濱田祐太郎の“武器”とは、視覚障害ではなく“芸人であるがゆえのスキル”。『ブラリモウドク』で見せた特別でも腫れ物でもない可能性

2025.9.17

文=斎藤 岬 編集=金子 昂


2025年9月14日、大阪・ABCテレビで『R-1ぐらんぷり2018』チャンピオンで盲目の芸人・濱田祐太郎による街ブラ番組『濱田祐太郎のブラリモウドク』が放送された。

2024年の前回放送はお笑いファンや芸人の間でたいへんな話題を呼び、2025年日本民間放送連盟賞テレビバラエティ番組部門の近畿地区審査を1位通過。また2025年5月には、吉本新喜劇とのコラボ舞台『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』で主演を務め、同年6月には初のエッセイ本『迷ったら笑っといてください』を刊行するなど、活躍の場を広げている。

1時間の特別番組として復活した今回の『ブラリモウドク』は、静岡県熱海市をロケ地とし、前回と同じく藤崎マーケット・トキに加え、ゲストにオダウエダ、バイク川崎バイクを迎え、商店街での食べ歩き、初めてのシュノーケリング体験、温泉など、熱海観光を堪能していた。濱田祐太郎という芸人の可能性を感じさせた本番組をレビューする。

濱田祐太郎
(はまだ・ゆうたろう)お笑い芸人。1989年9月8日生まれ、兵庫県神戸市出身。吉本興業所属。2013年より芸人として活動を開始し、『R-1ぐらんぷり2018』(カンテレ・フジテレビ系)にて優勝。現在は関西の劇場を中心に舞台に立つほか、テレビやラジオなどでも活躍。2025年5月には吉本新喜劇とのコラボ舞台で主演を務める。レギュラー番組に『オンスト』(毎週金曜日/YES‐fm)。6月に自身初のエッセイ集『迷ったら笑っといてください』(太田出版)を発売。

濱田祐太郎初の地上波冠番組『ブラリモウドク』

白杖を握った男が、観光客で賑わう熱海駅を背景に「絶景オーシャンビュー、要らんがな! どこのビューでも一緒やねん、俺」と言い切る。9月14日深夜に放送された『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)はそんな場面から始まった。

この番組の前身は、2024年6〜7月に放送された同名の深夜番組だ。

内容は、視覚障害のあるピン芸人・濱田祐太郎が先輩である藤崎マーケット・トキと共に大阪の街を歩く、いわゆる街ブラロケ。『R-1ぐらんぷり2018』チャンピオンである濱田にとって、初めての地上波冠レギュラーだった。

15分×全4回の放送では、堀江でハンバーガーを食べたり京橋の立ち飲み屋をはしごしたり、新世界のアミューズメントスポットに行ったり梅田で展望台に上ったりと、“王道”のロケを敢行。そのなかで、目が見えていないはずの濱田が射的を3連発で当てたり、難易度の高いボルダリングをすいすいこなしたり、これまでテレビでは観たことがないような光景から笑いが生まれていく。

その笑いを増幅するのが、トキやゲストの芸人たちが「お前、ほんまは目ぇ見えてるやろ!」といじり、濱田が「見えてへんわ!」と応酬するくだりだ。

大阪吉本の劇場界隈を観ている人間からすれば、濱田と周囲の芸人たちのこのやりとりはおなじみのノリである。ただそれが地上波で、テロップまでついて放送されたインパクトは大きい。新鮮さが全国区で芸人や業界関係者、お笑いファンの間で大きな話題を呼び、放送後はSNSで感想が飛び交った。

そうした好評も後押ししてか、今夏には「2025年日本民間放送連盟賞」テレビバラエティ番組部門近畿地区審査で1位通過を果たす。そして今回、1年のときを経て1時間の特番として復活することとなったのだ。

濱田相手だから成立するボケしろ

舞台は大阪の街を飛び出し、静岡県熱海市へ。熱海といえば海沿いのリゾート地。ロケスタート時、「絶景オーシャンビュー温泉」での撮影予定を聞かされた濱田が発したのが、冒頭の言葉だ。

なお、その前にはタイトルコールをする濱田に対し、トキが「カンペ読めとるがな!」とツッコミ。お約束のくだりが早速発動した。

この日の行程は商店街食べ歩きからスタートし、海でシュノーケリング体験、遊園地で遊んで温泉に浸かるという、1日で熱海観光を堪能するラインナップ。その中で数々のパンチラインが生まれていく。

商店街では海鮮丼を食べて「サーモンかな?」と魚を当てる濱田にトキが「味わかるねんな」と言えば「味はわかるでしょ、見えてないだけなんですよ」と応酬。

シュノーケリングの前にインストラクターからハンドサインを習う場面で、「このサイン、見たことあります?」と聞かれると即座に「ないです」。

船で移動中も、周囲が「熱海の街が一望できる」とはしゃぐ中で濱田は「景色は陸地と一緒ですね」とバッサリ斬っていた。

各スポットで登場するゲスト芸人とのやりとりも見どころのひとつだ。濱田相手だからこそ成立するボケしろをそれぞれが見いだし、仕掛けていく。これも『ブラリモウドク』の面白さのゆえんになっている。

後輩芸人であるオダウエダは水着姿で現れ、「植田はスレンダーな体型をしている」と主張。濱田に自分のお腹を触らせて「どこがスレンダーやねん」とツッコませたり、「レスキューサインを教える」と称して”テレビでやったらあかん”サインをやらせたりと、がんがんボケる。

後半で登場したバイク川崎バイク(BKB)は、動きが重要な自身のギャグが目の見えない濱田にはどう伝わっているのか質問を投げかける。それに対し濱田は「テンポよくイニシャルトークしてはる人」と回答。

その後、「BKBヒィーア!」の動きをレクチャーされて「日本でいちばん無駄な動きのレクチャー受けてます」とツッコんでいた。

オダウエダもBKBも、前回の放送時にSNSやラジオで「めちゃめちゃ面白かった」と激賞していた芸人たちだ。その縁あってのキャスティングなのだろう。2組ともこれまで濱田と絡む機会はあまりなかったはずだが、遠慮なくボケながら、必要な場面では誘導や手助けをごく自然に行っていた(もちろん、サポート慣れしたトキがいる安心感に支えられている部分は大きいだろう)。

最後は温泉へ。風呂に入って窓の方向を見ながら濱田が「最高です、オーシャンビュー」と冒頭のフリを回収すると、トキに「見えとるやないか」としっかり捕まえられてロケは幕を閉じた。

濱田祐太郎が自然な存在として受け入れられている

『ブラリモウドク』を手掛けるABCテレビ・児玉裕佳ディレクター/プロデューサーに筆者が取材した際、同氏は「障害があるとかないとかではなく、純粋に濱田さんという人が面白いから『一緒にお笑いがしたい』と思ってオファーした」と語っていた(「CREA Web」 2025年9月14日掲載)。

実際、この番組では障害当事者であることは特に強調されない。芸人たちがあちこち歩き回っていろんなことを体験し、その中で生まれる笑いを楽しむという、シンプルなロケ番組だ。

BKBが温泉に浸かりながら「海入ったりジェットコースター乗ったり、盲目と全然関係ないことしてる」と言っていた通りである。

でもその中でときおり、たとえばバイキングに行った濱田が「(食品にぶつかりそうで)動くのが怖い」と言うのを聞いて「なるほど、たしかに」と思わされたり、「目の見えない人がシュノーケリングするときってこんなふうにするんだ」と知ったり、視聴者が勝手に“発見”する構造になっている。

前回を観た者からすれば、今回の特番は「テレビで観たことないようなくだり」は少ない。でもそれが重要なのだと思う。「見えてるやろ」「見えてないねん」のやりとりに、「出た、お約束」と視聴者が笑う――そんなこと自体が、これまでテレビでは起きてこなかったのだから。

これが意味するところは何か。それはつまり、濱田祐太郎という芸人が、バラエティ番組の中で自然な存在として受け入れられているということだ。

特別扱いでもなく、腫れ物扱いでもなく、当たり前にそこにいて、自分の持っている武器で笑いをとっている。そして、ここでいう“武器”とは視覚障害それ自体ではなく、そのうえで放つワードのチョイスやタイミングといった、芸人であるがゆえのスキルを指す。

濱田が自身のYouTubeで語ったところによると、昨年の放送時は自分よりもはるかに高い経験値を持つトキと一緒に番組を、それも自分の冠という形でやることに対して引け目のようなものを感じていたという。

だが放送後の反響と、この1年間で新喜劇の主演やエッセイ『迷ったら笑っといてください』(太田出版)の出版などさまざまな新しい仕事を経験したことで芸人としての自信が培われ、今回は以前よりも自然体で臨むことができた、と振り返る(YouTube「濱田祐太郎 official」2025年8月31日投稿)。

そうしたスタンスの変化に加えて1時間という長尺だったことも相まって、今回の特番は前回のレギュラー放送時に比べ全体にゆったりした空気が流れていた。それを観ていて筆者が感じたのは、濱田という芸人の可能性の広がりだ。

近年は「ロケが面白い芸人」というくくりが視聴者にも共有されるほど、そこで力を発揮する芸人は多い。濱田がいずれそこに含まれるようになっても、なんら不思議ではないだろう。「この感じで朝の情報番組のロケをやってるところが観たい」──そんなふうに思わされた1時間だった。

※『濱田祐太郎のブラリモウドク』はTVer・ABEMAで見逃し配信中。

『迷ったら笑っといてください』濱田祐太郎

迷ったら笑っといてください 濱田祐太郎

爆笑問題・太田光 推薦!
「いま日本で、シンプルな『漫談』を出来るのはこの男だけ。
濱田、気づいてないだろうけど、俺はいつもすぐそばでお前を見てるからな。あ、出番の前は必ず鏡を見ろ。毎回鼻クソついてるぞ。」

子供の頃に憧れたテレビの世界に、障害者の姿は見当たらなかった。それでもバラエティ番組で活躍する芸人になることを夢見た。ただただ、お笑いが好きだったから──。

『R-1ぐらんぷり』第16代王者にして、盲目の芸人・濱田祐太郎。その芸人人生は「どれだけ頑張っても無理なのかもしれない」と「俺は面白いはずや」の狭間で揺れながら、今日まで続いてきた。

“多様性”をうたうテレビ界への疑念、実話漫談にこだわる理由、不安に苛まれた賞レースの予選、初の冠番組で得た手応え、“いじり”について思うこと……濱田にしか持ち得ない視点でそれらを語り尽くす、自身初のエッセイ集。

迷ったら、笑っといてください。

『QJストア』限定で、「新作・とりおろし漫談音声」特典つき特別版も販売中。

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斎藤 岬

(さいとう・みさき)編集者・ライター。1986年神奈川県生まれ。編集担当書籍に「別冊サイゾー『想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本』」(サイゾー)など。「芸人芸人芸人」「月刊芸..

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