脚本:内藤瑛亮

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みなみかわ

『ゴッドタン』(テレビ東京)や『水曜日のダウンタウン』(TBS)などの人気番組に出演し、ジワジワとブレイク中の遅咲きピン芸人。総合格闘家、YouTuberとしての顔も持ち、“嫁”が先輩芸人たちにDMで仕事の売り込みをしていることも各メディアで話題に。