お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、ピン芸人・本日は晴天なり。
キャバクラには、今は許されるかもしれないけど、おじさんになったら完全にアウトだなと感じる2、30代も来店するという。今回はそんな「拗(こじ)らせ予備軍」に向け、「拗らせ50代」にならないための注意点を伝授する。
見た目の変化は受け入れよう
職場の同僚5人という団体客を接客した際、私の隣にいたお客様が「いくつに見える?」と聞いてきた。キャバ嬢は想定より10歳くらい下の年齢から、さらに3歳くらい保険をかけて答えるのが一般的。そこで当時、35歳だった私は「私の2、3個上くらい?」と回答した。
すると彼はムッとした顔をして、「なんでだよ! 33歳だわ!」と言った。じゅうぶんに配慮して答えたにもかかわらず年下だったことに驚いて、思わず頭頂部へ目をやってしまった。そう、彼はハゲていた。頭頂部もハゲていたし、オデコ側もかなり後退していた。
冷静に顔面のみをチェックしたら、たしかに肌はつるつるでシワもなく、かなりのベビーフェイス。「なんで年上に見えたの?! よく童顔だって言われるんだけど?!」とブツブツ言っていたので、私は「大人っぽかったから!」と苦しい言い訳をした。
しかし、どんなに童顔でもパッと見でハゲの印象が残るので、年上に見えてしまうものだ。
そんなやりとりを見ていた彼の先輩らしき人物が、「いや、お前ハゲてるからだよ!」と言った。酔っ払った勢いで口がすべってしまったのだろうか。そんな先輩に彼は、「いや、ハゲてないっすよ!」と言い返した。このセリフで本人にハゲの自覚がないと悟った先輩は、「そっか」とすぐさま引いていたが、彼はハゲていた。認めたくないのか、気づいてないのかどっちかわからず、私は話題を変えようとした。
そのとき、彼は隣の卓のお客さんをちらっと見て私に「あの人はハゲてるけどねぇ」と耳打ちしてきた。あやうく「おめえもだから」と言うところだったが、さすがにこらえた。
男友達同士はハゲてきたら教えてあげないものなのだろうか? 対策を講じたほうが相手のためだと思うが、よけいなお世話になってしまうのだろうか。ハゲに罪はないが、いつもまでも若い気持ちでいると、「年相応」が受け入れられていない、拗らせ50代になってしまうので要注意だ。
容姿でカバーできるのは若いときだけ
とある俳優さんが、知り合いに連れられて来たことがあった。申し訳ないことに私は存じ上げなかったのだが、某界隈ではそれなりに人気があるようで、ファンミーティング的なものも定期的に開催していたらしい。
俳優さんはカラオケを歌いながら、私に「あすなろ抱き」をしてきた。「あすなろ抱き」を知らないZ世代もきっとこのコラムを読んでくれていると信じて一応説明すると、90年代にフジテレビで放送された『あすなろ白書』というドラマの中で繰り出された木村拓哉の伝説の技のひとつ……いわゆるバックハグである。
彼があすなろ抱きを敢行した意図としては、“私に触りたい”というより、私にサービスしてくれているようだった。わかりやすく説明すると、“俺にこんなことされてうれしいでしょ?感”。しかし私は“イケメンにハグされてラッキー!”とは思わず、はたまた“セクハラだ!”とも感じず、“この人は人生で一度も拒否されたことがない人なんだぁ~“と思った。
女の子が自分にハグをされたら喜ぶと信じて疑わないピュアな心! 誰からも拒否されたことのない人はけっして図々しいわけではなく、こういったことをピュアなサービス精神でやってのけるのだ。
この根性に感心した私は、ファンの子にしてあげな?とも思った。安くないお金を払ってファンミーティングに来てくれるファンの子に歌いながらひとりずつバックハグしてやれよ、と。
昔、仕事でご一緒した初対面の女優さんに、あいさつをして5分くらいで私が持っていたカフェラテを「飲みたい! ひと口ちょうだい!」と言われたこともあった。
驚きのあまり「ゔああん」と変な唸り声が出たが、彼女はそれが返事だと思い、カフェラテを口へ運んだ。ストローのやつだよ? というか「YES」しか想定していなかったかもしれない。
これも嫌がる人なんていないと信じて疑わないピュアな心がなせる技だろう。自分が潔癖なわけではなく、相手が嫌がるかも?と考えてしまうので、私なら親しい友人にすらできない。
このふたりに共通しているのは、そこらへんではまず見かけないほど容姿端麗だったこと。
しかし、見た目がズバ抜けてきれいでも同じようなレベルの人間がたくさんいるなかで育ったら、自己肯定感もきっとここまで高くならないだろう。芸能人でもウソかホントか「私なんて……」と口にする人はいるのだから。
つまり、先天的な人懐っこさは、幼少のころから挫かれることなく、ちやほやされてきた人間に備わるものだと個人的には思っている。彼らはその条件を満たした環境で大人になったピュアッピュアの美男美女なのだ。恵まれている。
しかし人間とは残酷で、すべて受け入れられるのは、あくまできれいな容姿が保たれている若い間だけ。おじさんになってしまえばバックハグを喜ぶ女性も格段に減るだろう。この人が素晴らしい人格なら話は別だが、初対面のキャバ嬢にバックハグをかます人が紳士とは言い難い。
ちなみに彼とはSNSなどでも一切つながっていないので今、何をしているかはわからない。
シャンパンを侮るなかれ!
シャンパンを飲んだことがある人はわかると思うが、シャンパンは普通のお酒よりもあとから酔いが回る。飲んだ瞬間は平気でも、あと追いのダメージがハンパない。だから、私は初めてシャンパンを飲む“シャンパン童貞”が、「ジュースみたいだ!」とガバガバ飲んで、トイレで撃沈するというダサい姿を何度も目撃している。
若い男性にありがちなので、常連が年長者ばかりの店ではほとんど見かけなかったが、シャンパン童貞によるやらかしは、ほぼほぼフォーマット化されている。
ただの炭酸ジュースのように感じて、「よゆう! よゆう!」と言いながら、ガバガバと飲んでしまう。そして、その数十分後に、卓ゲロ(席で吐くこと)しているシャンパン童貞を何人も見てきた。シャンパンを飲むことが大人の仲間入りだと感じるのだろうか。
涙目で床にうずくまり、無様に吐き散らす姿はなんともみっともない。苦しいだろう、つらいだろう、気持ち悪いだろう。少しかわいそうな気もするが、誰に煽られたわけでもなく、カッコつけて自らグビグビと飲んだせいなのだ。ただ、遅かれ早かれ、「シャンパンとはグビグビ飲むものじゃない」と知れたのだから、私はシャンパン童貞を捨てた“脱・シャンパン童貞”を見るたびに、「ひとつ成長できたね、よかったね」と優しく祝福している。
まだ、シャンパンデビューしていないシャンパン童貞に告ぐ。シャンパンは絶対にぐびぐび飲むな。
それに、偏見だがシャンパンを「おいしい」と言う人は全員強がりだと思っている。率直に「まずい!」と言いながら、お祝いの場だからしゃーなしにシャンパンを開ける年配のお客様も少なくないからだ。
ちなみに私は、身長173センチというデカさから、一升瓶を片手で抱えて山賊のように飲んでいるというイメージを持たれがちだが、実際はほぼ下戸で、過去にシャンパンでもやらかしている。だから、やらかしの先輩からのアドバイスだと思って素直に聞き入れると、黒歴史をひとつ減らせるかもしれない。
拗らせ予備軍たちは、“早めの気づき”で「良客」「良おじ」へのルートがまだ残されている。文句ではなくアドバイスだと思って自分自身の言動を振り返ってみてほしい。
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