SWIM SWEET UNDER SHALLOW『oderon』:PR

誰でも音楽を作れる時代だからこそ聴きたい、ギターポップの核心に迫るSWIM SWEET UNDER SHALLOW

2020.3.6
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文=渡辺裕也 編集=田島太陽


ギターサウンドの男女ツインボーカルバンド、SWIM SWEET UNDER SHALLOW(以下、SSUS)のニューアルバム『oderon』の配信リリースがスタートした。

80年代から00年代のあらゆる音楽を参照しながら、メンバーふたりですべての楽器の演奏、録音、ミックス、マスタリング、ジャケットデザイン、MV制作を行うという特異的な活動をつづけてきたSSUS。『oderon』は、アルバム全体で1日の流れを表現するというコンセンプトに立ちながら、これまでの方法論をしっかりと糧にしており、大きく変貌を遂げて飛躍する作品になるだろう。その音像から、魅力と真価を解説する。

過去の歴史的な手法は、すべて公共物になった

SWIM SWEET UNDER SHALLOW
SWIM SWEET UNDER SHALLOW

ギター主体のポップス/ロックは、時代と共にいくつもの手法と技術を生み出してきた。そのメソッドは次世代へと引き継がれ、着実に変化と進化を遂げている。

今はそんな数々の手法がすべて並列にある時代だ。誰もがインターネットを介して過去のアーカイブにいつでもアクセス可能な現代は、いわばすべてのメソッドがアーティストの前で横並びになっている状態。かつてのように周期的なリバイバルで音楽シーンを語るのはもはや困難だ。歴史が育んだ手法を公共物として取り扱い、それを自由に組み合わせることによって音楽を作る。それが21世紀を生きる音楽家たちのスタンダードなのかもしれない。

SSUSが作る音楽にも、そうしたポップミュージック史との無邪気な戯れが垣間見える。2011年のデビューアルバム『elephantic』以来、コンスタントに作品を発表しつづけてきたSSUS。それは平たく言えばギターポップという言葉に集約できなくもないが、実際にそのディスコグラフィに触れてみればわかるとおり、このバンドのリファレンスとする音楽は極めて多岐にわたる。しかもそれは80年代のトゥイーポップ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに代表されるシューゲイズ、90年代のポストロック、あるいは00年代以降の北米インディなど、まさに時代を股にかけたものだ。

極めてシンプルでありながら、ダイナミックなサウンドへの変貌

Hiroki tanaQa
Hiroki tanaQa

これまでのインタビューなどに目を通すと、SSUSはかねてからスーパーカーをフェイバリットに挙げているようだ。同時代のシューゲイズやドリームポップに触発されたところから始まり、徐々にエレクトロニカへと接近していったスーパーカーの変遷は、たしかにSSUSの音楽性とも重なる。あるいは男女混声による低体温のツインボーカルも、そうした印象をより強めているのかもしれない。

一方で、SSUSはふたり組のデュオ編成をとっている。つまり、パーマネントなドラマーやベーシストや鍵盤奏者はおらず、基本的にメンバーふたりでほぼすべてのパートを演奏しているのだ。そのときどきのリスナーとしての関心、あるいは思いつきの音楽的アイデアを、まずは自分たちの手元で再現し、それをPC上で音像化していくこと。おそらくそれがSSUSの主な方法論なのだろう。もっと言えば、SSUSはあくまでも「録音」に重きを置いたバンドなのだ。少なくとも2016年に発表した前回のアルバム『dubbing』までの彼らにおいては。

ところが、そんなSSUSはここにきて大きな変貌を遂げようとしている。それを高らかに告げるのが『oderon』だ。SSUSのふたりがこの作品で実践しているのは、端的に言うと「正統派ギターポップへの回帰」。いや、彼らのキャリアを遡ってみれば、むしろこれはSSUSにとって初の挑戦といってもいいのかもしれない。

アルバム全編に通底しているのは、アコースティックサウンドも織り交ぜた数本のギター、そしてベースとドラムによる、極めてシンプルなバンドアンサンブル。プログラミングはおろか、おそらく鍵盤も鳴っていない。しかもその音像はこれまでのホームレコーディング然としたものではなく、ひとつひとつの録り音がしっかりと分離した、非常にダイナミックなバンドサウンドだ。

新譜と共に、6年ぶりのライブへ

SSUSが今こうした作品に取りかかったのは、やはり経験の積み重ねと演奏技術の向上によるものが大きいはず。エディットやオーバーダビングを駆使してフレキシブルに録音作品を創作していくなかで、さまざまな手法とスキルを身につけてきたのだろう。

Midori Yoshida
Midori Yoshida

そんな彼らが今作において目指したのは、よりよい演奏と録り音、あるいはメロディがさらに引き立つようなアレンジ、というシンプルな着地点だった。それはテクノロジーの進化によって音楽制作が容易になった現代において、ギターポップの録音を突き詰めてきた彼らの境地とも言えるのかもしれない。

そして、彼らは今その真価をライブという形でも発揮しようとしている。2020年3月、SSUSはなんと6年ぶりにステージ上でパフォーマンスを披露する。デビュー作から10年という節目を目前とした彼らにとって、きっとこの日はバンドが次のフェイズに向かうためのターニングポイントになるだろう。

『oderon

SWIM SWEET UNDER SHALLOW『oderon』

収録曲
1. Morgenrot
2. morning
3. BOIL BOIL
4. water
5. picture
6. Lunch
7. devil
8. fenomeno marathon
9. NIWA
10. small hours

▶︎購入・配信ページ

SWIM SWEET UNDER SHALLOW presents 遠泳会 vol.1

SWIM SWEET UNDER SHALLOW presents 遠泳会 vol.1

会場:月見ル君想フ
日時:2020年3月20日(金祝)18時開場/18時30分開演
チケット代金:前売2,500円/当日3,000円(イープラス、ぴあにて発売中)
出演:SWIM SWEET UNDER SHALLOW、集団行動、君島大空

※「遠泳会 vol.1」は新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、開催が見送られることになりました。中止の場合は払い戻しを行い、延期の場合は次回公演時にお手持ちのチケットがそのまま有効となります。詳細は公式サイトをご確認ください。



  • SWIM SWEET UNDER SHALLOW

    Hiroki tanaQaとMidori Yoshidaによる、ギターサウンドの男女ツインボーカルバンド。2011年1月にファーストアルバム『elephantic』、11月にセカンドアルバム『moslight passion』をリリース。2019年から『wéar dówn』『picture e.p.』『water e.p.』と立てつづけに新作を発表し、『oderon』が約3年半ぶりのフルアルバムとなる。

    ▶︎SWIM SWEET UNDER SHALLOW
    ▶︎SWIM SWEET UNDER SHALLOW(@SWIM_info)
    ▶︎SWIM SWEET UNDER SHALLOW(@swim_photo)


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渡辺裕也

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渡辺裕也

(わたなべ・ゆうや)音楽ライター。1983年生まれ。福島県二本松市出身。

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