正統派スタイルながら、独特な切り口を持った漫才で注目を集めるエバース。そのネタ作りを担当する佐々木隆史は、野球一筋の学生時代を過ごしてきた。現在は漫才一本で強豪たちと戦う佐々木が、あのころの自分と重ねながら日々を綴る連載「ここで1球チェンジアップ」。
第2回は芸人としてデビューしてからまったく目が出なかった4年間と、そんな期間を抜け出すきっかけとなった先輩芸人のひと言を振り返る。
芸人ごっこのレベルにすら立てなかった
どうもエバース佐々木です。神保町よしもと漫才劇場に所属しているしがない漫才師です。
神保町よしもと漫才劇場を知らない方のために説明させていただくと、吉本の1年目から11年目くらいまでの若手芸人がたぶん総勢600〜700組くらいでしのぎを削り、勝ち残った60組くらいが劇場所属メンバーとして舞台に立つことができる場所です。
現在は神保町が吉本若手芸人の登竜門的な存在になっていますが、僕らが1年目のときは渋谷にあるヨシモト∞ホールが1〜10年目の若手が所属する劇場でした。
今回はここでの無限大地獄編についてお話しできればと思います。
当時(2016年4月~2018年1月)の∞ホールはファーストクラス、セカンドクラス、サードクラス、トライアルクラスの4軍に分けられていて、1年目は自動的に一番下のトライアルクラスからスタートになります。
毎月行われるバトルライブを勝ち抜いて上のクラスに上がったり、負けて下のクラスに落ちたりして一喜一憂するのが、いわゆる売れてない若手芸人の「俺ら青春やってるぜ!!」みたいな時期なのですが、結果的に僕らは神保町に主戦場が変わるまでの4年間、この吉本の底辺若手芸人数百組がはびこるトライアルクラスを一度も抜け出すことができませんでした。
なんで辞めなかったのか今でもよくわかりません。それくらい今思うと地獄の4年間でした。
普通は賞レースやバトルライブでまったく結果が出てなくて吉本の劇場の出番がほとんどなくても、自分たちで池袋や下北沢のライブハウスを借りて同期ライブやユニットライブを主催し、「同期ライブありがとうございました!!」とか言いながらみんなで打ち上げしてる写真をSNSにアップすることで、相互フォローになっている学生時代の好きだった子に「俺、今芸人やってるんだぜ!!」ってアピールしながら『M-1グランプリ』は1、2回戦で落ちる。これが吉本の若手芸人の主な活動です。
ただ、僕らはそんな芸人ごっこのレベルにすら遠く及ばない、うんこみたいな生活を送っていました。
月2、3回しかライブないのにフリーライブにエントリーして新ネタ試すとかは一切せず、毎月のバトルライブで新ネタを下ろして0笑いで客票も0。エンディングの平場でしゃべったことも一回もありません。
意識高いから新ネタを下ろしてるわけじゃなく、勝てる自信があるネタがひとつもないから仕方なくぶっつけで新ネタやってるみたいな感じでした。
SNSも4年目くらいまでまったくやらず、エバースの情報を知る術がないのでファンももちろんできない。誰がどう見ても1、2年で辞めて地元帰るヤツの動きです。
でもたまに劇場の上のクラスの芸人のネタを見たときに発動する「俺らのほうがおもしろいこと言ってるけどなー」という根拠のない自信だけが、なんとなく辞めずに芸人を続ける唯一の理由になっていました。
初めて認めてくれた偉大な先輩
そんななんの変わり映えもないうんこみたいな4年間を過ごしていましたが、芸歴4年目の12月に転機が訪れます。
先輩と後輩でシャッフルコンビを組み、漫才をして客票で優勝を決めるというライブがあったのですが、当時『M-1』決勝初進出を決めたばかりのオズワルド伊藤(俊介)さんと万年トライアルクラスの僕がコンビを組むことになったのです。
しかも伊藤さん直々の指名らしいと先輩から言われ、伊藤さんとふたりでご飯に行くことに。伊藤さんはどこで見たのか僕らのネタを何本か知ってくれていました。
そんな世間話の流れで「芸歴近い芸人だと誰とかがいるの?」と聞かれ、「同期だと○○とか○○とか、一個上だと○○さんとか○○さんですかねー」と、とりあえずオズワルドさんでも知ってるであろう劇場の上のクラスにいる芸歴が近いだけでほとんどしゃべったこともない人たちの名前を何組か挙げていたら伊藤さんが、
「まあでも負ける気しないだろ?」。
この伊藤さんのひと言が、僕の地獄の無限大編に終止符を打ってくれました。
何も現状は変わってないけど、なぜかこのうんこみたいな4年間が救われたような気がしました。
そして、伊藤さんに漫才の基礎を1週間で叩き込まれ、シャッフル漫才ライブ当日を迎えました。
「お前まだ漫才でちゃんとウケたことないだろ? ウケるってどういうことか体感させてやるよ」
そう言って、センターマイクにゆっくりと向かう『M-1』ファイナリストの背中は誰よりもカッコよく、いつか超えなければいけない壁なんだと強く思いました。
そうして臨んだ伊藤さんとのシャッフル漫才は16組中10位でややウケでした。
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