写真を撮ることにこだわりを持つアーティストや俳優・声優による連載「QJWebカメラ部」。
土曜日はアーティスト、モデルとして活動する森田美勇人が担当。2021年11月に自身の思想をカタチにするプロジェクト「FLATLAND」をスタート、さらに2022年3月には自らのフィルムカメラで撮り下ろした写真をヨウジヤマモト社のフィルターを通してグラフィックアートで表現したコレクション「Ground Y x Myuto Morita Collection」を発表するなどアートにも造詣が深い彼が日常の中で、ついシャッターを切りたくなるのはどんな瞬間なのか。
“私”という感覚
第60回。
先日、久々に出会った芦ノ湖。
この日は視線の先の山々が隠れるほど霧が深く、大きな芦ノ湖がずいぶんと小ぶりに見えた。
柵の曲線に沿うように並びながら、見応えある景色が遮られたことに嘆く観光客の声を耳に入れながら、自分はぼーっと無人の舟を眺める。
私にとっては美しい。
濃霧の漂う白が鬱々とした空気感を醸し、そこを不気味に浮かぶ何艇もの舟が浮世を感じさせる。
まるでこの世から人がいなくなったような、そんな静けさ。
都会のたび重なる交差の連続でわからなくなった“自分”を抜け出して、“私”の感覚を取り戻すにはあまりにも心地よい空間だった。
まわりが嘆くなか、そんなことを思う私はおかしいのだろうか。
みんながグレーな気持ちになっているこのぼやけた景色は、私にとっては心ほどける柔らかな白で。
みんなが求める鮮明に広がった遠い景色は、私にとっては手に余る色々で。
きっと普段はそんな“私”を“自分”が覆っていたのだろう。
そんなことを思った。
そして私という感覚を違和感に思えた先ほどの暗い数秒に諦めを告げた。
冒頭にこの日の芦ノ湖を小ぶりと書いたが、“私”は本当はそう思わない。
むしろその先の想像をふくらませるキャンバスのように感じている。
そこに浮かんだ私なりの世を描き、似た感覚を持つ人生の画家たちと静かな水面に顔を映しながら話をしてみたい。
そんなことを思った。
先日出会った芦ノ湖の話。
中山莉子(私立恵比寿中学)、セントチヒロ・チッチ(BiSH)、長野凌大(原因は自分にある。)、東啓介、森田美勇人、南條愛乃が日替わりで担当し、それぞれが日常生活で見つけた「感情が動いた瞬間」を撮影する。
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