「タイ住みます芸人」が象について学び、資格を取った理由。タイではおなじみの“コンビニ猫”って?:あっぱれコイズミインタビュー

2024.9.26

文・編集=QJWeb編集部


吉本興業に所属し、「タイ住みます芸人」としてバンコクを拠点に芸能活動を行う、あっぱれコイズミ。自身のYouTubeチャンネルでは、タイ各地のおすすめスポットやグルメ、暮らしに関する情報を発信しているほか、動物保護のボランティアを行う姿も。

タイへ渡ってから象に魅了されたという彼は、保護施設支援のためにクラウドファンディングを実施、さらに象使い免許や象セラピーの資格を取得。そのほか、シャム猫の保護活動も行っているあっぱれコイズミに、タイで動物について学び関わるなかで得た経験や視点をシェアしてもらった。

きっかけは「タイに恩返しがしたい」の気持ち

タイに移住してから、どれくらいになりますか?

2015年4月からこっちに住んでいるので、もう10年目になります。経緯としては、吉本興業でもともとやっていた芸人が47都道府県に移住する「住みます芸人」というプロジェクトが、「アジア住みます芸人」としてさらにエリアを拡大するというお話を聞いたところが始まりで。

会社から「行ってみませんか」と連絡をもらったんですが、当時僕は実家暮らしだったのもあって「自分の力で何か始めてみたい」と考えていたので、いいチャンスだなと参加したんです。

タイへ渡ってからは、現地のテレビやCM、映画に出演したり、タイにある日本企業のイベントや結婚式などのMCをやらせていただいたり、いろいろな活動をしています。

出演したタイ映画『Brother of the Year』(2018)のワンシーン

そんななか、タイで動物の保護活動を始めたのは、どんなことがきっかけだったのでしょう。

コロナ禍に入ってからはイベントも収録もすべてキャンセルになってしまい、予定がない時期が続きました。「どうしようかな」と考えたときにふと、これだけ時間があるんだったら、この国に何か恩返しがしたいなと思って。外国人として生活し始めた当初は、右も左もわからないなか本当に多くのタイの方々に助けていただいたし、ここに住んでいるからこそいただける仕事もいっぱいあったんです。それともともと僕は動物が大好きだったので、じゃあタイで動物たちのためにボランティア活動をしよう、と。

そこでオンラインサロンやYouTubeのメンバーシップでクラウドファンディングを開設して、集まったお金は地方の保護施設などへお手伝いに行くための費用や、動物たちのご飯代に充てるという取り組みをスタートさせました。

それから間もなく、チェンマイ(タイ北部の都市)の象と触れ合える保護施設「エレファント・プライド・サンクチュアリ」と出会い、コロナ禍で観光客が激減して収入も少なくなり、維持が大変なんだというお話を伺いました。象の体重って平均600キロほどあるので、一日の食事も200キロくらい必要な上、医療費もかかる。それらを確保するために、飼育員のみなさんが無給で象たちのお世話をしたり、施設の設備を売ったりしているということだったんです。

すぐに何かしたいと感じたのですが、まずは状況をこの目で見なきゃと思ったので、現地へ足を運んで一週間くらい生活して……それまで象って「タイの代表的な動物だよな」くらいの印象だったんですけど、もうすっかり魅力に取りつかれました

ともに暮らし学ぶことで深まった、象への愛

「FANY Crowdfunding」を通じて行われた、あっぱれコイズミの「タイ象支援プロジェクト」※現在は終了しています

2022年にコイズミさんが行ったクラウドファンディング「タイ象支援プロジェクト」は、そういう経緯で始まったのですね。

はい。集まった支援金は、象たちのエサ代や薬代、施設の運営費などに活用させていただきました。

その後は象使い免許、そしてチェンマイ大学のオンラインコースを通じて、象セラピーの資格も取得されたんですよね。象セラピーとは、動物の力を借りて人の精神的・肉体的な健康状態を向上させる“動物介在療法”のひとつなんだとか。

施設でのお手伝いや募金以外に、勉強したいと感じたのはなぜだったのですか

単純に、保護活動で象と触れ合うようになり、もっと知りたくなったからです。それに、「エレファント・プライド・サンクチュアリ」で暮らす象たちは、現地の山岳民族・カレン族の方々と生活をともにしているので、象と接するためには彼らと信頼関係を築くことも大切なんです。しっかり誠意を示すためにも、学ぶ姿勢を見せないとと思ったので。

ちなみに、コロナ禍で苦しい思いをしたのは象たちだけでなく、カレン族のみなさんもでした。その施設の象使いはカレン族が務めているのですが、観光客がいない期間は収入なしで象のケアをしていたり、また伝統文化の手織り製品などの売り上げが減ってしまって。僕のクラウドファンディングでは、象の支援だけでなくカレン族の手織り製品をリターンとして購入できる仕組みにして、文化を日本へ発信する取り組みも行いました。

人々とも関係性を築き、環境に溶け込みながら活動を進めていったのですね。実際に象と一緒に暮らし、学びを深めるなかで、どんな新しい発見がありましたか?

まずは、象の感情の豊さですね。一度、山へ薬草を取りに行ったときに野生の水牛に近づいてしまったことがあって。威嚇されて「突進されたら死んでしまう」と思っていたら、僕と仲のいい象が異変に気づいて様子を見に来てくれ、水牛を追い払ってくれました。それくらい情に深いし、優しさもある生き物なんです。

それから、頭のよさにも驚かされます。たとえば、最近ある行動生態学者が発表した研究結果では、象はお互いに名前を呼び合ってコミュニケーションを取っている可能性があると明らかになっているんですよ。

感情的で頭がいいので、一度よくしてくれた人のことはいつまで経っても覚えてくれているし、それからタイの人たちの間では「象と別れるときに『さよなら』は禁句」というのが有名です。象は何語でも「さよなら」という声のトーンからそのニュアンスを理解してしまうらしく、寂しくてご飯を食べなくなっちゃうことも多いのだとか。なので、別れのときは必ず「また会おうね」と声をかけるようにしています。

初めて象に会いに行ったとき「かわいいな」という印象を受けたのですが、知れば知るほどそれだけではない魅力に気づいていって、「何か少しでも役に立ちたい」という気持ちがますます大きくなっていきました。

タイでは動物と人が同じ環境を共有している

象に限らず、動物と社会の関係については、タイと日本で何か違いはありますか?

タイを訪れると気づくことなのですが、とにかくそのへんに犬や猫がうろうろしていて、人が近づいてもまったく逃げないんですよね。「セブン猫」「コンビニ猫」という有名な言葉があるのですが、要するにコンビニやショッピングモールの中で動物たちが涼みながらくつろいでいる、といった光景が、ここでは日常的なんです。

タイのコンビニ猫

人間たちが棚の前で寝ている猫を起こさないように、そっと商品を取るみたいな状況で(笑)。お客さんもお店の人も嫌がったり追い出したりしているのを僕は見たことがないし、むしろニコニコ眺めていることが多いので、人間と動物たちが同じ環境をみんなで共有し合っているところは、タイの素敵なところだなと思います。

コイズミさんは、猫の保護活動もされているんですよね。

シャム猫というタイで代表的な猫がいるのですが、25種類ほどいたのが、今は5種類ほどに減ってしまって。バンコクから車で2時間ほどのアンパワーという場所にあるシャム猫の保護施設に募金をしたり、これ以上数が減らないように支援する活動をしています。

それから、タイの話ではないのですが、隣国のラオスに“猫寺”と呼ばれているところがあって、そこでは日本人の方がおひとりで猫を保護していらっしゃるんです。ラオスでは経済的な事情などもあり、動物の保護に関する意識がタイや日本に比べてもまだまだで、猫寺には捨て猫も絶えないそうで。なので、今後はそこのお手伝いもしていきたいなと考えていますね。

保護動物専門メディア『HARBOR MAGAZINE』

『Quick Japan』編集部は、保護猫・保護犬などの動物愛護について一人ひとりが考えていくことの重要性を発信するメディア『HARBOR MAGAZINE』をスタート。

2024年1月に刊行した第1号の表紙と特集には、愛猫家として知られるTHE RAMPAGEのメンバー、陣と与那嶺瑠唯、そして藤原樹が登場した。特集「Knowledge Saves Animals(“知ること”から始めよう)」では、かねてより動物の保護活動について関心を寄せ、保護犬と共に暮らした経験も持つ北野日奈子による、神奈川県動物愛護センターの視察レポートや、施設職員への取材記事を掲載している。

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