「産んだほうがいいのかも」卵子凍結、妊活のプレッシャー…私たちは“社会”に焦らされている?【夕方5時の会議室 #14】

編集=高橋千里


少女写真家・飯田エリカと、QJ編集部・高橋の音声番組『夕方5時の会議室』。メディア業界で働く同世代ふたりが、日常で感じているモヤモヤを、ゆる〜くカジュアルにお話しします。

第14回は、コラムニスト・月岡ツキさんがゲストで登場。自身のPodcastや著書などで「DINKs(仮)」としての考えを発信している月岡さんと一緒に、現代女性を取り巻く「子供を産む・産まない」問題に言及します。

※「DINKs」:「Double Income, No Kids」の略。夫婦共働きで子供を意図的に持たないと選択した夫婦のこと
※音声収録は2025年8月29日に行いました

この記事では、音声の前半部分だけをテキストで公開。後半はYouTubeまたはPodcastよりお聴きください。

男性が「親になる話」をする時代なら、女性が「親にならない話」をしてもいい

飯田 少女写真家の飯田エリカです。

高橋 Quick Japan編集部の高橋です。今日はゲストが来てくださいました!

月岡 こんにちは、コラムニストの月岡ツキです。

高橋 私がフリーの編集者なので、『マイナビウーマン』というメディアでも1年ぐらい「母にならない私たち」という匿名インタビュー連載を編集担当して、その聞き手・ライターとして企画段階から私に売り込んでくださったのが月岡さんでした。

月岡 高橋さんになんの面識もないのに凸DMしました(笑)。

高橋 ちょうどそのころQJWebで「ぼくたち、親になる」という、父親になった男性たちに、誰にも言えない“不都合な本音”を吐露してもらう匿名インタビュー連載を私が編集担当していて、とある記事がすごく物議を醸したことがあって、月岡さんがそれを見てご自身のPodcastで話してくれて。

月岡 男性が「親になる話」をする時代になったのであれば、女性が「親にならない話」をする必要もあるだろうと、私は勝手に思ったんですよね。

高橋 ちなみに「ぼくたち、親になる」は書籍化が決まりまして、今年の10月に発売です。聞き手・ライターは稲田豊史さんが担当してくださいました。けっこうヤバい本音が書かれているので、女性はページを開いて秒で放り投げたくなるかも(笑)。

月岡 言葉を選ばずにいうと、かなり腹立たしい内容(笑)。

残酷で切実!賛否両論を巻き起こした、「父親」たちの不都合な本音を集めたルポ『ぼくたち、親になる』が書籍化決定!
『ぼくたち、親になる』(太田出版)/稲田豊史
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高橋 それと実は「母にならない私たち」も今、太田出版で書籍化に向けて動いているところです。こちらは全国各地に住む、いろんな職業のDINKsの女性にお話を聞いています。公務員とか、研究職の方とか。

月岡 もともと私が『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)という、自分が子供を持つか持たないか葛藤する話を書いたエッセイ本を出しているのと、自分のPodcast『となりの芝生はソーブルー』という番組もあるんですけど、そこで話してることや本に書いたことに共感してくれてる人たちが一定数いて。「私の話も聞いてほしい!」という感じで、インタビューの話し手に応募してくれる方がけっこう多かった。みんな似たような人たちかというと全然そうでもなかったりして、本当にいろんな人がいました。

高橋 月岡さん自身も(子供を絶対産まないと)断言をしているわけではないけど、「DINKs(仮)」というスタンスではいる?

月岡 そうですね。本を書き始める時点では、すごく揺れてたんですよ。いろんな方向性から考えて「子供を持つことに前向きになれないな」みたいな気持ちがあって。だからといって完全に「子供を持たないです」と断言できるほどでもない。身体的に難しいわけでもないので、一応「(仮)」をつけてはいたんですけど、本を書いたら自分の中ではすっきりしちゃって、今はこのままで全然いいかな、という感じになってきていますね。

『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)/月岡ツキ

高橋 女性ってどうしても生殖可能年齢があって、出産適齢期みたいなものもあって、その年齢に差しかかるとちょっと焦ったり、「子供を作るか・作らないか」に悩んだりすることもあると思うんですけど、飯田さんもそういう経験ってありました?

飯田 私は産みたいと思ったことが一度もなくて。でも高校時代の友達が「いつか子供が欲しい」とずっと言ってて、大人になって結婚してすぐ子供ができたんですけど、私はその欲求がずっとわからないな〜と思ってたんです。「もうちょっと年齢が経ったら(その欲求が)生まれるのかな?」「すごく好きな人ができたら変わるのかな?」と思いながらも、結局は変わらないまま今34歳になったんです。

実は私、2年前に乳がんが見つかって。初期の状態では見つかっておらず、しこりも大きかったので、抗がん剤治療をすることになったんですけど、抗がん剤治療をすると妊娠できない体になる可能性がある、生理が来なくなることもあるらしく、治療の前に卵子凍結を勧められたんです。

サクッと「別に産みたくないんでいいです」って言えるかなと思ったら、言えなくて。それが超ショックだったんですよ。今まで自分は「産もうと思えば産める」って思ってたんだ、って。自分の中に設計されてる本能なのか、理性と全然別のところの何かがあるのか……というのを初めて目の当たりにして、結局は卵子凍結を選んだんですけど、その(凍結までの)作業が大変すぎて!

高橋 けっこう(費用も)高いっていいますよね……。

飯田 助成金でほぼ賄われるんですけど(*1)、申請してから支払われるのは半年後とかなので、一回は自分のところから20〜30万円ぐらいズズズって出ていきます(泣)。それに、卵子を育てるための注射を自分で打たなきゃいけない。そういう注射も薬局とかで5万くらい、いったん自費で払わなきゃいけない。

*1:がん治療に関わる妊孕性温存療法の場合

月岡 財布も痛いし、体も痛いですね……(泣)。私も、いざ本当にどっちかを選ばなきゃいけない状況になったら、まったく知らなかった新しい自分が出てきそうだなと思ってて。『産む気もないのに生理かよ!』を出版したときに、「まだ若いからこういうことを言ってるのであって、もうちょっと年取ったらどうせ焦り始めるよ」みたいなことを言われて、それはそれでムカついたんですよね(笑)。

私の場合は「子供が欲しいかもしれない」じゃなくて「産んだほうがいいのかもしれない」という焦りでずっと悩んでいたんだな、と最近気づいて。社会から焦らされている、悩まされている。「後悔するのではないか」と思わなきゃいけない、というのもあったのかも。

高橋 いざ結婚したら「じゃあ次は子供だね」、ひとり目を産んだら「じゃあ次はふたり目だね」みたいなプレッシャー、本当によくないなって思いますね。

仕事優先の昭和的上司と、家庭優先の部下に挟まれる「過渡期の男性」が一番大変?

本編(音声)では『ぼくたち、親になる』から見えた現代の父親のリアルな本音、「女性は出産の痛みに耐えられる/育児に向いてる」というトンデモ理論に思うことなどを話しています。YouTubeまたはPodcastよりお聴きください。

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次回も月岡ツキさんゲスト回。メディア業界でたびたび問題になる「働きすぎ」の弊害について話します。

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