頼むからAマッソ『滑稽』を観る前の人生に戻してほしい

2023.3.17
Aマッソ滑稽

文=かんそう 編集=鈴木 梢


2023年2月、Aマッソのライブ『滑稽』が東京で始まり、3月には大阪でも上演された。演出には『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』でもタッグを組んだ大森時生プロデューサーを迎え、同番組放送時に感じられた異質さや不穏さから、『滑稽』にも期待と不安の声が集まっていた。

今回は『滑稽』(東京公演)の配信を視聴したブロガーのかんそうが、視聴後の率直な感想と作品としての魅力を、ネタバレなしで語る。

『滑稽』はコントか、それとも別物か

先日、Aマッソの単独ライブ『滑稽』(東京公演)を配信で観たのだが、あれからずっと生まれたての子鹿のようにガタガタと震えながら生活している。私はいったい何を見せられてたのだろうか。観る前と観たあとで完全に人生が変わってしまった、今すぐに時間を巻き戻したい。あのころに戻れるならなんだってする、清らかな心を持っていた自分に……。

お笑いライブを観ていたはずが、気がつけば地獄観光ツアーに参加させられていた。序盤「お笑いライブ初めてだよ、っていう方(いますか)?」「変だよ。これから来るのはおかしいよ」というくだりがあったが、マジでおかしいし「これが普通のお笑いライブなんだ」と思われたらどうするんだと言いたい。

加納が放った渾身の「コマネチ」からまさかこんなことになるとは。もう目に映るものすべてが信じられない。Aマッソの「A」の文字が本当に怖い。絶対に心が乱れる逆サウナ、確実に寝つきが悪くなる逆ヤクルト1000だった。

ここで起きたすべてをひっくるめて「壮大な一本のコント」として観るか、独立したものとして観るかでまるで意味が変わってくる。虫の裏側を見ているような気分になる謎の映像と、底抜けにバカバカしいAマッソのネタのギャップ。倫理観が吹き飛んだボケ、トガり散らかしたツッコミ、「いつもどおり」なはずのふたりに対する微妙な違和感。その違和感は徐々に大きくなっていき、バラバラだと思ってたものが線と線で結ばれ、複雑に絡み合い、ひとつになった瞬間、ネタと映像が融合した歪なキメラが目の前に現れ、恐怖や吐き気と同時にとてつもない快感が襲ってきた。

「最悪」だからこそ得られる感情と、問いただされる価値観

「おもしろい」とはなんなのかを極限まで突き詰めた結果にこのライブが生まれたのなら、心の底から「この変態ども!!!!!!」と叫びたい。「不愉快」「悪趣味」「最悪」という言葉はこのライブを作り上げた人間にとって最高の褒め言葉でありごちそう、性癖の歪んだお笑いマッドサイエンティストたちの集大成がここにはあった。

以前、ミュージシャンの米津玄師が、YouTubeのラジオ番組で自身の楽曲「ETA」についての感想を語っていたとき「最悪なことをフィクションで観ることによって、翻って生を感じる」と言っていたのだが、今回『滑稽』で感じた「それ」は、米津玄師の曲を聴いたときに感じる恐怖と幸福のマリアージュと同じだった。

グロテスクだからこそ、最悪だからこそ摂取することのできるおもしろさやエロさがある。「ふざけるなお笑い観てなんでこんな思いしなきゃならねぇんだよやってくれたなオイ」と苦虫を噛み潰したような顔をしつつも、心の中では「たのむもっとちょうだい地獄もっとちょうだい」と懇願してしまう。『滑稽』の作り出す最悪によってヨダレを垂らすほど圧倒的な「生」を感じていた。自分もまたどうしようもない変態だったのだ。

すべてのお笑い、いやすべての出来事の中にある「これを笑っていいのか?」という価値観を問いただされたし、笑っている自分の感覚が異常なのか、それとも笑われた人間が異常なのか、異常の反対が「正常」なら、その正常とはいったいなんなのか……正常とは本当に正常なのか……正常であるということ自体が異常なのではないか……では異常とはいったい……そんな意味不明過ぎる自問自答が脳内でグルグルして血管がちぎれそうになった。

正直、このライブをどういうテンションで他人に勧めていいかまったくわからない。下手にネタバレするとおもしろさがゼロどころかゲロになってしまう。もし誰かに「Aマッソの『滑稽』どうだった?」と聞かれても、具体的な内容は一切話せない。『ONE PIECE』でバーソロミュー・くまにすべての痛みを押しつけられたロロノア・ゾロのように「何もなかった」と歯を食いしばることしかできない。

とりあえず人類全員黙って『滑稽』を観て同じ気持ちを味わってほしいし、最後には変なダブルピースしながらいっぱい笑ってほしい。らひずみーふぁにずみーおーはぃでぃきあす。

https://www.youtube.com/watch?v=rwhQqYPnMn0

一部編集版視聴期間:2023年3月15日(水)18時〜2023年3月31日(金)23時59分
チケット料金:2500円(税込)
販売期間:2023年2⽉18⽇(⼟)17時〜2023年3⽉31⽇(⾦)19時

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  • Aマッソ『滑稽』

    一部編集版視聴期間:2023年3月15日(水)18時〜2023年3月31日(金)23時59分
    チケット料金:2500円(税込)
    販売期間:2023年2⽉18⽇(⼟)17時〜2023年3⽉31⽇(⾦)19時

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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