みなみかわ「私は成長期が人より遅かった」――体から悲鳴が出たアメフト時代と、後悔<映画『愛はステロイド』レビュー>

注目のクィア・ロマンス・スリラー『愛はステロイド』が8月29日から日本公開される。
主演にクリステン・スチュワートとケイティ・オブライアンを迎え、想像力をかき立てるあらすじ、ポップさと退廃的な雰囲気を兼ね備えるティザー映像で期待を高めた本作だが、実際に鑑賞してみるとそこにはさまざまな名作映画の要素が感じられつつも、これまでにない驚くほどパワフルな映画体験が待っている――そんな“衝撃作”だ。
『愛はステロイド』にアメフト部時代の苦い思い出を重ねたというみなみかわは、本作を「めちゃくちゃおもしろい」と評す。注目の新作映画を熱血レビューする「シネマ馬鹿一代」第15回。
『愛はステロイド』あらすじ
1989年。トレーニングジムで働くルー(演:クリステン・スチュワート)は、自分の夢を叶えるためラスベガスへ向かう野心家のボディビルダー、ジャッキー(演:ケイティ・オブライアン)と運命的な出会いを果たし恋に落ちる。しかしルーは、街の裏社会を仕切り凶悪な犯罪を繰り返す父親や、夫からDVを受けている姉など、家族にさまざまな問題を抱えていた。そんなルーをかばおうとするジャッキーは、思いもよらない犯罪網へと引きずりこまれていく。
“イジられたくない”一心で励んだトレーニングの先
振り返ると自分の体に合わないことをする人生でした。私は成長期が人より遅かった。
中学のころバスケ部に熱中し、毎朝6時前に起きては朝練をし、そして学校終わりは当然毎日練習をしていた。しかし一番身長が低く、運動神経もそこまでないため、どれだけがんばってもレギュラーになれなかった。1年後輩のほうが身長が高く、バスケもうまかった。私は嫉妬を通り越して恥ずかしかった。
皮肉にも、部活を引退してからグングン身長が伸び出した。
卒業時には170センチを超えていた。あと1年早かったら……と自分の体のメカニズムを恨んだ。
そして高校に入学したとき、身長が急に伸びたもんだから、体重が追いつかず171センチ47キロだった。激細である。
中学での反省を踏まえ、絶対に向いている部活に入ろうと決意して……アメリカンフットボール部に入部した。
なぜだ? 自分でもわからない。縁もない、ルールすら知らない、高校では珍しい部活になんの迷いもなく入った。
先輩たちは、私の体を笑った。自分でも、当たり前だと思った。ヘルメットとショルダーというアメフトの防具を着ければ、そこから生えてる細い棒のような腕と足は、何かの昆虫のようだ。笑いの対象となるのは、容易だった。
先輩のイジリをかい潜る毎日。ヘコむ暇などない。ヘコんだ瞬間、食われてしまう。
人生で初めてバーベルを担ぎ、ダンベルを上下し、ウエイトトレーニングに励んだ。毎日体から悲鳴が出る。アメフトが上手くなりたいというより、アメフトのショルダーに合う体を作りたいという気持ちに変わっていった。
先輩にふざけて、同意もなしに抱きしめられたこともあった。私を抱きしめながら、耳元でネチャネチャとバナナを食べていた。その場をなんとか乗り切り、すぐほかの先輩に告げ口して発散した。
プロテインを摂り始め、昼ご飯は2回、夜はバナナを2本食べて寝る。そんな生活をしていたら半年で20キロ近く増えた。しかし身長もまだまだ伸びて180センチになっていたため、まだまだガリガリのほうだ。
ガタイがよくなりたいがために、身長が伸びるのも嫌だった。ガタイがよくなければ、自分は食われるのだ。
同級生の腕が太くなっているのをうらやましく見ては、自分の腕の細さを隠すためにリストバンドをつけたりしていた。
毎日毎日ウェイトトレーニングをして、鏡で確認。ようやく先輩がいなくなり、体重も75キロを超えて、滑稽な昆虫から細めのアメフト選手になったとき……引退を迎えた。
みんながアメフトで大学に行くなか、必死で勉強して大学に行った。私は何がしたかったんだろう……。
私にはわかる

『愛はステロイド』を観た。
ウェイトトレーニング上で出会うふたり。明確な夢がある人間と、悶々とした日々を過ごす人間の交錯。
そもそも変わったふたりが織りなすストーリーは、観たことのない展開を生んでいく。ありえないというところギリギリのラインまでは行かないからめちゃくちゃおもしろい。

特にジャッキーを演じるケイティ・オブライアンの変貌ぶりはすごい。
私にはわかる。トレーニングは人生において非常に素晴らしい効果をもたらすが、偏った気持ちを持ってするトレーニングは偏った気持ちも増大させていくような気がする(もちろんステロイドは深刻なもの)。

いろんな要素があり無茶苦茶っぽいけど、話がドンと入ってくるとてもおもしろい映画なので観てほしい。
映画『愛はステロイド』

2025年8月29日(金)より全国ロードショー
監督&脚本:ローズ・グラス
共同脚本:ヴェロニカ・トフィウスカキャスト
出演:クリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン、エド・ハリス、ジェナ・マローン
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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