「芸人として絶対売れよう」腹をくくった美人おねえさんとの出会い<エバース佐々木「ここで1球チェンジアップ」>

エバース佐々木

正統派スタイルながら、独特な切り口を持った漫才で注目を集めるエバース。そのネタ作りを担当する佐々木隆史は、野球一筋の学生時代を過ごしてきた。現在は漫才一本で強豪たちと戦う佐々木が、あのころの自分と重ねながら日々を綴る連載「ここで1球チェンジアップ」

「若手お笑いタレントの登竜門」といわれる『令和6年度NHK新人お笑い大賞』で大賞を受賞し、初の全国タイトルを獲得したエバース。そんな喜ばしい状況の中で、ふと自分の幸せについて考えたバイト先の美人おねえさんのひと言を思い出す。

初タイトルの影響力

どうもエバース佐々木です。

11月に入り完全に『M-1グランプリ』予選の熱い時期に差しかかってきました。そんななか、我々エバースは念願の初タイトルとなる『NHK新人お笑い大賞』を受賞することができました。

全国生放送だったので地元の友達や親戚からすごい数の連絡が来たり、会う芸人全員に褒めてもらえたり、SNSですごい反響があったり。僕らがYouTubeの番組でMCをさせてもらってるAKB48の研究生の子たちが大人に強制されてないとおかしいくらい全員が一斉に祝福ポストをしてくれたりと、自己肯定感を限りなく高めることができ、もうNHKさんには足向けて寝られないです。

そんな99%のうれしい言葉の中、たった1%の嫌な言葉が一番目についたりするもので。そんなどこの誰かもわからん変なヤツの言葉なんて気にしなくていいんですが、自分はまったく認識していない会ったこともないしゃべったこともないのに、あっちは自分のことを認識していて少なからず負の感情を自分たちに抱いている。そんな人間が日本のどこかには確実に存在していると思うとけっこう怖いですね。

たぶん、そういう人ってみんなが褒めてるものを否定し認めないことで、自分はそれ以上の価値がある存在だと思いたい。これもまた別角度の自己肯定感を高める方法なのかなと思ったりもします。

幸せとは他人と比較することで生まれる感情です。

目標を達成し、まわりより優れた結果を出すことで幸せを感じる人間もいれば、他人を攻撃して落とすことで相対的に自分を上に上げて幸せを感じる人間もいます。

もしこの地球上に自分ひとりしかいなかったら、幸せなんて感情は存在しなかったんじゃないかと思ったりもします。わかんねぇけど。

それだけ幸せって曖昧なもので人間が勝手に作った言葉だなって思います。

“幸せ”の尺度は人それぞれ

僕は大学を卒業後、上京してすぐ深夜のマンガ喫茶でバイト始めました。

そのバイト先には歌手デビューをするのが夢で、少しだけ芸能活動をしてる美人おねえさんがいて、ふたりっきりのシフトのときはちょっとドキドキしながら働いてました。

そんなある日のバイト中、40代中盤くらいのけっしてきれいとはいえない身だしなみのおじさんとおばさんがベロベロに酔っ払いながら入店してきました。

お互い腰に手を回し、人目をはばからずイチャイチャしている中年カップルの接客を終え、仲よくカップルシートに入っていくその背中を見ながら、歌手志望の美人おねえさんがひと言、

「いいよね、幸せの沸点低いと。人生楽しそうで」

その表情はどこか儚げで今でも脳裏に焼きついています。

数年後、僕はマンガ喫茶のバイトをとっくに辞めていたのですが、ふとあのときの美人おねえさんが歌手デビューできたのかなんとなく気になり、ネットで名前を検索してみました。そこで最初に出てきた画像は、エッチなコスプレをしながら女の子同士でプロレスをする「キャットファイト」に出演している姿でした。

キャットファイトからどういうルートで歌手デビューできるのか僕にはわかりませんが、歌手の夢を叶えるため、きわどい衣装で関節技のキャメルクラッチに耐えるその顔は、あのときのようにどこか儚げで、誰よりもきれいで、僕もこの大都会・東京で芸人として絶対売れようと腹をくくることができました。

本当に幸せの尺度って人それぞれです。

あの美人おねえさんが今どこで何をしてるのか、夢を叶えてるのか、志半ばであきらめたのかまったくわかりません。

人の夢と書いて「儚い」っていいますからね。

エバース佐々木
マンガ喫茶でバイトしていた時代の佐々木

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佐々木隆史(エバース)

(ささき・たかふみ)1992年11月6日生まれ、宮城県出身。お笑いコンビ・エバースのボケ担当。レギュラー番組『エバースのモンキー125cc』(stand.fm)、『エバースの野茂ラヂ雄』(Artistspoken)。

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