『病院ラジオ』が生まれるまで
『病院ラジオ』はもともとベルギーで生まれたドキュメンタリー番組『RADIO GAGA(ラジオ・ガガ)』がもとになっている。ラジオパーソナリティがラジオブースのついたキャンピングカーで各地を回り、48時間限定のラジオ局を開設するというシリーズで、その映像を国際会議で観たあるディレクターが心を動かされ、この企画を立ち上げたそうだ。
そのディレクターはNHKのホームページで2023年3月に公開された「「病院ラジオ」が生まれるまで」というコラムでこんなふうに書いている。彼女は10代のころに家族である母親の、そして自分自身の入院体験で孤独感を強く覚えたそうだ。
生と死が交錯する病院。さまざまな人たちが、思い思いに過ごしている病院。いろんな世代のたくさんの人が過ごしているけれど、それぞれがどんな思いで過ごしているのかは知らない。誰かに打ち明けたいけれど、誰にも言えない思い。ひとりぼっちの孤独。
もしあのとき、「病院」に出張ラジオ局がきて、思いを話せる機会があったら。好きな曲をかけてもらえたら。ラジオで話す勇気がなくても、誰かの思いや日々の営み、音楽に触れて、笑ったり泣いたりしながら、時間を過ごせたら。
ひとりぼっちに感じる孤独な気持ちも、少し和らぐかもしれない。もしかすると、この世界には私と同じように孤独を感じている誰かがいるかもしれない。その誰かに「病院ラジオ」を届けたい。
「病院ラジオ」が生まれるまで
いつの日か必ず力になってくれる視聴経験
奇しくも“入院患者の孤独”について、2024年2月に放送された「広島赤十字・原爆病院」編で印象的なやりとりがあった。サンドウィッチマンが白血病を患う15歳の少女から「寂しくなるときに、ひとりじゃないというのはわかっているけど、気分がどうしても孤独になる」と相談を受けたときのことだ。
「誰しもそういうことを考える時間はある。そういう寂しさを感じる時間は戦っている時間だと思う。ネタを書いたり、覚えているときって、誰も何もできない。自分の問題だから。人と分かち合えないときに感じるんだと思う」(富澤)
「みんなある。たぶん入院しているからとかではなくて、ほかにお友達とか、日常を送っている人たちもきっとそういう時間があると思う。俺もあるし、富澤にもある。だから、私だけじゃないと思うのも大きいかも。寂しいって思ったら、お父さん、お母さんに言ってもいいと思うし」(伊達)
ラジオを聴くという行為自体は大した意味はない。ラジオ自体は誰かを救ってくれるわけでもないし、人生に起こる問題を根本から解決してくれるわけでもない。ディレクターの言葉にあるように、本当に「少し和らぐかもしれない」程度だ。でも、そんな「少し」が力になる瞬間がたしかにある。テレビ番組だけれど、『病院ラジオ』からも毎回それを感じる。
この『病院ラジオ』に出演した患者や家族がそうであるように、誰の身にも突然、病気やケガがやってきて、「絶望」が突きつけられる瞬間がある。生きているのだから、どんな人間でもそれは絶対にやってくれる。自分より先に、身近な人間に訪れるかもしれない。そんなとき、『病院ラジオ』を観た(聴いた)経験は少しだけかもしれないが、必ず力になるはずだ。
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