さらば森田が伝道師に!“あらゆる差異を超えて”誰もが楽しめるスポーツ「モルック」の可能性

2024.5.25

驚くべきモルックの敷居の低さ

私とモルックの出会いは、「リズム&ベタープレス」という行きつけの立ち飲み屋の常連さんたちと、江戸川の河川敷でバーベキューをしていたときのこと。お笑いファンの友人がモルックを持参してきたので、その場でルールを教えてもらい、さっそく試合をやってみた。モルックは説明を聞くよりも、ひとまずやってみたほうが早い。

缶チューハイなんかを片手に暗くなるまでゲームを繰り返し、その集まりがやがて「森下モルッククラブ」になった。それが2023年の1月のことで、その4カ月後にはチーム内の6名のメンバーで金沢の『第1回モルックジャパンオープン』に参加。いかにモルックの敷居が低く、手軽に始められるものなのかわかるだろう。

極端なことをいうと、ルールさえ覚えてしまえば練習しなくても大会には出場できる。だから忙しい社会人でも、いつだって始められる。もちろん、練習量の差はあからさまに試合に出る。テクニックもそうだが、モルックはメンタルも重要だ。場数を踏んだ者こそ上達していく点に関しては、ほかのスポーツと同じかもしれない。

かつて日本モルック協会が打ち出したキャッチコピーは「あした、日本代表になれる」だったが、今ではそうはいかない。ストイックに猛練習を重ねているチームも多いし、やっぱりセンスのいい人というのもいるのだ。勘のいいちびっ子や、豊富な人生経験がプレイに反映されているのであろう年配者たちにも出会ってきた。

私は自身の練習量の不足を自覚しながらも、大会出場のチャンスがあるとつい挙手してしまう。「森下モルッククラブ」は多様なメンバーで構成されているため、大会ごとに希望者がチームの看板を背負って出場するというフレキシブルなスタイルを取っている。もちろん出場するからには目指すは優勝だが、個人的にはまず仲間たちの足を引っ張らないこと……。もとはただの“酒飲み仲間”とはいえ、今では本当の「仲間」である。やっぱりみんなで勝利をつかみたい。

結果からいうと、私たちのチームは予選敗退。完敗するようなことはなかったものの、どの対戦相手も強かった。チームによっては試合に臨むその姿勢から、どれくらい練習を重ねてきたのかがすぐわかるもの。みんなで健闘を称え合ったが、やはりというべきか、自然と笑顔は薄れていく……。

しかし、「竹の湯別館」というまた別のお気に入りの飲み屋の常連陣によって結成された「竹の湯別館モルッククラブ」が予選を突破。決勝トーナメントに進んでいた。このチームのメンバーにモルックをレクチャーしたのは私なので非常にうれしい。モルックの魅力に取り憑かれた彼らはただ練習するだけでなく、そのメカニズムを分析しながら取り組んでいる。一応は私が“先生”なわけだが、今ではコテンパンにやられてしまう。その成長ぶりに、目を細めてうなずくばかりだ。

彼らやうちのチームのキャプテンは、いずれキングオブモルックのレベルにまで達するかもしれない。少なくともそのポテンシャルは秘めていると思う。そのころの私はもう、ただの書記係かもしれない。

キングオブモルック、『森田カップ』での競技中の様子
キングオブモルック、『森田カップ』での競技中の様子
キングオブモルック、『森田カップ』での競技中の様子

『森田カップ』に感じたモルックの可能性

『森田カップ』に参加してみて、改めてモルックの可能性を感じた。前回からすると参加チームの数が100チームから240チームになっていて、この数字だけを見ても“2.4倍増”といったところ。しかし、日本モルック協会の代表理事である八ツ賀秀一氏によれば、イベントの規模感としては4倍から5倍は大きなものになったらしい。

キングオブモルックのメンバーのファンなのかどうかはわからないが、ほとんど完全な初心者も少なからずいたようである。そして、これはこれでいいのだ。もちろん、“ガチ勢”とライト層の熱量の差には大きなものがある。しかしそれでも交流できるのがモルックなのだ。相手が初心者だからといって、必ずしもベテランが圧勝できるわけではない。『森田カップ』でキングオブモルックが敗北しているところも目の当たりにしたのだ(むしろあれだけ忙しい人々が、なんであんなに強いのか……)。

とはいえ、やはりキングオブモルックはうまくて強い。彼らが試合をするとなると、コートのまわりはギャラリーでいっぱいだった。メンバーの誰かが投てきするたびに歓声が上がる。おそらくお笑いファンであろう人々の姿も多くあったが、キングオブモルックの面々のプレイに対して批評的な眼差しを向けている者の姿もたしかにあった。

私はモルッカーである以前にライターなのでぜひキングオブモルックのメンバーに声をかけてみたかったが、ついぞその機会は訪れなかった。これもまた、現在のモルック人気を物語っていると思う。

『森田カップ』決勝戦の様子
『森田カップ』決勝戦の様子
『森田カップ』優勝チーム「RATEL Y.Y」
『森田カップ』優勝チーム「RATEL Y.Y」

この大会に集まった人々の層は、とうていカテゴライズできないもの。ちびっ子から年配者までいて、誰もが春の日差しを浴びて笑顔を輝かせていた(中には私のように曇っている人たちも……)。とにかく、モルックとはあらゆる差異を超えて誰もが楽しめるスポーツなのである。

そんなモルックを日本に持ち込んだのが、協会の代表理事である八ツ賀氏。フィンランド留学時にモルックにハマった彼は、2011年の帰国の際に30セットを持って帰ってきたのだという。その後、日本にいるフィンランドカルチャー好きの人々に紹介したことが、今のモルックブームのすべての始まりらしい。

そこでジワジワと人気が広がっていたところ、森田たちがモルックに出会ったことにより爆発的な勢いで普及。現在も右肩上がりでモルックの競技人口は増え続けている。モルックをモチーフにした日本映画『TODOKU YO-NA』も公開準備中である。

そう、今、モルックがアツいのだ。

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Written by

折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。

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