ダウ90000がおもしろ過ぎて謝罪したい

2022.6.22
ダウ90000

文=かんそう 編集=鈴木 梢


『M-1グランプリ2021』予選での「5人漫才」で度肝抜かれてから、「ダウ90000」という存在が良くも悪くも気になって仕方がない。2020年に旗揚げされた劇団、8人組コントユニットで、現在は主宰の蓮見翔、園田祥太、飯原僚也、上原佑太、道上珠妃、中島百依子、忽那文香、吉原怜那というメンバーで構成されている。

個人的な話をすると、筆者自身「演劇」というものにトラウマがあり、何年も前に初めて友人が所属している小劇団の公演を観に行った際、地獄の底のような低クオリティの芝居を延々と見せつけられた挙げ句、そのあとの演者と観客を交えた打ち上げの席で、主宰の男にこの世の終わりのようなイキリ演説を2時間聞かされたことで、演劇全般に親の仇のような感情を抱き、それからは一切目に入れないようにしていたのだが、ダウ90000のネタを観て考え方が180度変わってしまった。

最初は「絶対に笑ってやるかよ俺を舐めるな」というある種「挑戦」のような気持ちでダウ90000のYouTubeチャンネルの動画再生ボタンを押した。が、数分で「生意気言って本当にすみませんでした……」と頭を地面にめり込ませて謝罪したくなった。

ダウ90000が「何気ない日常会話」から抽出する中毒性

「勝てない……」と絶望したのは、コント『AED』。これだけ人数がいるのになぜ「影の薄い人間」がひとりもいないのか本当に意味がわからない。主宰の蓮見翔がすべての流れをコントロールしつつ、絶妙なタイミングでツッコミを入れて盛り上がりのポイントを作っているのはかろうじて理解できるのだが、主役も脇役もない、メンバーそれぞれに明確な「役割」と「見せ場」があって、それぞれのひと言でちゃんとドデカい笑いが起きるというのはいったいどういう仕組みなのか、と観ていて頭を抱えた。

「人生の一番いい瞬間」を題材にした『ピーク』というコントでは、セリフでも引用されているのだが、『花束みたいな恋をした』や『愛がなんだ』のような淡いエモエモ恋愛映画の雰囲気を存分に醸し出しつつ、逆説的にそれをイジくり倒すことで、観ている人間の心をガチでキュンキュンさせると同時に爆笑をかっさらっていた。この世に存在するすべての恋愛はこのネタのための「フリ」だったんじゃないかとすら思う。心から「このネタ演るの死ぬほど楽しいだろうな」と笑いと嫉妬によって顔が歪みに歪み切った。

ネタによって登場する人数が違うのもダウ90000の特徴で、人数によってまったくテイストが変わるそのシステムは、ほかのグループでは味わえないものがある。コント『元カノ』は、最後まで3人でいくことで世界観がより濃密なものになっているし、『花束とハイヒール』や『タイタニック』では人数が増減することで展開が二転三転し、観る人間をいつまでも飽きさせない。

先日『よるのブランチ』(TBS)でも披露されたコント『まちがいさがし』は、一人ひとり徐々に人数が増えていくと共に、散りばめられていた伏線が徐々に回収され、それに比例して笑いも増幅していくのには感動すら覚えた。最終的に8人そろったときは「私は今、アベンジャーズを観てるのか……?」と錯覚した。

恐るべきは、あくまで「何気ない日常会話」の中でコントを成立させていることで、倫理観のおかしい変な人間がいるわけでも、非現実的な展開が起きるわけでもない。今現在もそこかしこで起こっていそうなシチュエーションの中からおもしろい部分を抽出してふくらませて作品に昇華していて、その中で生まれる意表を突くオチの気持ちよさにはとんでもない中毒性がある。どれもが見事に演劇とコント両方のいい部分を融合させていて、これはもう「ダウ90000」というひとつのジャンルとして確立されていると言っても過言ではないのかもしれない。

ダウ90000のおもしろさは、演劇やコントだけではない

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