お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、本日は晴天なり。
昨年末に結婚したことを発表した彼女だが、実はお相手との出会いはキャバクラだったという。キャバ嬢とお客様という立場から夫婦になったふたり。彼女が結婚を決めた理由とは。
実は珍しくないお客様との結婚
お笑いライブで私のネタを観たことがある人は、これまでのコラムを読んで何か気がつくことがあるだろう。そう、私はキャバクラで出会ったお客様のことをネタに取り入れることが多かった。
ムカつくお客様に出会っても、お笑い芸人活動の肥やしになっていたので、「いくつに見える?」と聞いてくるお客様にも「君、変態でしょ?」と聞いてくるお客様にもトータル的にはとても感謝している。尽きることのないエピソードを提供してくれたお客様たち、本当にありがとう。
だからキャバクラに通ってる人がまわりにいても、「キャバクラの何が楽しいかわからない」と突っぱねるのはやめてあげてほしい。叩かれる覚悟で言うと、私だって釣りの楽しさはわからないし、数百万かけて車を買う理由もわからない。メジャーな趣味でも理解できない層は一定数いるはず。人の趣味を「わからない」で片づけるのは野暮だ。
理解が及ばないことでも、相手の気持ちになって考えようとしてほしい。ただ、友人が身を滅ぼすほどの借金をしてまでキャバクラに通っていたら、そのときは止めてあげてほしい。中には、お客様の給料日や給料の金額まで把握しているキャバ嬢もいるのだから。(合意の上ではあるが……)
今までの私のコラムを読んで、キャバクラは好きだけどキャバ嬢に本気になるのはやめようと思った方もいるはず。むしろ、絶対に本気にならないようにしようと神に誓うはずだ。
しかし、安心してほしい。
昨年、結婚を前提にお付き合いする人ができたため、二十歳くらいからズルズルとつづけていたキャバクラをついに辞めた。彼との出会いはキャバクラ。たった1回、店に来ただけのお客様と私は結婚した。ちなみに私の知り得る範囲でお客さんと付き合ったり結婚したりしているキャバ嬢(ホストも)、はまあまあいる。
キャバクラだと知らずに来店してきた彼
彼はその日、ネットで調べてうちの店に辿り着いた新規のお客様だった。
まだ早い時間だったため店には私しかおらず、私はオープンより30分早く来た迷惑おじさんの接客をしていた。キャバクラは女の子が隣に座ったときから料金が発生するので、キャバ嬢が足りないとき、お客様は待たされる。その日、彼も私がつくまで40分くらい、ずっとボーイさんたちとおしゃべりをしていたらしい。
待っている間のお酒は飲み放題だ。別料金の生ビールをサービスしてくれる場合もある。もちろん、すぐに女の子が来ないなら帰る!というお客様もいるが。
のちに聞いたところ、彼はそもそも隣に女の子が座る店だとも知らずに来店したらしい。それはさすがにピュアぶってるだろ!と思ったが、知り合って間もないころのLINEのやりとりを見返すと「居酒屋のバイト終わった?」など、キャバクラのことをずっと居酒屋と呼んでいたので本当だったのかもしれない。
ボーイさんとのトークが楽しかったようで「キャバ嬢が席に着く前にもう帰ろうかと思っていた」と、いまだによく語っている。
私がまず驚いたのは明らかに年下だったことだ。この店は年配の常連客が多く、40代でもめちゃくちゃ若い。自分より年下のお客様なんて1年に2、3人程度しか対面することがない。高校生のころから年下がタイプの私はお客様とはいえ自然とテンションが上がった。
さらに物腰の柔らかい優しいオーラを感じたので、私がお酒をもらってもいいかと尋ねると、サラッとOK! なんなら2杯目は彼から促してきた。ついさっきまで30分早く来た迷惑おじさんに「今日はごちそうしてあげられないんだ」と言われ、今日はじゃなくていつもだろ、と思っていた私は、初対面の年下男子が嫌な顔ひとつせず、2杯もごちそうしてくれたことにモーレツに感動した。
そのとき、私は思った。この人を私の指名客にしたい!と。
30分ほど話すなかで、ずいぶん親しくなった手応えがあった。だけど場内指名はナシ。やんわり濁しつつちゃんと断られた。(彼はキャバクラの仕組みをよくわかっていなかったので、場内指名についてはきちんと説明した)
諦めずに彼の席を離れるとき、連絡先を聞こうか悩んだ。お店のお客様に自分から聞くことはほとんどしない。勤務時間以外のやりとりがめんどくさいし、そこまで指名を取ることに執着していなかったから。
しかし、場内指名はなくても明日にでもまた来てくれそうな気配はムンムンだったので、そのときは連絡先を聞いた。
ちなみに彼は次についた女の子にも連絡先を聞かれたときに、やっと「あ、ここで働く女の子たちはお客さんに連絡先を聞くものなのか」と気づいたらしい。だからその子には教えなかったし、「そういうものだと知っていたら私にもたぶん教えなかった」と、後日言われた。
気がついたらお客様ではなくなっていた
翌日から初めてデートするまでの約2週間、思っていた以上にめちゃくちゃ連絡が来た。やりとりの中でやんわりとプライベートで遊びたいとのお誘いも受けた。
私の中でお客さんに誘われたときの鉄則返信は「土日は忙しい」「平日の夜はキャバクラ」「平日の昼間は暇なんだけどなー」の3つ。会社員なら会えないであろう時間でも、あくまでも空いている時間はあることを伝えることで、完全に拒否しているわけじゃない雰囲気を作るのだ。
「平日の昼間ってそんなんじゃ会えないじゃん」と自分の常識を押しつけてくるお客様も多いのに、彼はそんなお決まりの返信で断っても文句を言ってきたりしなかった。
これまでの人生でクソ客&クソ男に出会い過ぎたからかもしれないが、当たり前の対応をしてきた彼がめちゃくちゃいい人に見えていた。
LINEのやりとりを始めて一週間後、ついに「店に行く」と言われた。普段より濃密にやりとりをした甲斐があった。「よっしゃ! 私の勝ちだ!」と思った。
しかし、彼は来なかった。
「また会いたくて行こうかと思ったけど……動機が不純で。もう行くの辞めようかな」(実際の文章)とのことだった。私は「大丈夫だよ! 全然気にしないで! でもせっかく出会えたから仲よくしてほしいな」(実際の文章)と返事をした。
こっちから連絡することはないけどゆるっとつながっておくのはよくある。また店に来てくれる可能性はゼロではないし、めちゃくちゃキモい人でも店で会ったときに気まずくなるのは嫌なのでブロックはしない。
彼もこのままフェイドアウトするだろうなとも思った。しかし、連絡はさらに濃厚につづいた。「仕事終わった」「これから昼休みだよ」「今から帰るね」「家着いた」などの連絡が大半で、私からそれらの連絡がないと追いLINEが来て心配された。
店には行かない宣言はされたが、これだけ好意的なら1回だけでもふたりで遊びに行ったら、もっと会いたくなって店に来るのでは?と考えた。
過去にも数回、指名をもらうためにフリーのお客様とデートをしたことがある。しかし、それは逆効果だった。店に行かずともデートができたらもう店には来ない。またプライベートで飲もうと誘われるばかりで、いずれも失敗に終わっていた。
正直、成功率は低い。でもめっちゃ好かれてるから成功しそうな気もする。第一印象が悪かったらここまでしようと思わなかっただろう。
私は彼とデートすることにした。「明日、2時間だけ空いた」と伝えたら、彼からはすぐにOKが来た。しんどかったらすぐに帰れるように「2時間だけ」と予防線を張ってはいたが、結局、終電まで飲んだ。
一度デートしてからはもう隙あらば、会いたい攻撃をされた。キャバクラでの勤務を終えてからの駅までの道のり、終電までの15分だけでもと会いに来たりしていた。下手したらストーカーだ。というか、下手しなくてもストーカーだ。
そしてほどなくして「お付き合いをしてほしい」と言われた。
どうせキャバクラのきれい(?)な年上お姉さんに舞い上がってるだけだろうと。すぐに飽きて捨てられるだろうと思い、最初は流していた。(年下がタイプなので自業自得だが自分より若い子と付き合うと、このパターンで別れることが多かった)
お付き合いに踏み切れなかった理由はもうひとつある。
自慢じゃないが私は1回離婚している。離婚の経緯は長くなるので割愛するが、要するにいわゆるバツイチ。世間的にはそんなに珍しくないとはいえ、気にする人は気にするだろう。
私自身もバツイチということになんとも思わないが、こんな素敵な男の子の未来を40手前のバツイチ女が奪っていいものか?という葛藤はあった。彼にもそれを素直に伝えた。そのころには、もう指名客にしようと思う気持ちは完全になくなっていた。
結婚の決め手は3つ
彼はしぶとく、ずっと誠実だった。だからこのような感じで曖昧な関係がしばらくつづいた。しかし、私たちは最終的に結婚した。
彼を選んだ理由はベタに「全部」と答えたいが、決め手になったのは3つ。
ひとつ目は、今までの人生で誰にも言われたことのないことを言ってもらえたこと。
彼は頻繁に私のことを「小さい」と言った。彼が2メートル超えの大男というわけでもないが、なぜか私に対して小さいと感じていたらしい。
3才くらいで自我が芽生えてから記憶している限り、親にすら言われたことない言葉だった。中学時代はガリバーというあだ名をつけられ、キャバクラでも「デカいデカい」と言われつづけたこの私が小さい? そのたったそのひと言が、ガリバーには染みたのだ。
それだけではない。「かわいい」と言ってくれた回数も出会ってから1年くらいでおそらく親を超えた。
ふたつ目は、言葉遣いにまで思いやりがあること。
彼は冗談でも私のことを罵ったりしない、キャバクラのお客様にありがちだった好きな子だからいじめちゃうムーブもしてこない。「こいつ」や「お前」なども絶対に使わないし、私が自虐しても必ず否定してくれる。
結婚してからもそれは変わることはなかった。たとえば、彼がおならをする際、こちらがふざけて近づいて行っても「来ないで!」と命令口調で言うことができず、「こぉーー!」で留まるような人だ。人を傷つけそうな言葉を絶対にチョイスしない。
3つめは、最後の関門を突破したこと。
私はお付き合いをする男性にはいつも「浮気したらチ○コを切り落として○す」と伝える。冗談だと捉える人もいたし、怯えてドン引きする人もいた。
彼は怯えるどころか「それが正しい」と言ってきた。「もし浮気なんかするような男になってしまったら、いっそのこと、そうしてほしい」と。
だから、私は彼に決めた。
ただのノロケになってきているのでここらへんで終わりたいと思う。
一般的には一度店に来ただけで大口説きをしてきたらかなり迷惑なので、絶対にやめてほしい。絶対に成功しないだろうし、店が終わってから駅までの道のりで待ち伏せなんてした日には、下手したら警察沙汰になる。こんなことは通常まかり通らない。のちに結婚した相手だからこそ、美談としてまかり通っているだけである。
ひと言で言うと「ミイラ取りがミイラになった」ただそれだけのことだ。
あのとき、少し悩んで連絡先を聞いて本当によかった。聞かなかったらもう一生会うことはなかっただろう。本当に私、グッジョブ。
あのとき、一番最初についたのが私でよかった。2番目だったら断られていただろう。あの日のシフトを決めた店長、グッジョブ。
私のキャバ嬢コラムは今日でおしまい。
これまでのコラムを読んで少しでも興味を持ったら、ぜひキャバクラへ足を運んでみてほしい。素敵な出会いが待っているかも? 来店した際は、キャバ嬢に意地悪せず、もちろんおっぱいやお尻に触れることもなく、ただドリンクを1杯、ごちそうしてあげてほしい。
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