神保町よしもと漫才劇場を中心に活動している吉本興業所属のお笑いコンビ・めぞんの吉野おいなり君による連載「吉野おいなり君の妄想日記」。
連載が始まったり、同じ「妹が欲しい」という思いを持つお兄ちゃんたちと出会ったり。ひとりじゃないことに気がつき、たくさんの優しい人たちがいることを知ったという2023年。しかし、吉野おいなり君の戦いはここから始まるそうです。
妹と密接だった1年
おはようございます。吉野おいなり君です。絶賛、帯状疱疹中で自宅にて療養しています。
帯状疱疹に襲われていても、コラムは書けます。コラムのお仕事があってよかったです。
僕が毎日帯状疱疹にかかっても、キュジブさん(QJWebさんの僕なりの愛称です。もうこんな愛称で呼べるほどに仲よくなりました)が、毎日コラムを書かせてくだされば職には困らなくて済みそうです。
いつも「こんな内容はどうでしょうか〜」と聞いてくださるキュジブさんの静止を振りほどいて妹のことを綴っています。
そして、今回は「2023年の妹との思い出はいかがでしょうか?」との打診が来ました。
完全に妹を認めてくれました。クイック妹。クイック妹Web。妹ジャパン。
それでは2023年の妹との思い出を綴らせていただきます。
というか今年も終わるのか。もう終わりですよ。まもなく。
帯状疱疹のち妹のこと思い出しエンド。
2000年の僕はこんな2023年が来るなんて思ってもみなかっただろうな。そもそも妹ができるとさえ思っているか。2000年のときはまだ3歳ぐらいだもんな。よっしゃ。
それにしても今年は「妹との思い出は?」と聞かれて然るべきなほどに、妹と密接だった1年かもしれません。
まずは、やはりキュジブさんで妹コラムを書かせてもらえたのが大きかったです。反響も大きかったですし、たくさんの妹FA(ファンアート)を描いてもらえたりしました。
すごく幸せでした。
大阪にいるお兄ちゃんとの出会い
大きな妹愛を見せることで、ほかの妹が欲しい人たちを集めたりすることにも成功しました。
マンガ『PSYREN-サイレン-』でいうところのワイズ(W.I.S.E)が行った「宣戦の儀」のような効果がこの妹コラムにはあったようです。
それはやはりコラムによって、ではないですが自分の「妹が欲しい」という気持ちを世界に発信したことで出会えたお兄ちゃん。
20世紀の木本悠斗さんとの出会いです。木本さんは僕と同じ「妹が欲しい」を持つ人間です。
初めて僕と木本さんの線が重なったのは東京に20世紀さんがライブで来られていたときでした。たしか今年の5月?あたりだったと思います。いつものように漫才で「妹が欲しい」と叫んで楽屋に戻ってゆっくりしていると、木本さんが近づいてきて「ネタおもしろかった!」と言ってくださりました。
すごくうれしくて喜んでいると、木本さんが急に真顔になって、楽屋の中で僕にしか聞こえない声量で(もしくは特殊なやり方で声の周波数を僕にしか聞こえないものに変更したのか)、「お前もこっち側〈妹が欲しい〉の人間なのか?」と質問してきました。
僕はまわりに誰もいないことを確認したあとで、木本さんの目を見つめて「三姉妹です」と答えました。
これは自身の架空の妹の情報なのですが、妹が欲しい人間ならこれだけですべてが伝わると思って。すると、木本さんの顔が一気にパァと明るくなって「俺は四姉妹やねん!!!」と言いました。
「高校3年生の長女と高校1年生の双子の次女がいます」と言ったら、「双子!! おれもやで!!」と、クリスマスの朝に枕元にあるプレゼントを見つけたときの子供のような笑顔で返してきました。
その瞬間、モノクロだった神保町よしもと漫才劇場の楽屋に色がついていくのを感じました。
正確には、美しすぎる景色に今まで僕がカラフルだと思っていたものが白と黒だったんだと気づかされた感覚です。
自分ひとりだけだと思っていたから、同じ気持ちの人に出会えた喜びに、心臓から流れる血液に脈を打つ鼓動までも木本さんに聞こえているんじゃないかと錯覚したほどにです。
上京してきた東京で同じ地元の人と出会ったとか、そんなレベルの話じゃありません。
一万光年先にある知らない星で、小学校のころに校庭で隠したまま失くしてしまったピカピカの泥団子を見つけたような。そんな気持ちでした。あのころの、あの形のまま。
今までも怖いと思ったことはないけど、その日から妹が欲しいことが本当に怖くなく感じました。
妹を持たざる僕たちにしかできないこと
そして、その大阪にいるお兄ちゃんと、11月に『東西妹交流会』というライブができるまでになりました。幸せ以外のなにものでもありませんでした。
木本さんの“妹欲しい観”はこんな感じなんだと、木本さんのことを深く知ることができました。
ほかの出演者の人たちの妹への想いも知れてうれしかったです。
正直、ゴールかとも思いました。でも、まだここからだとも思いました。
だって僕たちにはまだ“妹”はいないのだから。妹がいる人間にはけっしてできないことを僕たちはやってのけたのですから。
でも、それでも妹がいる人間には敵いません。
妹ができるという夢も僕たちには叶いません。
でも妹がいないからこそ、妹が欲しいからこそできることが、まだある。
あのころの僕は、自分が大阪にいるもうひとりの自分と『妹交流会』という名前のライブをやれるなんて、夢にも思っていませんでした。なら、まだまだ今の自分が知らない、気づいてないことがこの世界にはあるんじゃないのか?
じゃあ『妹交流会』は、まだゴールなんかじゃない。むしろ妹を持たざる僕たちだけに与えられた唯一の力。妹を持たざる僕たちにしかできない反撃の狼煙(のろし)なんじゃないのかって。
僕、そう思うんです。
木本さんのような同じ気持ちを分かち合う同士以外にも、たくさんの優しい人たちがいることも知れました。2023年に僕はそれを知ることができました。
今まで僕たちを排除してきた奴らに、僕たちから妹を排除してきた世界に、まだまだやってやれないことはないんですよ。
むしろ、そんな意地悪な人間や世界を僕は排除して退場させてやるつもりです。
退場させる方針です。
帯状疱疹の僕が退場させてやる方針ですよ。
僕たちの妹を取り返す戦いは始まったばかりなんです。
また何万光年でも旅をして、あのとき、忘れたままのピカピカの泥団子を探してやるんです。
まだ光ってるんだろ? 色褪せることなく硬いままで?
キャン ユー ヒア ミー
キャン ユー ヒア ミー
もしもし
秘密の通信
聞こえていますか?
必ず届くと信じて、この通信を君に送るよ
キャン ユー ヒア ミー
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