逆境のときこそ、挑戦を。和楽器バンドが放つ、変わってしまった世界を生き抜く力
詩吟、和楽器とロックバンドが融合した独自のサウンドを鳴らしつづける「和楽器バンド」。10月5日、彼らにとって約2年半ぶりのオリジナルアルバムである『TOKYO SINGING』のデジタル配信盤がリリースされると、国内の各種配信チャートで22冠を達成。
海外のiTunes Storeアルバム総合チャートでもTOP10内にランクインするなど、国内外問わぬ注目度の高さを示したのだ。日本が、世界が、和楽器バンドの音楽を求めている。東京から鳴らされる、希望の音を――。
今回は『TOKYO SINGING』のリリース、そして新作を引っさげたツアーに向けて、鈴華ゆう子(Vo)、いぶくろ聖志(箏)、神永大輔(尺八)、町屋(G&Vo)の4人にインタビューを実施。
東日本大震災の経験なども含め、時代が変わる瞬間を自力で超えてきた和楽器バンドだからこそ、『TOKYO SINGING』という作品を生み出すことができた。アルバムへ込めた想いとツアーへの意気込みを明かしてくれた本インタビューを読めば、そんなことを感じていただけるはず。
目次
雑念のないコンセプチュアルな一枚
――もともとこのタイミングで、アルバムのリリースを予定されていたんですか。
町屋 本来は、夏の予定だったんです。あくまでも「だいたいこの時期に出そう」という目途ですけど。コロナ禍でリモート会議をしながら、内容を詰めていきました。曲の選定やタイトル決めをしたのが、3~5月。6月からレコーディングって感じでした。
――作品のテーマを“東京”にしたのは、いつごろだったんですか。
鈴華 『TOKYO ○○』というアルバムを作ろうと決めたのは、コロナ禍より前でしたね。東京オリンピックの開催予定もあったので、ユニバーサルミュージックから「テーマは“TOKYO”はどうだろう」と提案があって。『TOKYO SINGING』というタイトルにしようと決まったのは、収録曲の第1弾が出そろったあとくらい。今の私たちの想いを東京から発信したい……というコンセプトになっています。
――とてもメッセージ性の強いアルバムに仕上がりましたね。
町屋 普段だとタイアップの関係などもあって、それを基準に組み立てる場合が多いんです。でも今回はそれがなかったので、今までで一番コンセプチュアルに作れました。
鈴華 NHK『みんなのうた』のために書き下ろした「月下美人」も、制作途中でいただいたお話だしね。最初は10曲くらいの予定だったんですが、「これも必要、あれも必要」となって最終的にはデジタル盤限定曲の「ロキ」を含めて14曲になりました。
町屋 どれも、今でなければ作れなかった曲になっています。
――和楽器とロックバンドの融合を軸にしつつ、本当に色彩豊かな楽曲がそろいましたよね。
鈴華 “東京”ってひとつの都市ですけど、日本の縮図みたいな側面もあると思うんです。最先端の流行が集約された若者の街である原宿、粋な祭り感が漂う浅草、京都のようにはんなりとした皇居まわり。『TOKYO SINGING』は、東京のいろんな街のらしさを落とし込んでいるので、具体的な街をイメージしながら聴いていただいてもおもしろいと思います。
黒流さんお得意のライブで盛り上がる「オリガミイズム」は浅草のお祭り感、「宛名のない手紙」は新宿御苑の芝生から見る新宿歌舞伎町、インスタグラムやYouTubeを意識した「Tokyo Sensation」は原宿の若者たち。“投稿はマメに日課 麻痺ってく現実”という歌詞は、YouTubeの投稿を頻繁に行っていた自粛期間を忘れないように書いたものでもあります。
――では、『TOKYO SINGING』の皆さんそれぞれの推し曲を教えてください。
町屋 曲単位では区切れないですね。全曲通して一曲みたいな感覚があるので、アルバム全体を楽しんでいただきたいです。
神永 僕も聴きどころは全体になってしまうんですけど、一つひとつの音探しをしながら聴いていただくと、新たな発見を何回もできておもしろいと思います。
いぶくろ 僕は2曲あって、ひとつは「Eclipse」。町屋さんが箏のフレーズをほとんどアレンジしてくれていて、僕からは出てこない僕っぽいフレーズになっているんです。アレンジャーであり、コンポーザーであり、ディレクターである町屋という人物と、演者のいい関係性が出ている曲だと思います。
もう1曲は「Sakura Rising with Amy Lee of EVANESCENCE」。ゆう子さんとエイミーの重厚感ある歌声の影で、ひっそりと箏が和の空気を醸し出しています。
鈴華 この曲がライブでどう表現されるか、それも注目してほしいですね。