卒業旅行にリゾート地へ訪れた主人公たちが友情や恋愛模様を繰り広げる『HOW TO HAVE SEX』。
本作を観たお笑い界イチの映画狂・みなみかわは「共感もできないし、うらやましさも特にない」と断言する。しかし、なぜか自身の”暗い青春”を思い出したそうで……⁉
注目の新作映画をひと足先に熱血レビューする「シネマバカ一代」第5回。
忘れ難い青春
思い返すと恥ずかしい青春時代が、誰にでもあると思う。私は中学3年の秋、「自分の青春は暗くなる」と確信した出来事があった。
たしかあれは授業が終わった土曜日、昼食を食べたあとに引退間近の部活の練習が始まる時間だった。私は、通う中学校の前の文房具屋に置いていた『週刊少年ジャンプ』や『週刊少年マガジン』を友達と立ち読みしていた。何気ない日常だった。
横を通り過ぎた女子が「立ち読みなんかやめーや。はよ部活行き」と私たちに言った。なんの悪意もないただの声かけだ。立ち読みをしていた私たちに非があるのは当然のこと。なぜだろう。そのとき、とても腹が立った。マンガに熱中しているところに横槍を入れられた気持ちになった。
私には厳しめの姉がふたりいて、当時毎日いろいろと言われていたため、女子に小言を言われることにとても抵抗があった。もちろん文房具屋で会った彼女はまったく悪くない。
「ナマズは黙っとけ」
勝手に口から出た。女の子は当然びっくりしている。ついでに横の男友達もびっくりしている。
なぜナマズ? わからない。その女の子の容姿をいじったのか? 別にナマズに似ているわけでもない。もしかしたらそのときの言い方や顔、口元がナマズっぽかったのかもしれない。瞬発的に出てしまった。「ザ・美人」って言われているようなキャラではない彼女を傷つけるには、じゅうぶんな言葉だった。とてもとてもひどいことを言ってしまった。申し訳ないと思っている。
でも言い訳させてほしい。実は、私は地元の友達にはほぼ「だいこん」というあだ名で呼ばれていた。「大根」(おおね)という名字でもないのにだ。
小学1年のころ、野菜の大根に似て細長い顔だったからという理由でつけられて以来、中学3年まで同級生からはもちろんのこと、上級生下級生にも「だいこん」と呼ばれていた。たまに私の下の名前を「だいすけ」と勘違いしてる友達もいた。誰も南川と呼んでくれない。私は正直嫌だった。でも受け入れるしかなかった。嫌と言っても仕方がない。
そんな私だから、人の見かけは何かにたとえていいって刷り込まれていた。だって自分がされているんだから。
しかし私はしっかりと仕打ちを受ける。「ナマズ」発言の次の日から卒業式までほとんどの女子から無視され続けた。今となっては私が100パーセント悪いと納得できるのだが、当時は恨みに恨んだ。
「たしかに俺はひどいことを言った! でも! お前らは俺のこと『だいこんだいこん』と呼ぶじゃないか! そのくせに、俺が人を別のものでたとえたら怒るんか? 俺が怒ったことあったか⁉ 縁もゆかりもない『だいこん』というあだ名を9年間受け入れたじゃないか! 女子同士で『だいこん無視ね』と言ってるときに、違和感ないのか⁉」と。
思春期でイタかった私の思考はこじれた。結果、私が選んだのは「男子校に行く」ことだった。そんな理由で進学先を決めるなんて、なんて恥ずかしいんだろう。
女子が怖かった。暴言を吐いてしまった子には謝りたいけど、なぜ全女子に謝らないといけない空気になってるのかが怖いし、面倒だった。そして赤井英和さんや(笑福亭)鶴瓶師匠が通っていた浪速高校というゴリゴリの男子高(現在は共学)に進学した。もちろん持ち前の性格の悪さから友達とケンカしたりしたが、自然と仲直りしたりして、集団無視がないことに安心感があった。
そして大学に進学。バカながら必死に勉強して、いくつかの大学に受かった。でもなんだかキャンパスライフというのが自分にはまぶしくて、ちょっと抵抗があった。しかも3年間女子と話していない……ああまた無視される……。そうだ! 夜間に行ったら、一般よりも女子と話さなくていいのではないか?
学費も安いし一石二鳥ということで関西大学の2部に進学した。地元の友達に「だいこんはなんで、男子校とか夜間に行くん?」と聞かれても、私は何も言い返せなかった。
“異次元の青春時代”、なのに「なんだかわかる」
『HOW TO HAVE SEX』を観た。
親友3人組の女子が卒業旅行でギリシャのクレタ島に行く。主人公のタラだけはバージンで、卒業旅行中になんとかしたいと思っている。終始ハイテンションでパーティーが続くなか、ある男の子たちと出会って関係を持つことになるが……。
私にとってSFみたいな内容だった。日本と海外の文化の違いもあるが、こんな異次元の青春時代があるのかとまぶしかった。共感もできないし、羨ましさも特にない。
じゃあなんでこの映画についてコラムを書こうと思ったのか。途中から主人公のタラの「ん? 何これ?」という異性に対する違和感。仲間と思っていた人間に対する距離感。あれ?なんだかわかる……という気持ちになる。
どのような青春時代を送ってようが、少なからず、誰もがタラと共通点があると思う。私の場合、自分が蒔いた種が問題の原因。それに比べてタラは悪くないのに、男にひどいことをされ、何気ない友達の言葉に傷つく。
私とタラはまったく違う。でも「とりあえずこの状況から距離を取りたい」って、パーカーのフードを被ってしまう気持ちは誰しもあるように思える。くっきりとした善悪がない。グラデーションのように、誰しもがタラになるときもあれば、その友達の立場になってしまうことも、そこに出てくるチャラ男になることも、私のように男子校に行くこともある。
自業自得でいい思い出でもなんでもないけど、忘れ難い青春。誰にでもある青春。ぜひみなさんも、そんな青春を思い出すために観てください。
映画『HOW TO HAVE SEX』
7月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督・脚本:モリー・マニング・ウォーカー(初長編監督作品)
出演:ミア・マッケンナ=ブルース、ララ・ピーク、サミュエル・ボトムリー、ショーン・トーマス、エンヴァ・ルイス、ラウラ・アンブラー
提供:カルチュア・エンタテインメント 配給:カルチュア・パブリッシャーズ 宣伝:スキップ
(c)BALLOONHEAVEN, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE 2023
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