『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』監督がJO1豆原一成に伝えた俳優としての心得「相手が誰であろうとカメラの前に立った時点でお互いの勝負」

2025.10.27
『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』監督がJO1豆原一成に伝えた俳優としての心得「相手が誰であろうとカメラの前に立った時点でお互いの勝負」

文=岸野恵加 編集=森田真規


2025年5月に封切られた映画『BADBOYS -THE MOVIE-』での主演、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』出演などを経て、10月24日公開の最新作の映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』では市毛良枝とW主演を務めるに至った豆原一成。

俳優業は、輝かしい光を浴び続ける中で個性をアピールして、常に存在感を示さないといけないグローバルボーイズグループ・JO1とは、“別人になりきる”という真逆の活動だ。そして、活動を始めた当初からその演技力に定評があった「俳優・豆原一成」。

10月10日に発売された『Quick Japan』vol.180では、バックカバー&15ページ特集「俳優・豆原一成(JO1)光を背に、役を宿す」を実施。ここでは『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』で監督を務めた中⻄健二に、撮影前に豆原に伝えた俳優としての心得や撮影時に受けた印象などについて話してもらった、誌面に収まりきらなかった話題を収めたインタビューをお届けする。

中⻄健二
中⻄健二監督 (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

中⻄健二
(なかにし・けんじ)1961年12月3日生まれ。大阪府出身。2008年に原作・重松清、主演・阿部寛の『⻘い鳥』で映画監督デビュー。監督作に『花のあと』(2010年)、『二度めの夏、二度と会えない君』(2017年)、『大河への道』(2022年)など

俳優として一番大事な部分をしっかりとつかんでくれていた

中⻄ 本当に素直でまじめで、謙虚な優しい方だと感じました。とても好印象だったし、拓磨という役柄に、豆原さんがもともと持っている人のよさがよく合いそうだと感じて、ホッとした記憶があります。拓磨は弱い部分がある等身大な若者で、共感を得づらい部分もある人物だと思うのですが、豆原さんが演じることによって、お客さんが自然と味方になってくれそうな予感がしたんです。

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』/10月24日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

中⻄ プロ意識ゆえだと思うんですが、彼はそんなに葛藤を表に出していなかったんです。撮影が終わる2、3日前に「今回の手応えはどうだった?」と聞いたら「毎日精いっぱいで、そんなこと考えたこともありません」と言われて、ハッとしたんですよね。見えないところで実はかなりもがいていたんだな、と。

実は現場では彼から質問されることもそんなになかったのですが、それはきっと、しっかり準備して自分の中に落とし込んでから、現場に入っていたから。大したものだなと思いました。

中⻄ 豆原さんは俳優としての経験値がまだそこまでないし、リハーサルとして、芝居をしながら本読みをするほうがいいだろうと考えたんです。そこでは「背景にある思いや相手との関係性、過去の出来事などをすべて乗せて、セリフを言わないといけない」ということを伝えましたね。

最初の顔合わせのときに、「見ている人をいかに納得させられる演技ができるかが勝負だよ」と話したんです。相手がベテランの市毛良枝さんであろうが誰であろうが、カメラの前に立った時点で、お互いの勝負なんだと。いざ現場に入ってみたら、豆原さんはその一番大事な部分をしっかりとつかんでくれている感覚がありました。

中⻄ ええ。彼も忙しいので、芝居をしながらの本読みもそんなに長時間はできなかったんですけど、限られた時間でしっかりつかんで現場に入っていたので、「さすが、アイドルとしても第一線に立っている人だな」と感じました。

『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』本予告

カメラの先を意識して動くことに長けていた

中⻄ 今回は主役として作品を背負い、キャリアの長い方々と共演するということで、彼のプレッシャーはとても大きかったと思います。さらにグループ活動と並行して時間の余裕もないなかで、きちんとした結果を出さなければならず、煮詰まってしまってもおかしくなかっただろうなと。

でも豆原さんは不安を表に出さずに、きちんと主役をこなしてくれた。その姿勢は、大したものだなと思いました。きっと睡眠時間を削ってセリフを覚えたり、役について深く考えたり、相当の努力をしてくれたんだと思います。

中⻄ そうですね。演技力についても天性のものを持っているとは思うんですが、ベテランに比べたらまだ経験が少ないことは事実で。そうした部分を補って余りある彼の人間性が、俳優という仕事をする上でとてもいい持ち味になっていると感じます。

中⻄ 自然とお客さんの視線を惹きつけるような芝居は、やはりアーティストならではだと感じました。どこでどういう表情をするか、カットがかかるまでにどのように感情を配分するか……そうした部分に、アーティストとしての経験が活きていたように思いますね。JO1の仕事は目の前にお客さんがいることが多いと思いますが、俳優としても、カメラの先にいるお客さんを意識して動くことに長けていると感じました。

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』/10月24日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

中⻄ 私の作品はいつもそうなんですが、事前に「拓磨はこういうキャラクター」と決めて、そこに俳優さんをはめ込んでいくような作り方はしないんです。それぞれの俳優さんが役に入って何が出てくるかにやりがいを感じるんですね。

豆原さんに関しても、彼からどのように拓磨という役をあぶり出そうかと考えながら撮影を進めましたが、感慨深かったのは、終盤で拓磨と母が一緒にバスに乗っているシーンです。お母さんに切実に自分の思いを伝える拓磨の姿を見て、「今、豆原一成という役者によって拓磨という役ができ上がった」という感覚を覚えましたね。

中⻄ 中盤で撮影したのですが、彼の気持ちがそこでグンと乗った感覚があって、素晴らしかったです。実は今回の撮影はラストシーンをクランクイン3、4日目に撮ったりと、順序がさまざまだったので、役者は感情を乗せるのが大変だったと思います。でも手練れの方ぞろいだったので、みなさん見事にやってくださいましたね。

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』/10月24日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

等身大の役を演じると光るはず

中⻄ 派手な映画ではないですが、すごく優しい作品にできたと思っています。最近の日本映画は、観客を多く動員することを意識した作品も多いと思うんですが、そういった作品とは少し違うテイストで、人の優しさを感じてもらえる映画になっている。じっくりと味わっていただきたいですね。

中⻄ 拓磨と文子、紗季(※編注:文子は市毛良枝が扮する拓磨の祖母。紗季は八木莉可子が演じる拓磨のパートナー)が家でお寿司を食べるシーンですね。お寿司にかぶりつく姿がかわいかった(笑)。もちろん演技なんですけど、彼の地の魅力がよく出ていました。

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』/10月24日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

中⻄ 顔合わせのときにその話を聞いて「食べるものに気を遣わなきゃいけないかな?」と思ったんだけど、「なんでも大丈夫です!」と言っていました。私はトレーニングしている姿を見ていないけど、裏でやっていたのかもしれないですね(笑)。

中⻄ やっぱりまだ若いから、なんでもやってみるのが一番いいと思います。いろんなお芝居をやって人間の幅を少しずつ広げていくと、本業のアーティスト業にも役立つんじゃないかな。自分に枠を設けないで、どんなことでもやってみてほしいですね。

中⻄ 個人的な好みになってしまうけど、豆原さんはあまり現実離れした設定よりは、等身大の役を演じると光る気がするんです。普通の人が事件に巻き込まれて、それを一生懸命解決していくサスペンスとか……そういう役を見てみたいですね。

中⻄ やっぱり、“まっすぐ”ですかね。本当にいい子ですし、現状の経験値で一本の映画を背負うというのはなかなか大変なことだったと思いますが、しっかりとやりきった姿は、本当に素晴らしかったです。

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』/10月24日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー (C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』

公開日:2025年10月24日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演:豆原一成(JO1)、市毛良枝、酒井美紀、八木莉可子、市川笑三郎、福田歩汰(DXTEEN)、藤田玲、星田英利/長塚京三
監督:中西健二
脚本:まなべゆきこ
音楽:安川午朗
制作プロダクション:PADMA
原案:島田依史子『信用はデパートで売っていない 教え子とともに歩んだ女性の物語』(講談社エディトリアル刊)
原案総責任:島田昌和
配給:ギャガ 
(C)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

バックカバー&15ページ特集「俳優・豆原一成」掲載の『Quick Japan』が発売中

『Quick Japan』vol.180バックカバー/撮影=梁瀬玉実
『Quick Japan』vol.180バックカバー/撮影=梁瀬玉実

映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』(10月24日(金)全国公開)に、市毛良枝とともにW主演を務める豆原一成(JO1)が『Quick Japan』vol.180(10月10日(金)発売)のバックカバー&15ページ特集「俳優・豆原一成(JO1)光を背に、役を宿す」に登場。

さらに特集では、映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』の中西健二監督や同作で映画初出演を果たした福田歩汰(DXTEEN)が語る「俳優・豆原一成」の魅力、さらに豆原の過去の出演作の共演者や監督からのコメントも掲載。さまざまな側面から「俳優・豆原一成」に迫る。

『Quick Japan』vol.180/「俳優・豆原一成」特集より
『Quick Japan』vol.180/「俳優・豆原一成」特集より

強い光を浴びながら個性が求められるグループでの活動とは真逆ともいえる、自分とは異なる役になりきる俳優活動で豆原一成が考えていることとは──。

『Quick Japan』vol.180|バックカバー&15ページ特集「俳優・豆原一成(JO1)」

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岸野恵加

(きしの・けいか)ライター・編集者。ぴあでの勤務を経て『コミックナタリー』『音楽ナタリー』副編集長を務めたのち、フリーランスとして2023年に独立。音楽、マンガなどエンタメ領域を中心に取材・執筆を行っている。2児の母。インタビューZINE『meine』主宰。