ストレッチーズ高木×奥森皐月「唐突で想像できないから笑っちゃう」コンビ大喜利『AUN』名場面を語る

2024.9.19
AUN_MC対談

文=釣木文恵 撮影=長野竜成 編集=梅山織愛


10月26日(土)に過去最大規模で開催される第8回『AUN~コンビ大喜利王決定戦~』。その予選となる『AUN〜新呼吸〜』第二陣が、9月20日(金)に開催される。

今回もMCを務めるのは、ストレッチーズ高木貫太と奥森皐月。本選出場へのひと枠をかけ、本選とはまた違う独特な雰囲気の中で行われる『新呼吸』のMCを務めるふたりに、これまでの戦いで印象に残っている場面やコンビを聞いた。

『AUN〜新呼吸~』第二陣チケット情報

奥森皐月
(おくもり・さつき)2004年生まれ、東京都出身。女優・タレント。『AUN〜コンビ大喜利王決定戦〜』では第5回の本戦以降、予選・本戦ともにMCを務めている

高木貫太
(たかぎ・かんた)1991年生まれ、埼玉県出身。お笑いコンビ・ストレッチーズのメンバー。『AUN〜コンビ大喜利王決定戦〜』では第5回の本戦、第6回以降の予選『新呼吸』のMCを務めている

AUN_MC対談
左:高木貫太、右:奥森皐月

真空ジェシカvsママタルト、歴史に残る戦い

おふたりは『AUN』第5回の本選MCとして登場されて以降、現在に至るまで、奥森さんは全公演、高木さんは予選にあたる『新呼吸』のMCを務められています。最初にMCのオファーが来たときの気持ちは?

私は第1回からずっと観ていたライブだったのでうれしかったですね。

それまでMCだったバイク(川崎バイク)さんがスケジュールNGで僕と奥森さん、って意味不明ですよね(笑)。『AUN』については盛り上がっているという噂だけ聞いていたので構えてたんですけど、フタを開けてみたらメンバー全員、一緒に飲んだことのある人たちで。初めてMCをやった第5回の本選が一番友達が多かったかもしれない。

たしかに貫太さんとこのメンバーの並び、見たことがありすぎる(笑)。

だから楽しかったですね。

MCとして大会を見守ってきた中で、特に印象的だったコンビや対戦はありますか?

やっぱり最初に観た第5回本選の決勝、真空ジェシカとママタルトの「2on2大喜利」がすごすぎた。

中華屋さんのお題(※「激ヤバ中華料理店『○○はじめました』」)。あれはすごすぎて会場がどよめきましたよね。

(ママタルト)大鶴肥満がいい回答で2ポイントを出して、真空ジェシカ川北(茂澄)さんが2ポイントで返して。そのあと、川北さんの回答に(真空ジェシカ)ガクさんが、さらにひわちゃん(ママタルト檜原洋平)が被せて「これはママタルトの勝ちか」と思ったタイミングで、一番強い回答を川北さんが出して真空ジェシカが勝って終わるっていう。R-指定vs呂布カルマみたいだった。

第5回『AUN〜コンビ大喜利王決定戦〜』【ママタルトvs真空ジェシカ】

歴史に残る戦いでしたね。この日、私は『新呼吸』も見せていただいたんですけど、勝ち上がった都トムがすごくて。大喜利が始まる前の部分でのモノマネも、もちろん大喜利も。そもそもピンでやっているおふたりなので、個々の能力が際立っているんですよね。そのまま本選でも、真空ジェシカさんとかなり競っていたし。

本選では藤子不二雄になってたよね。あれでよく大喜利をやり通せたなっていう芸術点もあった。

『AUN』って、それまでは突飛なことをやる人たちが多かったんですが、都トムはしっかりモノマネをやるっていう、新しい扉を開いた感じがありました。

AUN_MC対談
とある映画のポスターをイメージして撮影する高木と奥森

伝統の“登場ボケ”の思い出

ていうか、あの登場でボケるのっていつから?

あれね、最初からです。Aマッソさんとかが普通に机に立ったり。

それ、ただの落ち着きのない子じゃん(笑)。

最初のころは事前に練ってきたボケをやるのではなくて、とにかくめちゃくちゃする感じが強かったと思います。ランジャタイさんがトーナメント表をぐちゃぐちゃにするとか……。それがいつの間にかやらないほうがおかしい感じになって。その中で都トムは特にしっかりモノマネして、「都トムじゃない人が出てくる」みたいな感じでやっていたんですよね。

そう思うと、たしかに都トムの登場から“仮装感”が増したかもしれませんね。

大喜利の助走部分というか仮装部分(笑)は、毎回印象深いです。今思い出すのは、第7回のさすらいラビー宇野(慎太郎)の「9番レフトキモオタ」がマジで意味わかんなくて。ちょうどあんまおもしろくない感じが、すごくおもしろかった。で、みんなが忘れたころ、対戦中に人間横丁の山田(蒼士朗)くんの答えをイジる流れでひとりだけ守備のポジションにつく動きしてて「まだやってたんだ」っていう。あれはお笑いライブのおふざけとしてのよさが12秒くらいにギュッと詰まってて、すごく印象に残ってますね。

私は最初に貫太さんとMCをさせていただいたとき、ストレッチーズじゃないんだ、ってなって。サツマカワRPGさん&Yes!アキトさんに「福島(敏貴)が奥森皐月に変えられた」「返せ!」って言われたのはおもしろかったです。

あったね(笑)。そんな中で恒例になっているのが、吉本の人はあんまり仮装してこないということ。吉本にはあまり趣旨の連絡が届いていないんじゃないかというのもありますけど、何回かやっていると逆にそっちのほうがかっこいいとまで思うようになってきました。第6回予選のナイチンゲールダンスも、何も準備してなかった気がする。そこで、パワーだけで行く感じは吉本ならでは。

同じ回の9番街レトロさんも。

そう、急遽ユニクロのサイズシールのボケをしたりして。そういうの、ウケるじゃないですか。9番街もナイチンも、この前(『AUN~新呼吸~』第一陣)のシモリュウさんも。そういうパワーを誇示されていくと、いっぱい仮装してるやつが弱虫みたいに見えてきたりもする(笑)。いや、どっちも素晴らしいんですけどね。

第7回『AUN〜新呼吸〜』のダイジェスト映像。さすらいラビー宇野が扮する「9番レフトキモオタ」の姿も

「飲んでる水が違う」矢野号の大喜利

(過去の出場者一覧を眺めながら)こうやって見ると、『AUN』ってキャスティング変ですよね。

めちゃくちゃ変。矢野号&街裏ぴんくとか、街裏ぴんく&ルシファー吉岡とか。運営がぴんくさんのこと、すごい好きなのかな。「おじさんと組ませればぴんくさんを出せる」って思ってるフシがある。

たしかに(笑)。あと、どうしてもコンビでとなると、得意なお題や回答を出すスピードが違うものだけど、フランツさんってすごく不思議で、どちらも大喜利強いし、回答が速くて、手数も多いんですよ。

フランツはふたりとも強いイメージあるな。あとは、それこそ矢野号さんが突然にんじんの笛を吹き始めてめちゃくちゃ笑った記憶ある。

ライブによく出ている人と違う方面から来た人とで、回答の質もちょっと違うんですよね。矢野号さんも、みんなの考えている範囲と違うところから持ってくる感じがあります。

それはめっちゃ思った。矢野号さんの大喜利って「飲んでる水が違う」感じがする。明らかに違った環境で育った生き物、みたいな。

私、そもそも大喜利がめっちゃ好きで、芸人さんの大喜利ライブも観に行くし、アマチュアの方の大喜利も観るんですよ。大喜利っていろんなおもしろさがあって。共感するのも、「それ正解っしょ!」という気持ちよさもあるけど、私が特にグッとくるのが、「このお題を観て、何をどういう順番で考えてそれを出したんだろ?」っていう答え。想像できないことだから、おもしろいなって思うんですよ。だから矢野号さんのように唐突な回答が挟まれると、どうしても笑っちゃいますね。

AUN_MC対談

こんにちパンクールの衝撃

こんにちパンクールって、まあ警備員は芸人として活動してるけど、ぺるともはただの大喜利がおもしろすぎる素人じゃないですか(笑)。第6回の『新呼吸』で彼らのすごさを目の当たりにしたけど、本選もあれよあれよという間に勝ち上がって。さすがに本選まで優勝したら俺らの面目がないって、楽屋で決勝の対戦相手のケビンスを全員で応援して送り出す時間ありましたから。「ぺるともに優勝させちゃいけない、プロの意地見せてやれ、頼む!」って。実際、決勝も激戦でしたけど、このときはこんにちパンクールがおもしろすぎました。

まず予選からすごかったですもんね。「パッチューネ(※お笑い事務所)という言葉を使った脅迫」ってお題。

ああ、あれおもしろかった! このとき、すごい感じたのが、ふたりとも技が多いなって。モノマネを入れることもできれば、絵回答もできる。回答前にちょっと演技して、フリップをナレーションみたいに出すみたいに、今までなかったようなものとかも。そういう技をいっぱい持ってる感じがしました。『新呼吸』の決勝でこんにちパンクールと対戦したフランツはお笑い大好き少年って感じで、まっすぐおもしろい回答を答えてたから、俺としてはフランツも応援する気持ちもあったんですけど、まあこんにちパンクールが強かった。

たしかに、こんにちパンクールのふたりは回答の角度と表現力、両方を兼ね備えている感じがします。

それこそパッチューネのお題って“脅迫”なんですよ。フランツはまっすぐ脅迫っぽい答えを出してたんですよね。でも、ぺるともは『ネプリーグ』(フジテレビ)の「ファイブボンバー」を踏まえて、「お笑い事務所5つ答えよ『ほんまごめん、パッチューネ』」って答えた。これって、実はQ&Aにはなってないじゃないですか。「大喜利のお客さんはこれくらい拡大解釈しても笑ってくれるよね」というゾーンを作るのが彼らはめっちゃうまかった、というのはこの対戦で感じましたね。

第6回『AUN』優勝時のこんにちパンクール警備員・ぺるとも
第6回『AUN』優勝時のこんにちパンクール警備員(左)・ぺるとも(右)提供:ワラパー

大喜利の学校と塾に通っている人と、そうじゃない人

大喜利ライブって、ものによってはひとつのお題で数十分やるものもある。だから大喜利に慣れている人は普通の答えから崩したものまで、自在に回答できるんですよね。大喜利がおもしろい人に「どうやったらおもしろくなるんですか?」って聞くこともあるんですけど、やっぱり「文字のネット大喜利をがんばるしかない」って言う方が多いんですよ。

へー! 大喜利ってそうなの?

(笑)。芸人さんは身体を使った大喜利をやるじゃないですか。大喜利の人は言葉ベースの大喜利で基礎をやって、ライブにも出て。学校行って塾も行って、みたいな感じでどっちの力も伸ばしていく。だから芸人さんがやってきている大喜利のやり方とはまったく違うプロセスで作っているんだなって思います。

たくさん大喜利ライブに出ている芸人、たとえばサツマカワ&アキトは比較的そういうこともできると思うんです。でも「大喜利界隈」じゃない、それこそ塾も学校も通ってない、芸人としてネタや平場をやっているだけという人の大喜利も、それはそれで魅力的で。こないだの第一陣のキャプテンバイソンとか、大喜利慣れてないんだろうなって感じがめっちゃよかったですね。おもしろかったし。

顔でなんとかしようとしていましたね(笑)。

『AUN〜新呼吸〜』第一陣でのキャプテンバイソン

「お笑い芸人ってそれだよな!」という魅力があって。ナユタはネット大喜利も得意なんだろうなというおもしろさがあるけど、キャプテンバイソンは全然そこが得意じゃなさそうで、それもいいよなと思いました。言わずもがなですけど、シモリュウさんが自分たちの美学を持ってお笑いライブとして大喜利に挑んでいる感じもおもしろかったですね。

『AUN〜新呼吸〜』第一陣でのナユタ

とんかつ街道(現・ド桜)も。村田(大樹)さんが大きい声出せばいいみたいになって、回答する前に内容関係なく「行けーっ!」って言ったりして。

あれはちゃんと『AUN』をフリにして自分のプレゼンをしている感じがあった。

そう思うと村田さんって唯一無二ですよね。回答も。それって本当に強みというか、誰もマネできなくておもしろいなって思います。

知らない話を知る喜び

『新呼吸』では貫太さんが「俺スナさんを知ってますか?」と観客の温度を測りますが、本選だと奥森さんがBKBさんをサポートすることが多いですね。

BKBさんって、わからないとき本当に「は?」という顔をされるんですよ。でも観客の方も全員がライブのお笑いを詳しく知っているわけではないから、その反応が絶対に正しい。だからBKBさんと本選のMCをやるときは、私はサッカーの実況でいう“解説の人”というポジションのつもりで楽しんでいます。『新呼吸』では、貫太さんは守備範囲が広いし足も速いし、という感じですべてに対応される。だから貫太さんとMCするときはもう、一番近くで見られてうれしいという感覚です。

「下北GRIP」とか「ぐんじんさん」とか、自分が最初に言いたい、まであって。初見のお客さんからしたらよくないMCだとは思うんですけど……。でも個人的には、テレビやラジオで知らない話で盛り上がってるのを聞いて、自分も観てみようとか調べようとかしてハマっていくのもありなのかなって。もしお笑いライブ入門編として『AUN』に来てしまった人には、一応がんばってフォローするつもりですけど、内輪の楽しさも見せたいなとは思いますね。僕自身、プロレス全然知らなかったですけど、ケンドーコバヤシさんの話す越中詩郎さんの話でめちゃくちゃ笑ってましたし、調べたりもしたし。まあ越中さんとぐんじんさんを並べるのはおかしいですけど(笑)。

最後に、おふたりがMCをやっていてお互いに阿吽の呼吸を感じた瞬間は?

一番助かっているのが、もう最近は何も言わなくてもAブロックとBブロックの間、俺が水を飲みに行く時間をつないでくれること。

貫太さんとMCするときは、そこが一番気合い入ってます(笑)。

あと、やっぱり出てくる単語を全部わかってくれているという安心感はめっちゃあるかもしれない。お笑いが詳しくない人だったら「わかってるかな?」と思って気を遣っちゃうけど、奥森さんなら絶対楽しんでくれてるだろうなと思える。なんなら一番奥の情報を言ってくれるときもありますし。あと、きわどい答えでも、奥森さんが笑っていることで安心する人も多いと思うんですよね。

なにより本当に貫太さんが端から端まで歩き回るのがいいなって思います。いろんなタイプのMCの方がいらっしゃいますけど、“動”の、こんなにも汗をかいてどんなボケもすくい上げる貫太さんのMCは、特に『新呼吸』のような場ではものすごく頼もしいです。

これからのおふたりのMCも楽しみにしています。

でも、考えてみたら『AUN』って不思議だし特殊ですよね。こんなに大喜利の前の部分でふざけて、そのあと、大喜利の部分はみんな本気でやる。普通はどっちかだと思うんですよ。登場と対戦とで、まったく空気が変わる、その繰り返し。競技性とエンタメ性がどちらもマックスなのはすごいなと思います。

ほんとそこが、『AUN』って絶妙なバランス感で成り立ってる大会ですよね。

AUN_MC対談

予選『AUN~新呼吸~』第二陣
■概要:本選への出場権1枠をかけて、8組の出演者がコンビ大喜利に挑戦します
■日時:2024年9月20日(金)18:30開演
■会場:角筈区民ホール(東京都新宿区西新宿4-33-7)
■MC:高木貫太(ストレッチーズ)、奥森皐月
■出場者:今井らいぱち&kento fukaya、ガクヅケ、カラタチ、さすらいラビー、シンクロニシティ、ド桜、フランツ、街裏ぴんく&ルシファー吉岡 ※五十音順

本選 第8回『AUN~コンビ大喜利王決定戦~』開催概要
■概要:予選から勝ち上がった2組(各予選の優勝者)を含む16組の芸人が、トーナメント方式で「日本イチ大喜利が強いコンビ」の座をかけてコンビ大喜利に挑戦します
■日時:2024年10月26日(土)15:00開演
■会場:一ツ橋ホール(東京都千代田区一ツ橋2-6-2 日本教育会館3階)
■MC:バイク川崎バイク、奥森皐月
■出場者:Yes!アキト×サツマカワRPG、オダウエダ、ケビンス、こんにちパンクール、十九人、春とヒコーキ、ママタルト、マユリカ、ヨネダ2000 ※五十音順/残り7組は後日発表

この記事の画像(全8枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。