36時間不眠でも芸人はおもしろいのか?『完徹~不眠最強芸人決定戦~』で見えた“お笑いの限界突破”

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、21歳・タレントの奥森皐月。今回は、ABEMA開局10周年記念特別番組『30時間限界突破フェス』の中で放送された『完徹~不眠最強芸人決定戦~』のおもしろさを語る。

24時間・27時間テレビを上回る『30時間限界突破フェス』

ABEMA開局10周年記念特別番組『30時間限界突破フェス』が、4月11日(土)15時から12日(日)22時にかけて放送された。24時間テレビ、27時間テレビをさらに上回る“30時間”という数字。10周年の気概が伝わってくる。

“限界突破”をテーマに掲げたこの特別番組は、約20の企画で構成されていた。「『チャンスの時間』ノブの好感度を下げておこう30時間フェスver.」「今日好きダンスバトル 一夜限りアーティストとコラボSP」などの人気番組の特別版や、「ウルフアロンから3カウント取ったら1000万円」というABEMAらしい企画まで、幅広い。

さらには「市川團十郎を笑わせたら1000万円」という、どう誕生したのか想像もつかない企画もあって、このメチャクチャさがなんともABEMAらしかった。

その中で、特に注目していた番組がある。それが、今回の『30時間限界突破フェス』オリジナルバラエティ『完徹~不眠最強芸人決定戦~』だ。これがまさに“限界突破”というテーマにふさわしい前代未聞の番組なのだ。

予選MCの令和ロマン・ケムリから、本戦MCの麒麟・川島へ

この番組の収録は、“本番”の前夜から始まる。

24人の芸人さんは「芸人の夢はおもしろいのか」というニセ企画で集められ、スタジオで寝静まっていた。

そして深夜1時になると突然起こされ、令和ロマン・松井ケムリさんがMCを務める『覚醒~寝起最強芸人決定戦~』の収録に参加させられる。

「チーム吉本」「チームマセキ」「チームものまね」「チームチャンピオン」「チーム金」「チームキャラ」という6チームに分かれて、大喜利や即興ボケなどで対決をしていく。

おもしろさによってポイントが加算され、チームバトルは順調に進むが、収録の最後にとあるVTRが流れる。そこには、“本戦”のMCである麒麟・川島明さんの姿が。

この映像内で「今から36時間完徹をして、36時間後にまたお笑いに挑戦してもらいます」という衝撃の宣告が下された。ここで出演者たちは本当の企画『完徹~不眠最強芸人決定戦~』を知ることとなった。

24人の芸人が繰り広げる、36時間不眠バトル

ここから24人の芸人さんは、一睡もできない36時間に突入。眠っているかどうかは常にスタッフが監視しており、目をつぶって10秒経過すると声がかかる。

「起きていますか?」と聞かれて「ギンギンです」と答えられればセーフだが、反応がなかったり曖昧な返事だったりすると、その瞬間に即脱落となる。

脱落した場合はチームのポイントから50ポイントがマイナスされ、優勝賞金の300万円から遠ざかってしまう。また、本戦のひな壇には座れるものの、お笑いバトルには参加できなくなってしまうという残酷さ。

麻雀をしたりお酒を飲んだり食事を控えたり、あらゆる手段を使って眠気を紛らわせていくものの、やはり脱落者も出てくる。

「起きてますか?」と声をかけられても返事をせず、ぐっすり眠ってしまっている芸人さんの姿はなかなか貴重だ。しかし、その時点で脱落は決定している。

36時間眠らなかった14人が『完徹』本戦へ!

医師によるメディカルチェックも受けつつ、最終的に『完徹』の本戦に残れたのは14人だった。

「完徹でお笑いバトルをする」というものが企画として革新的であることは間違いない。ただ同時に、これは恐ろしくリスキーな賭けでもある。

たとえば6チームの中で、チームメンバーの4人全員が寝て脱落した場合、その時点でそのチームは本戦で戦えない。全チーム、24人全員が寝てしまう可能性だってある。

どれくらいシビアな36時間だったかはわからないが、24人も芸人さんを集めたのに、結果的に10人はただ見ているだけとなったのは、もったいないような、それがおもしろいような。

個人的に楽しみにしていたのは、“お金が必要”というくくりでまとめられた「チーム金」だ。

このチームは先日1300万円の詐欺被害に遭ったと話題になったカカロニ栗谷さんを残し、3人が脱落してしまった。

また、「チームマセキ」のメンバーは三四郎のふたりとハンジロウのふたりという、マセキ芸能社の中でもベテラン寄りの4人だった。

小宮さんとたーにーさんが脱落し、しゅうごパークさんが謎の体調不良に見舞われたため、こちらは相田さんひとりでの戦いに。

寝ていない人だけで集まって、本当におもしろいのか?

さて、この番組に対して最初に思うことといえば「寝ていない人だけで集まって、本当におもしろいのか?」ということだろう。

36時間不眠の人間がおもしろいかどうか、正直誰にもわからない。全然盛り上がらないまま終わる危険性がある。深夜ノリの恐ろしい状態で終始進む可能性だってある。

ところが、完徹後のパートを見てすぐに「これはおもしろい番組だ」と確信した。

各対戦は、その場で名前をつけたり回答したり即興でボケるような、大喜利要素の強い対決だ。それなのに、出場しているのはあまり大喜利のイメージのない芸人さんが多かった。

たとえば「チームキャラ」はリンダカラー∞・Denさん、ネコニスズのおふたり、ワタリ119さんの4人で構成されている。個性的でおもしろいメンバーだけれど、4人ともあまり大喜利をしている印象はなかった。

また、「チームものまね」はR藤本さん、兼光タカシさん、JPさん、アイデンティティ田島直弥さんというメンバーで、4人中2人がドラゴンボール系モノマネという布陣だ。唯一このチームだけ全員が脱落せずに本戦に進んでいたのがおもしろい。

完徹前後の対比で見えた「おもしろさの違い」

各競技が行われるときは、36時間前と完徹後の映像が対比して放送される。「36時間前は〇〇だったのに」というフォーマットで見せられると、変化がよくわかる。

寝起きのほうがおもしろい人と、徹夜後のほうがおもしろい人とに分かれているのが興味深い。この対比の構造があることで、単なる「疲弊した人間を見る番組」ではなく「限界突破した先のおもしろさを見る番組」というテーマが感じられる。

本戦では、完徹を経て活躍するメンバーと、存在感が薄くなってしまうメンバーに、はっきりと二分されていく。

特に活躍していたと感じた人は4人いた。今大会の唯一の女性芸人であるチーム吉本のオダウエダ植田紫帆さん、チームマセキのたったひとりの生き残り三四郎・相田周二さん、24人の中で圧倒的最年少だったチームチャンピオンの友田オレさん、完徹したことによってただのおじさんになってしまったチームキャラのネコニスズ・舘野忠臣さん(赤ちゃん)だ。

【第1競技:あだ名30連発リレー】植田「言葉とかいろいろ出てこない」

第1競技「あだ名30連発リレー」は、出てきた人に即興でおもしろいあだ名をつけるというストロングスタイルの勝負。

各チームひとりずつ、計6人が順番にあだ名をつけていき、川島さんが「×」を出した時点でそのチームは失格となる。

ここでは、完徹によって覚醒した様子の三四郎・相田さん、独特のセンスとテンポで魅了するオダウエダ植田さん、シンプルに大喜利が強い友田オレさんが活躍した。

しかしながら競技が終わると、MCの川島さんと会話が噛み合っているのかどうか危ういトークが繰り広げられる。

植田さんの「もう、言葉とかいろいろ出てこないです。大切な人との思い出とかいろいろ消えました」というコメントから、極限状態にある様子がひしひしと伝わってくる。

【第2競技:天井大喜利】布団が誘う睡魔vs大喜利の戦い

第2競技は「天井大喜利」という、布団に入って、回答するときだけ起き上がる大喜利対決が行われた。

寝起きで開催されていたときはただの大喜利バトルのように思えたが、36時間寝ていないタイミングで、カメラが回っているとはいえ布団に入るのは非常に危ない。睡魔vs大喜利という、この企画ならではの葛藤がおもしろかった。

お題が出る前にMCの川島さんとゲストの私立恵比寿中学の小久保柚乃さんがゆるめのトークを繰り広げ、出場者の眠気を誘うシーンがあった。これぞ、この競技の真骨頂という感じがする。

36時間徹夜している上に、布団の中で、頭を使わない時間があるなんて、自分だったら180%寝てしまう。ここで耐えているのが本当にすごい。

この対決では「寝ていないということでチャラにしますので、芸能界がちょっとピリつきそうなことを言ってみてください」や「ギリギリエロくない料理名を教えてください」という少し危ういお題が出題される。睡眠を取っていないことによって、リミッターが外れた人たちの大喜利がすごくおもしろかった。

特に、最も若手である友田オレさんから飛び出る「芸能界がちょっとピリつきそうなこと」は、スタジオがしっかりピリついていて最高だった。そして、三四郎・相田さんが放送できないことを言ってしまい、強制終了となる展開。

また、2問目の「ギリギリエロくない料理名」ではネコニスズ・赤ちゃんが、完全に限界突破した下ネタで場を掌握する。

徹夜を経た赤ちゃんが布団に入っている様を、川島さんが「病床の母」とたとえていた場面で涙が出るくらい笑った。そのあとも病床の母による下ネタ快進撃は止まらない。

【第3競技:見たことないドラキュラ選手権】衝撃的なドラキュラが続々!

第3競技は「見たことないドラキュラ選手権」という、変装をして棺桶に入った状態から出てくるという難しいモノボケ・キャラ系の対決だった。

この企画は特に難しそうに思えたが、ここでもやはりビジュアルの強さを持つオダウエダ・植田さんネコニスズ・赤ちゃんが大活躍。

これに関しては、百聞は一見に如かず、いや千聞は一見に如かずだ。衝撃的な“見たことないドラキュラ”をぜひ目に焼きつけていただきたい。

【第4競技:リカバリーモノボケ】特別ゲスト・浜口京子がかき乱す!

いよいよ最終決戦となった第4競技では「リカバリーモノボケ」という、ゲストのモノボケにさらにひと言添えておもしろくする難関な対決が繰り広げられた。

この企画では、モノボケをする特別ゲストとして浜口京子さんが登場した。これが、悪夢の始まりだった。浜口京子さんは持ち前の明るさと自由さで、スタジオをどんどんかき乱していく。

ただでさえ眠気に襲われていたのに、さらに混乱が巻き起こり、最後には収拾がつかない事態になる。リカバリーがリカバリーを呼んで、さらにリカバリーを求めるという、見たことのない展開になっていた。

勝手な想像ではあるが、制作している側も想定していなかったアクシデントだったのではないだろうか。この時点で収録も3時間近くやっていたようで、その恐ろしさは画面越しに伝わってきた。

しかし、そのカオスさも含めて、この『完徹~不眠最強芸人決定戦~』という番組のように感じられて、私は笑ってしまった。

“限界突破”した先には何がある?

当初は点数配分がおかしいのではないかと思っていたが、終盤には接戦となり、優勝もわからなくなって、勝負としても見ていて楽しかった。

完徹の先にどんな悪夢があったのか、そしてどのチームが優勝賞金300万円を手にしたのか。すべては配信で確かめていただきたい。

この番組を通して、「36時間起き続けても、芸人さんはおもしろい」という最高の結果がわかった。また別のメンバーでの対決も見てみたいし、36時間よりさらに長い時間起き続けた世界も、不謹慎ながら、見たいと思ってしまう。

間違いなく、限界突破した先のお笑いを見られる斬新な企画だった。『30時間限界突破フェス』には「みんなやらないこと、やれないと思っていたことを……ABEMAがやる!」というコンセプトがあったらしい。

こんなこと、ほかでやれるわけがない。だからこそ、またABEMAでこの戦いを見てみたい。

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奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..

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