「すごすぎて笑える」悪魔祓いシーン、超ド級のトラウマを与えるラスト…韓国映画『哭声/コクソン』を観て“混乱の渦”に飲み込まれよう!(石野理子)

2023年よりソロ活動を開始し、同年8月にバンド・Aooo(アウー)を結成した石野理子。連載「石野理子のシネマ基地」では、かねてより大の映画好きを明かしている彼女が、新旧問わずあらゆる作品について綴る。
第8回は、日本でもヒットを記録した韓国映画『哭声/コクソン』(2016年公開/ナ・ホンジン監督作品)。予測のつかない物語展開やインパクト大のシーン、俳優陣の怪演で、今もたびたび話題に上がるサスペンススリラーだ。公開当時「疑え。惑わされるな。」のキャッチコピーを謳った本作を、石野はどう観るのか。
『哭声/コクソン』あらすじ
平和な田舎の村に、得体の知れないよそ者(演:國村隼)が現れる。彼がいつ、なぜこの村に来たのかを誰も知らなかった。男についての謎めいた噂が広がるにつれて、村人が自身の家族を惨殺する事件が多発していく。殺人を犯した村人は、必ず濁った眼に湿疹で爛(ただ)れた肌をして、言葉を発することもできない状態で現場にいるのだった。事件を担当する村の警官ジョング(演:クァク・ドウォン)は、自分の娘に殺人犯たちと同じ湿疹があることに気づく。ジョングは娘を救うためによそ者を追い詰めていくが、そのことで村は混乱の渦となっていき、事態は思わぬ展開に向かっていく……。
※本稿には、作品の内容および結末・物語の核心が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください
夏休みに開いたパンドラの箱
今月のシネマ基地では、このうだるように暑い夏にス~ッと涼めるような韓国映画『哭声/コクソン』について書きたいと思います。

思い返せば、コロナ禍で不用意に外出できない大学2年生の夏休み、5年前のちょうど今くらいの時期の深夜に、何かおもしろい映画はないかとサブスク上を徘徊して出会った映画がこれでした。
ちなみに、私はこのときはまだホラー映画になんとなくの苦手意識があって、今ほど耐性もついていない状態だったんですが、この映画のジャンルにサスペンス、スリラーと書いてあり、「韓国映画のじめっとした感じのサスペンス好きなんだよな〜」と思いながら、パンドラの箱を開けてしまいました……。
なにせ、この映画のラストシーンには、超ド級の映画トラウマを植えつけられた苦い記憶がありまして……。ホラーと断言するには躊躇しますが、それに近いスリルが感じられる作品です。
今回もだいぶ構えながら観ちゃいましたが、単純に怖いだけではなく、俳優陣の印象的な演技を見ることや作品のテーマについて考えるおもしろさがある作品ですよ。
悪魔祓いのシーンで大興奮
不審死が相次ぐ谷城(コクソン)の村で、警察官のジョングは、事件現場を遠くからのぞく國村隼さん演じる謎の日本人を目撃します。村ではその山の中に住む日本人が犯人だという噂が広まり、ジョングも彼を疑い始め、捜査を進めていきます。そんななか、ジョングの娘にも異変が起こり、獣のように暴れる姿に彼の平穏な日常は蝕まれていきます。
山の中の男の家には変死体の写真や呪術道具があり、疑惑は確信に変わります。娘の容態が悪化し、同僚も体調を崩し始めるなか、ジョングは家族を守るため、事態の解決を急ぎます。
そして、ついに! 私お待ちかね! ファン・ジョンミンさん演じる祈祷師が娘の様子を見に家へやってききます。「えらくひどい悪霊がいる」と祈祷を始めるんですが、私、韓国のこういう独特な悪魔祓いのシーンが大好きなんですよね。近年だと『破墓/パミョ』(2024年公開/チャン・ジェヒョン監督作品)、ほかにも『プリースト 悪魔を葬る者』(2015年公開/チャン・ジェヒョン監督作品)でもしっかり描かれていて大興奮しました!!!!
派手で愉快な音楽に生贄の動物、豪華な供物、泣き叫ぶ娘、両手にナイフを持って暴れ踊る祈祷師、どの映画で見てもこのカオス具合がどこか滑稽で、クセになるんですよね……。
音楽が激しくなって、ボルテージが上がっていくなか、命懸けで一心不乱に祈祷しているので、緊迫感もあるんですが、こういう儀式になじみがないので、たまに冷静になると「え!? その扇子いる!?」「今のはさすがにうさん臭すぎないか!?」とかツッコミどころが見つかったりしておもしろいんですよね。儀式のシーンが来ると、きたきた!みたいな非常に嬉々とした気持ちになります。
ちなみに、シネマート新宿とかでやっているような韓国ホラー情報には常にアンテナを張っているつもりなんですが、年に1本くらいこういう悪魔祓いシーンがちゃんと入っている映画が公開されると個人的にはうれしかったりします。
真っ暗な部屋で観る、四つん這い男(國村隼)
1回目の祈祷とお祓いで悪霊をさらに挑発してしまったことで、すぐに2回目の悪魔祓いが始まります! 歓喜! 演出的にはもう、山の中の男 vs 祈祷師といった感じで、除霊と呪詛の対象は違うものの、ふたりの熾烈な除霊と呪詛の戦いを見ているようで、ちょっとね、すごすぎて笑えてきちゃうんですよ……。
1回目より派手で賑やかな除霊が始まったんですが、娘のあまりの苦しみように耐えられなくなり、儀式を中断することになります。
その後、悪霊の根源と思われた山の中の男を追い詰めるものの仕留め損ないます。しかし、瀕死の山の中の男がジョングたちの車に衝突し、そのまま山に遺棄します。娘の状態が落ち着いたと思った矢先、祈祷師から「除霊を間違え、山の中の男は白い服の女を退治しようとしていた」と告げられます。混乱するジョングは、白い服の女から「悪霊は家に入る」「祈祷師もグルだ」と告げられ、どちらが悪霊かわからなくなります。
しかし、祈祷師の言葉を信じた結果、ジョングは家族の悲惨な光景を目の当たりにすることに……。
というお話なんですが、いや、山の中の男を演じた國村隼さんの怪演っぷりよ……!! 私のトラウマの正体です! 山の中をふんどし一枚、ほぼ素っ裸で、四つん這いになって獣に食らいつく様、血で染まった顔、赤く光る目……。それだけでも、夜中に真っ暗な部屋で観ると怖いのに、物語が与える緊張感も不気味さも相まって、内容を知っていても体がこわばる場面が何度もありました。
チャラチャラした祈祷師を演じたファン・ジョンミンさんと、白い服の女を演じたチョン・ウヒさんもよかったですね……。ファン・ジョンミンさんはこの作品でもお得意の方言が炸裂していて、しかも適度なイカサマ具合があるし、チョン・ウヒさんも憂いとミステリアスな存在感があり、陰と陽のようなふたりのコントラストが、作品に独特な色合いを与えていたように思います。
それから、物語後半から山の中の男、祈祷師、白い服の女、この3人の思惑が交差していくことで、主人公と同じく観ているこちら側も混乱する瞬間があります。私は今回観て、「最初に抱いた違和感ってあながち間違っていない」という直感を信じることを、教訓として頭の片隅に留めておこうと思いましたね……!
ちなみに、『哭声/コクソン』のように「最初から明らかに怪しい人がいて、確信を持ってその人に迫るのに、だんだん惑わされて何が正しいのかわからなくなる……」みたいな作品が好きな方は、『ザ・バニシング -消失-』(1988年公開/ジョルジュ・シュルイツァー監督作品)もおすすめです!

この夏はぜひ『哭声/コクソン』を観て涼み、混乱の渦に飲み込まれてみるのはいかがでしょうか?
『哭声/コクソン』を各配信サイトでチェック!
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