現役女子高生が「エモい」「チルい」「クソデカ感情」について考える。流行する若者言葉の共通点は?

2023.1.30
奥森皐月

文=奥森皐月 編集=高橋千里


若者の間で使用されることが多い「エモい」「チルい」などの言葉。タレント・女優の奥森皐月は、自身も18歳の現役高校生でありながら、これらの若者言葉に思うことがあるという。

現役高校生が「若者言葉」について考えてみる

人一倍、言葉には敏感なつもりだ。人前で話したり人目につくところで文章を書いたりしているので、表現にはかなり気を遣っている。NHK Eテレ『にほんごであそぼ』にも15年出演していることだし。頭の片隅にその意識がある。

SNSに投稿する簡単な文章でも、表現が間違っていないか調べながら書くことが多い。これは言葉の誤用を避けたいのもあるが、それ以上に調べるのが楽しいから。

当たり前に使っている語でも、実は本来の意味とは違う使われ方だとわかったときや、似た意味の表現の細やかな違いを知ることができたときはたまらなくうれしい。特段難しい言葉でなくても書いては調べ、調べては書く。その繰り返しをしながら生活している。

奥森皐月
奥森皐月

待てよ。こう記してしまうと、今後私がどうしようもないことを綴っていても「調べながら書いているのだなぁ」と思われる可能性があるのか。恥ずかしい。

やっぱり調べていないことにする。言葉がたくさん入ったチップスターの空き箱からランダムに引いたものだけで文章を書いていることにしよう。そうしよう。細くて取り出しづらいだろうに。

私はまだ高校生なので、若者言葉と触れ合う機会もある。さすがにギャル流行語を使いこなせるようなナウいヤングではないが、少なくとも身近な同世代は若者言葉を使っている。

目まぐるしく新しい言葉が生まれ、流行が変化していく様子をおもしろいと思うが、中には理解できない表現やあまり好ましく思わない言葉もある。若者が若者言葉に疑問を呈するという少し奇妙な話ではあるが、若者だからこその発見があればいいなと思う。

今の若者は「ネット」という言葉を使わない

年々言葉の流行り廃りのスピードが速くなっていると感じるのは私だけだろうか。また、トレンドが多岐にわたっているとも思う。

ひと口に若者言葉といっても、TikTokから流行っているもの、インフルエンサーが発源のもの、ツイッターで多用されているもの、オタク文化から生まれているもの、などとにかく種類が多い。

少し前なら、掲示板などで使われている言葉が「ネットスラング」という括りになっていたが、最近はあまりネットスラングというまとまりにはなっていない気がする。インターネットの中でもさらに細分化されてしまったからではないか、というのが私の考えだ。

スマホを操作する人2
※画像はイメージです

そういえば今の若い子は「ネット」という言葉自体使っていない気がする。今の高校生は調べ物をするのにブラウザを使わず、インスタグラムかTikTokの検索窓に調べたいことを入力しているくらいだから。

こればかりは私も未だに受け入れられないのだが、現にそのような場面に出くわしたことは幾度となくある。ニュースまでもTikTokで観ているから、おそらく誰も5chまとめサイトを見ていない。当然ながらNAVERまとめも見ていない。

「エモい」は使い方が漠然としている

若者言葉や流行語に対して、どうしても抵抗感がある。そう簡単に新しい言葉には乗らないぞ、という意地なのだろうか。だいぶスタンダードになってきたが、いまだに「エモい」をまっすぐ使えた試しがない。

「エモい」とはなんなのか検索してみると、1文目に「なんとも言い表せない素敵な気持ち」と出てきたのでたまげた。なんとも言い表せないものを表せているのだから、みんなこぞって使うわけだ。

ただ、使い方が漠然としている上に、少し努力すれば日本語でより的確な表現ができる気がする。

奥森皐月
奥森皐月

正直「この写真エモい感じで撮れたな」と思ったことはあるが、声には出さなかった。小さく抵抗をしつづけていたのだが、いよいよ「エモい」は生活に侵食してきていて、そろそろ当たり前に使ってもいいころな気がする。

狭間でひとり勝手に苦しんでいるのはアホらしいが、これはこれでおもしろいのでもう少し苦しんでみることとする。いつまで「エモい」を使わずにいられるだろう。

「チルい」はダサく感じるので使いたくない

同じく英語から形容詞に変身させられた「チルい」もすました顔で使うことは無理だ。そもそも「チル」がカタカナだとダサ過ぎやしないか。「chill out」の文字から見える落ち着きのある雰囲気が「チル」だと台なしだ。

そのせいか、チルという表現自体がダサく感じられて使いたくないという強い気持ちが芽生えた。チルのない人生でいいわ、という頑固さ。しかしチルに関しては、翻意する明確な出来事があった。

私は音楽の中でも、ゆるやかなテンポのヒップホップや真夜中に聴きたくなるようなギラついていないシティポップの曲が好きで、日頃から聴いている。ある日、いつも利用している音楽アプリを開くと「チルMix」というプレイリストがおすすめとして表示された。

チル反対派としては「チルMixってなんだよ」と強めに警戒したのだが、いざ聴いてみると自分の好きなテイストのど真ん中を突き抜けるようなドンピシャプレイリストだった。

CDとヘッドホン
※画像はイメージです

そこで初めて「チル」が日本語で端的に伝えられない絶妙な表現だと思い知らされる。「落ち着く」「リラックスする」という本来の意味だけでなく、そこには小粋な感じやかっこよさ、特別感までもが含まれている。最近になってようやく私の中の “チル像”が言語化できた。

この感覚がまだよくわからないころに、解像度が低い状態で、友達に「あなたはチルい」と言ってしまったことがあり、それは少し反省している。

やはり「チルい」という響きだけだと、どうしても安っぽく聞こえてしまう。流行りの言葉をノリノリで使うのは本当に難しい。

「アレン様構文」から見る“コミュニティの結束力”

先に「インフルエンサーから生まれた言葉」と書いたが、これは今に始まったことではないだろう。芸能人の使った言葉やフレーズは毎年流行語になり、中には時を経て日常的に使う言葉になったものも多くある。

ただ、そこにSNS文化がプラスされているのが、ここ最近の若者言葉だと思う。

“整形男子”としてタレント活動をしているアレンさんが使っている独特な表現「アレン様構文」。単語や接続詞が絵文字で表されていたり、ひらがなとカタカナが奇妙に混ざり合ったりしていて、かなり目を引く。

これをSNS上でまねする若者が大量発生している。初めて見たときはあまりに難解でまったく理解ができなかった。絵文字の読み方が暗号のようでかなり複雑だ。

アレン“様”と呼ばれているだけあり、この言葉を使っている人はファンというより信者という表現が適している。強い憧れのような感情が見える。これがカギになっているのではなかろうか。

小学生のころに、暗号で手紙を書いた経験がある人は多いはず。仲間意識やコミュニティの結束力が言葉に表れているというのが、最新の若者言葉の特徴だと思う。その輪は大小を問わず、「自分が何を好んでいるか」「どの集合に属しているか」を誇示するための手段として言葉が利用されている。

その輪が大きくなれば「流行語」として世間に知られるが、流行語未満の独自表現はきっと現代にあふれかえっている。現実がどうであれ、SNSさえあれば誰かとつながっていられるし、何かの一部でいられる。今の若者は「群れたい」という欲をSNSで昇華しているのかもしれない。

「クソデカ感情」という言葉で愛を伝えたくない

ほかにもツイッター上で「クソデカ感情」という表現を散見する。

これは本当に理解ができないので使ったことがない。クソが「とても」を、デカが「大きい」を、感情が「愛」を指し示すそうで、非常に重い愛などを表すらしい。愛といっても恋愛的な意味だけではなく、多様な「愛おしさ」が含まれている。

最近は「興奮した」という意味で「クソデカ感情があふれた」という使い方をすることもあり、かなりなんでもアリな表現になっている。

“推し”に対して使うことが多いようだが、個人的には尊い存在に対しては尊い言葉を捧げたいので「クソデカ」の部分を好ましく思わない。「クソ」自体かなり品がないので極力避けたいのに。

奥森皐月
奥森皐月

私なら「この愛らしさ、たとえ法が改正され世界中から阻まれても抑えることはできない」みたいな愛の伝え方をしたい。そこまで熱情を注げる対象はないのだが。愛は自分の言葉で表してなんぼのものではないのだろうか。

正も負も内包する「感情」という言葉が「愛」というピンポイントの気持ちを示していることが摩訶不思議だ。愛は必ずしもポジティブとは限らないということなのだろうか。案外深い理由があるのかもしれない。

これからはもう少しクソデカ感情から奥行きを感じ取ってみようと思う。クソデカ感情の奥行きとはどういうことだろう。

「ヤバい」が市民権を獲得した理由

ここで、広く浸透している若者言葉には共通点があると気づいた。それは、意味がふんわりとしているということ。明確に表現しづらい言葉をひとことにできる便利さが、多くのユーザーを獲得する理由のようだ。

shibuya109_かつては109ブランドを着るのがギャルのステータスだったが……
※画像はイメージです

とっくに市民権を獲得している「ヤバい」はこの代表格だと思う。なんでもかんでも「ヤバい」で片づけるまではないが、「エモい」「チルい」に比べれば私も違和感なく使ってしまっている。

きっと「ヤバい」が広まり始めたころには抗っている人がいたことであろう。それでも当たり前の言葉に成り上がったのだから、今私が少し違和感を抱いている若者言葉もいずれスタンダードになる。

「エモいパーカー屋さん」というバンドが人気を博すかもしれない。「チルいよチルいよ」のフレーズでおなじみの芸人さんが国民的スターになるかもしれない。

全部が全部、的確な言葉で表現するべきだとは思わないが、やはり便利な言葉ばかり頼るのもどうかと思う。ほどよく自分の表現を磨いて、進む力が衰えないように言葉の筋肉を鍛えておきたい。パワー。

連載「奥森皐月は傍若無人」は、毎月1回の更新予定です。

この記事の画像(全8枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。