年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、20歳・タレントの奥森皐月。
今回は、3月8日に決勝戦が生放送された『R-1グランプリ2025』について。過去最多のエントリー数で、例年以上に波乱の連続だった本大会を、奥森はどう見るのか?
目次
「個の意志の強さ」を感じる『R-1グランプリ』
3月8日、ピン芸日本一を決める『R-1グランプリ2025』の決勝戦がカンテレ・フジテレビ系全国ネットで放送された。今年の『R-1』のエントリー数は昨年より54人多く、過去最多の5,511人となった。
たったひとりで舞台に立ち、お客さんを笑わせたいと思ってエントリー費を払って参加する人がプロアマ問わず5,511人もいるという事実は、冷静に考えて異様だ。
友達とふざけたノリの延長で『M-1』にエントリーするのとは訳が違う。「個の意志の強さ」のようなものを感じられるのが『R-1グランプリ』の魅力だと思う。

今年の『R-1グランプリ』は審査員に友近さんと佐久間一行さんが加わり、7人体制となった。「ピン芸」というルールの中に、漫談・コント・フリップネタ・歌ネタとさまざまなジャンルがある。その中で優劣をつけるというのは特有の難しさがあると想像できる。
今回の審査員7人は、それぞれ自分でネタを作り披露してきた芸人さんで、7人それぞれにジャンルがある。だからこそ、審査結果にも個性が出ているように見えた。
人数が増えたことにより、審査基準や好みの種類も増える。全員が似通った点数にならず、最高得点をつけるネタもばらつきがあったので、観ていて結果が読みきれずおもしろかった。
友近さんは過去にも『R-1』の審査員を務めていて、『THE W』などでも審査員をされている姿を見たことがあったが、佐久間一行さんにはイメージがなかった。ただ、今回の『R-1』を通じて、佐久間さんが審査員としても素晴らしい方なのだということがよくわかった。
点数は89点から98点ときちんと差をつけていて、コメントは限られた時間にもかかわらず端的でわかりやすい。自らがプレイヤーであるからこそできる言い回しや、ファイナリストに寄り添うような優しいコメントが多く、来年以降も審査員にいてほしい大きな存在だった。
ふかわりょうも初参戦!波乱の『R-1』予選
今年の『R-1』の予選は波乱の展開が続いていた。
1回戦・2回戦の日程が、例年と比べかなり前倒しになるというスケジュールの改変。過去のファイナリストや知名度の高い人が、準々決勝と準決勝で次々と敗退。
また、予選の映像がYouTubeで突如公開されるようになった。「急にネタが公開されて驚いた」と出場している芸人さんが話しているラジオを聴いたので、全方面へのサプライズだったのだと思う。
YouTubeでの賞レースの予選の動画は、新たにおもしろい人を見つけるきっかけにもなる。予選動画が話題になって再生回数が伸びると、それだけ決勝への注目も高まるので、来年以降も観られたらうれしい。
今回の『R-1』に出場して話題を集めたのは、芸歴30周年の50歳にして初参戦のふかわりょうさん。昨年から『R-1』に向けて新ネタを何本も作り、ライブにも積極的に出演していた。
準決勝で惜しくも敗れてしまったものの、予選のネタがおもしろかったので、これからもネタを観る機会があればいいなと思った。ふかわさんのネタもYouTubeの予選動画で観られるので、今のうちに視聴することをおすすめする。
芸歴30周年で、50歳で、新ネタを作って挑戦するというのは本当にすごいことだな。と思っていたら、今回のファイナリストにはなんと「デビュー35年、歴代最年長50歳」のチャンス大城さんがいた。ちなみにこれまでの史上最年長記録は、2002年大会のオール阪神さんで、45歳だったらしい。
チャンスさんの『R-1』への挑戦は15回目で、今回が初の決勝進出。近年はテレビのドッキリ企画やトーク番組で活躍されているので、 『R-1』の決勝で観る日が来るとは思わなかった。

事前番組にて「今までは過激なネタをしていたが、今回は一般のお客さんにウケるネタを意識した」というような話をされていた。
いったいどんなものなのだろうと楽しみにしていたら、形態模写ネタに始まり、人形とキスをしたり、エピソードトークが挟まったり、ギターを弾きながら口からまっくろくろすけを大量に出したりと、しっかりチャンスさんの世界で大笑いしてしまった。
煌(きら)びやかなセットと地下ライブの空気感のミスマッチさが妙におもしろく、舞台上に人形が2体いるだけの時間の破壊力は凄まじい。“一般のお客さん”とはいったいなんなのだろうと考えるきっかけになった。
優勝は逃したけど…奥森が注目したファイナリスト3人
今回のファイナリストは、優勝経験のある田津原理音さんをはじめ、幾度となく決勝に残り優勝を逃してきたルシファー吉岡さん、マツモトクラブさん、吉住さんというアツいメンバーがそろっていた。
「今年こそ優勝してほしい」と思う人ばかりで、優勝者がひとりなのが憎いくらいだ。
「20年連続決勝進出」まで行きそうなルシファー吉岡
ルシファー吉岡さんは、以前までの『R-1』では下ネタのコントで2016年から2020年まで決勝に進出。
一時は芸歴制限で出場できなかったが、撤廃されてから初の決勝となった去年は下ネタを封印。純粋なひとりコントでファーストステージを1位通過した。

今年の決勝でも下ネタが入っていないネタで挑み、「菅田将暉の外見になっても、我々の魂では、菅田将暉を経営できない」という最高のフレーズを残した。個人的には今大会で一番好きな一文だった。
点数は思ったより振るわなかったが、たった1年でまた新しい角度のこれだけおもしろいネタが作れるというすごさを感じた。
いつか優勝してほしいけれど、この調子だと「20年連続決勝進出」くらいまで行ってしまいそうだ。これからもっとおじさんになったらどんなネタをするのだろうと考えると、楽しみで仕方ない。
哀愁のあるキャラクターが似合うマツモトクラブ
ルシファーさんと同じく7回目の決勝戦となった、マツモトクラブさん。4年ぶりに『R-1』の舞台に帰ってきたのだが、さらにパワーアップしているように感じられてカッコよかった。

これまでも音声を使ったかけ合いがメインのコントを披露していたが、今回はその音声の人数が増え、大人数がいる空間という設定を見事に表現していた。
年齢も重なり、今まで以上に哀愁のあるキャラクターが似合っているように感じる。密着の映像やネタ中以外のときの見た目は、ほぼトヨエツだった。
コントではわりと暗いおじさんや変わった人のキャラクターが多いので、イケおじのキャラクターでドラマとかに出てほしい。日本中がメロメロになると思う。
「審査員のコメントは絶対聞かない」強いマインドの吉住
吉住さんは、吉住さんらしさがありつつも、これまでよりさらに技術的な面で進化していて、複雑な設定を華麗にネタにしていて、笑いながら感服してしまった。「アウトドアは尻軽の隠語」というこれまた強烈なパンチラインがカマされていて最高だ。

しかし、審査コメントでは「おもしろさよりもすごさが勝ってしまう」というような意見が多く、あまり点数が伸びなかった。
ただ、事前の特番で吉住さんは「審査員のコメントは絶対聞かない」「自分がやりたいこと、やれることをやって圧倒するしかない」というような発言をされていてカッコよかった。
そのマインドも含めて、自分は吉住さんが好きなのだなと改めて感じた。
この3組はそれぞれが、自分の世界・自分の道を貫いてどんどん更新しているように見える。職人という言葉がピッタリであろう。
『R-1』で披露していたネタが好きだった人や、おもしろいと思ったのに点数が伸びなくてがっかりしてしまった人は、その芸人さんの単独ライブをぜひ観てほしい。もっと好きになれると思う。
『R-1』とほぼ同い年!芸歴3年目の友田オレが優勝

『R-1グランプリ』は、2021年からの3年間「芸歴10年以下」という出場制限を設けていたが、昨年撤廃となった。
田津原理音さんは、この芸歴制限があるときのチャンピオンだったため、『R-1』レジェンドたちと戦ってまた優勝したいという想いがあったそうだ。
今回のファイナリスト9人のうち芸歴10年目以下なのは、3年目の友田オレさんと、10年目の吉住さんだけ。ほかの7名は芸歴12年目〜35年目というメンバーだった。
芸歴を重ねた強者ぞろいのファイナリストの中で、圧倒的に若かった友田オレさんが見事チャンピオンの座をつかみ取った。正直、彼のおもしろさを知っているファンでも、今年優勝するとまで思っていた人はあまり多くはないのではないか。

『R-1グランプリ』がスタートした2002年の前年に生まれたという、ほぼ『R-1』と同い年の友田さん。大学お笑いでは圧倒的な実力で結果を残し、在学中に『ABCお笑いグランプリ』で決勝にも進出した超エリートだ。
これまでの史上最年少優勝は粗品さんの26歳であったが、今回、友田オレさんは23歳で優勝。大幅に記録を更新した。
1本目に披露した『風間和彦』のネタは、ファーストステージで最高の662点を獲得。チャンス大城さんやハギノリザードマンさんのような短いネタを次々披露するネタや、ストーリーがしっかりと展開していくコントが披露されていた中で、『辛い食べ物節』は大きなボケが3つあるというかなり攻めたネタだ。

このような系統のネタは、お笑い好きのお客さんが集まるライブなどでは大いに盛り上がるのだが、大会では厳しい点をつけられてしまう印象だった。そのため、今回友田さんがこのようなネタで優勝したということにかなり興奮している。
『R-1』の決勝の舞台がお笑いライブシーンと大きく差がないのであれば、今後も未だテレビに出演していないおもしろいネタを披露する芸人さんが、陽の目を浴びる可能性が高い。その未来を想像するとワクワクする。
近年のお笑い界は、若手芸人さんといえど30代の方が多く、若くても20代後半の人が大半。2000年以降に生まれた若い世代が、お笑いの世界でこのように活躍を遂げていることがとてもうれしい。友田さんを筆頭に、新しい世代の芸人さんの今後が楽しみだ。
少しずつ「夢のある大会」になっている
芸歴制限が設けられたことや、決勝の生放送で優勝ネタの映像がもう一度流れた事件など、『R-1グランプリ』は芸人さんからもお笑いファンからも「変な大会」という扱いを受けていることが多かった。
しかし近年、芸歴制限が撤廃されたり、ネタ時間が3分から4分になったり、予選動画がYouTubeで公開されるようになったりと、着々と賞レースとして洗練されている。
誰に感謝するべきかまったくわからないが、観る側としてはより楽しめるようになっているので、ありがとうと伝えたい。
「『R-1』に夢はない」と言われたあとから、少しずつ夢のある大会になっていると思うのだが、気のせいだろうか。ファイナリストの今後と『R-1グランプリ』の進化をみんなで見逃さないようにしたい。
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