黒沢ともよ、母校で語る久美子とともにした10年。「私も久美子も巣立ちのとき」
街に5時のチャイムが鳴り響くころに始まった取材。奇しくも、黒沢にとって10年ぶりの母校訪問となる日にインタビューすることができた。夕陽が落ちていくなか、グラウンドに立ち、表情をコロコロと変えながら学生時代を語る黒沢の瞳には「あの時」の光景が目の前に広がっているようだった。
『ユーフォニアム』は、黒沢の10代の終わりと20代に重なったわけだが、本作品もいよいよ「最終楽章」を迎え、黒沢も巣立つことになる。そんな黒沢が10代の青春を過ごした母校で何を語ったのか。

2026年4月14日(火)に発売された『Quick Japan』vol.183では、今春最終章の始まりとなる映画『最終楽章 響け!ユーフォニアム』前編の公開を記念し『響け!ユーフォニアム』がバックカバー(描き下ろしイラスト)&特集に登場。「『部活』の終わり?」と題し、本作品を特集する。

目次
グレる隙間もないぐらい、まっとうに学生をしていた中高時代
──ここ、日本大学第二中学校・高等学校は黒沢さんの母校です。久しぶりに訪ねられて、いかがですか?
黒沢 懐かしさで溶けてしまいそうです。校舎の至るところに『響け!ユーフォニアム』のポスターが貼られていたのもとってもうれしくて。卒業後、一度だけ文化祭に遊びに来たことはあったんですけど、先生たちにお会いするのは卒業式ぶりでした。あまりにもお変わりなくて、まるでタイムスリップしたような心地です。

──黒沢さんは学生時代から芸能の仕事をされていますが、学校との両立はどうでしたか?
黒沢 母からは常に「仕事のことでとやかく言われたくなかったら、ちゃんといい成績を取りなさい」と言われていて。だからすごくまじめに勉強してました。塾に行く代わりに学校の先生にめっちゃ教えてもらって。うちの学校では放課後、各担当教諭のまわりに机を並べて教えてもらいながら勉強する人も多かったので、職員室が個別指導塾のようになっていることがけっこうあって。私も同じく、とても手厚くフォローしていただきました。埼玉県に住んでいたので、杉並区のこの学校までの通学は片道2時間半。朝は6時前には家を出て、帰ってくるのは夜の21時過ぎ。グレる隙間もないぐらい、まっとうに学生をしていました。
黄前久美子を演じた10年で生まれた変化
──そんな黒沢さんは高校卒業から1年後、『響け!ユーフォニアム』で主役・黄前久美子に抜擢されましたが、その作品がいよいよ完結です。久美子を演じてきた10年間はいかがでしたか?
黒沢 最初のころは、自分は久美子よりも、その親友の(高坂)麗奈に近いような姿勢でした。子役のときはオーディションでもほかの子よりどう目立つかを考えていて競争心が強かった。麗奈みたいに勝ち気で、自分が特別であることを証明したがっていた。でも久美子の言葉を口にしてきて、彼女の思考の柔らかさや、まわりの言葉を受け止める“受け入れ体制”が理解できるようになりました。今では彼女の迷いや悩みも手に取るようにわかるので、共感しながら物語に翻弄されています。
──最終シーズン『響け!ユーフォニアム3』では、ついに久美子が3年生に上がり、部長となりましたね。
黒沢 私は演劇もやっていますが、部活の部長って、演劇の座長(主役)とほぼ一緒だなって思います。まず、部長/座長の態度は、全体のモチベーションを左右するのでしっかりしなくちゃいけない。あと、舞台の場合は、座長が一番長く舞台上にいるので、まわりがよく見える。だから「あそこ、うまくいってないな」と気づいたら、ケアすることもとても大切にしています。声をかけたほうがいいのだろうか、私にできることはなんだろうか、気にしなくていいことなのだろうか……いろんなことを考えながら、お芝居に向き合っていて。
──久美子が自分の演奏に集中したい一方で、吹奏楽部全体にも常に気を配るのと同じですね。
黒沢 そうなんです。でもいい舞台/演奏のためには、そういう気配りも大切な仕事だと思っているので、みんなが作品を愛して携わってくれるように、これからもがんばっていきたいです。
今この瞬間を慈しみ、豊かに愛するようになった

──10年間携わってきた作品が終わる今、どういう心境ですか。
黒沢 寂しいですね。『響け!ユーフォニアム』が始まったころはまだ19歳。それこそ20代まではどの作品に対しても「この作品が終わったら、次はもっと高みへ行きたい!」って未来ばかり見てて、終わりを悲しむよりも、次の始まりにワクワクする気持ちが大きかった。それって今思うと、いつも成長することを意識していて、瞬間瞬間を未来のために生きていたってことなんですよね。でも終わりを意識するようになってからは、今この瞬間を慈しみ、豊かに愛するっていうことができるようになってきた。この感覚は本当にここ1年くらいで変わったところです。
──成長ではなく、成熟した感じですね。
黒沢 たしかに。でもかといって、仕事でやるべきことは今も昔も変わりません。結局大切なのは、今いただいている仕事でけっして手を抜かないということだと自覚しています。目の前にあるお仕事をがんばることが、未来の自分へのギフトになる。そのギフトの中身が30歳を目前にして多角的になってきました。昔は思い至らなかったような、愛しさや尊さを、最近はずっしりと慈しめているように感じます。
──「手を抜かない」とは具体的にどういうことですか?
黒沢 これ以上できることはないな、と思えるほどに準備をすることですね。声優は技術職だから日々のレッスンも当たり前に大切ですけど、作品に向かうときは、文献をちゃんと読み込んでおいて、気になることも調べます。そういう知識量が、キャラクターへの理解を深めるし、現場でのスタッフさんとのふとしたやりとりにも響いてくる。だからこれ以上の準備は無理だった、と思えるまで準備をします。でもその準備に全力を注ぎすぎて睡眠時間まで削ると現場で集中力が切れやすくなるので、「これ以上はできない」と割り切ることも必要なんですよね。
「指導を受ける機会がなくなると思うと、少し怖いです(笑)」
──第1期と第2期の『響け!ユーフォニアム』の劇場版は、TVシリーズを大胆に編集し、追加カットもあって、観客を驚かせてきました。今回はどんな仕上がりでしたか。
黒沢 監督の小川(太一)さんの本編からの切り抜き方が粋でした。こんなテーマ性が浮かび上がってくるんだ!って驚きましたね。『届けたいメロディ』からの続編として、けっこう踏み込んだ楽しみ方ができるんじゃないかな。あと個人的には今まで過去時制だった久美子のナレーションが変わったのが印象的でした。音響監督の鶴岡(陽太)さんが「『最終楽章』では、今を生きているその瞬間のナレーションでいきたい」と言われて。
──先ほど黒沢さんは「今この瞬間を慈しむ」ことの大事さに気づいたとおっしゃっていましたが、それと通ずる感覚ですね。
黒沢 そうですね、たしかに影響されているのかも。『響け!ユーフォニアム』に関わってきたなかで、鶴岡さんの言葉は大きかったですね。最初のころは「なぜこの役を任されたのか考えてみたら」という提案が指針になりましたし、第1期と第2期の劇場版を録るときも「もう一度録る意味を考えてみよう」と常に問いかけられました。この作品が終わったら、そういう指導を受ける機会がなくなると思うと、少し怖いです(笑)。でも、私も久美子も巣立ちのときなんですよね。
黒沢ともよ
(くろさわ・ともよ)1996年生まれ、埼玉県秩父市出身。2010年公開『宇宙ショーへようこそ』にて小山夏紀役を務め声優デビュー。『響け!ユーフォニアム』のほか『宝石の国』『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』など数々の話題作品に出演
『Quick Japan』vol.183は現在発売中。描き下ろしイラストデザインアクリルブロックも

描き下ろしイラストがバックカバーに登場する、『Quick Japan』vol.183(ローレン・イロアス版)は現在発売中。
さらに、「QJストア」限定で描き下ろしイラストがデザインされた限定アクリルブロックの購入が可能。






