Kroi『Unspoiled』:PR

浅野いにお×内田怜央(Kroi)の共鳴する“反骨精神”。新しい世界を構築するため、ぶっ壊したいもの

2024.6.26

文=岸野恵加 撮影=長野竜成 編集=菅原史稀


浅野いにおは、長年にわたり音楽、ファッションなどユースカルチャーを取り込みながら、その時々の社会が内包するムードを作品へ落とし込んできた。

ニューアルバム『Unspoiled』をリリースする5人組バンド・Kroiの内田怜央は、あらゆるジャンルと年代の音楽から受けた影響をミクスチャーなサウンドに昇華し、最新のシーンを揺るがしている。

1980年生まれの漫画家と1999年生まれのミュージシャン。世代も活動分野も異なる二者の表現に共通するのは、創作の門戸を開放し、ソトから取り入れたもので「自分」の世界を生み出す姿勢だ。

浅野の作品を愛読する内田の希望で実現した今回の対談。互いが表現者として持つ欲求、そして反骨精神が明らかになった。

浅野いにお
(あさの・いにお)1998年『菊池それはちょっとやりすぎだ!!』で漫画家デビュー。著作に『ソラニン』、『おやすみプンプン』、『うみべの女の子』、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』などがある。現在、最新作『MUJINA INTO THE DEEP』が『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で連載中

内田怜央
(うちだ・れお)2018年に結成されたR&B/ソウル/ファンク/ジャズ/ヒップホップなどあらゆる音楽ジャンルをルーツに活動するバンド・Kroiのボーカル・ラップ・ギター・パーカッションを担当。各メンバーがファッションモデルやデザイン、楽曲プロデュースを手がけるなど、活動の幅は多岐にわたる。2024年6月19日、ニューアルバム『Unspoiled』をリリース

“ギルティーな感覚”こそ本質的な感動

内田さん、リスペクトする浅野さんを前にして、とても幸せそうな微笑みを浮かべていますね。

めちゃくちゃ緊張しています……! Kroiの新作『Unspoiled』リリースにあたってどなたかと対談するという企画案が上がって、「ぜひ浅野先生とお話ししたい」とお願いしたんです。

僕はミュージシャンの方と対談する機会が今までほとんどなかったので、今日は何を話せばいいのかな、と思っています(笑)。

学生のころに浅野先生の作品を読んで、“狂わされた”ところがあったんです。『おやすみプンプン』を初めて読んだとき、浅野先生の視点が体の中に入ってきて、「こんなふうにモノを見られるんだ」と衝撃を受けて。こういうものを作れる人間にいつかなりたい、と思いました。

ありがとうございます。学生時代からカルチャー全般に興味があったんですか?

マンガはそんなに読んでいるほうではなかったんですが、自分は同世代があまり触れていない、大人のカルチャーに関心があって。そういうものをディグっていた時期に浅野先生の作品に出会いました。『おやすみプンプン』は、読んでいてギルティーな感覚を受けた作品です。

「見てしまった」みたいな。

はい。その感覚って、自分が創作する上でもすごく大事にしているんです。わかりやすく「ここで感動してください」って示すような作品も好きなんですけど、「これは摂取していいものなのか」と思わされるような作品は、受け手によって感動するポイントが違う。だからこそ本質的な感動を与えてくれると僕は考えていて。

その感想はすごくうれしいですね。一般的に売れているものって、みんなが同じような感想を抱くように作られている。僕もおもしろいとは思うけど、「じゃあ自分は見なくていいな」って思っちゃうんですよね。それよりも自分なりの感想を持てる作品に触れたほうがいいし、自分が見た意味があると思うから。

正直、僕はKroiについてあまり知らなかったんです。でも今回、なぜ対談の依頼を受けたかというと、アニメ『アンダーニンジャ』のオープニングで楽曲が使われていましたよね(「Hyper」)。

カッコいいなと思っていて、ほかの曲も聴いたら、すごくよくて。僕の中のモードって、10年スパンくらいで変わっていくんですけど、今の僕はKroiというバンドにすごく憧れを感じるんです。……言い方は悪いですが、メンバーのみなさん、見た目は怖い人みたいな感じじゃないですか。

はははは(爆笑)! よく言われます。

ストリート感や派手さ、そしてフィジカルな印象もあって。今僕が求めているのは、そういうフィジカルさなんです。

僕が作家業を続けてきたこの20年間は、インターネットやSNSの普及が進んだ影響で、“いい子ぶりっこ”的なムードが強くなりすぎた。世間から反感を買うから、多少は自分もそこに合わせていたんだけど、最近「さすがに上っ面すぎないか?」と思うようになって。

そこでKroiの曲を聴いて、今の自分のモードはこっちなのかもしれないと思ったんですね。みなさんお若いから、戦略的にやってるのか、感覚的なものなのかが気になっていたんですが、バンド結成からはどれくらい経ってるんですか?

2018年結成なので、6年くらいです。最初は高校生のとき、インスタで楽器がうまい人を探すところから始めて、社会人だったベース(関将典)、ドラム(益田英知)と知り合いました。関はファンクのカバー動画をアップしていて、「カッコいいな」と思い、声をかけました。

へえー! そうなんですね。

かなり今っぽいというか……(笑)。ネットから始まったバンドなんです。

6年しか経ってないのに、ここまで結果を出しているのはすごいですよね。

いや、めちゃくちゃ運がよかったんです。でも、Kroiは最初からみんなでブランディングを考えて「今の日本の音楽業界にない部分を担う」ことを重視していたので、そういうところに入り込めたのかもしれないですね。

僕は、新しいものを作りたい、新しい世界を構築したいという欲求が強いんです。でも音楽に関しては、本当のゼロから新しいものを作り出すのは難しいじゃないですか。だからいろいろなものをクロスオーバーさせて創作するようになりました。

「いい」の基準は自分にある

まったくの新しいものを作るのは無理ですよね。必ず過去にあったものを参照して、それを混ぜたり組み合わせて作っている。モノを作っている人ならみんな、そこは絶対にわかっていると思います。

でも世の中のムードは常に更新され続けているから、そこを取り入れることで新しいものが生み出せると、僕は近年思っていて。たとえば『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、東日本大震災発生後の時勢を受けて制作した作品でもあります。

そうなんですね。

もちろんそこから、技術面や作業効率など、いろんな要素を照らし合わせてかたちにしていくんですけどね。僕は昔からマイナー志向が強かったけど、それは自然の流れというよりは、メジャーに対する反骨精神でもあったんです。メジャーを仮想敵にしているというか。

ある意味攻撃的な性質でもあるとは思うんですが、Kroiにもそういうところがあったりするんですか?

はい。自分の中高時代、今から10年くらい前の音楽シーンは、正直いって悲しかったんです。

僕は小さいころからドラムをやっていて、ソウルやファンクのようなビートが強いジャンルに傾倒していたんですが、同世代の間ではまったく聴かれず、むしろダサいもの、というような認識になっていて。今はそのころの自分を救ってあげる思いで、曲を作っている部分もあります。

みんなが同じ手法で曲を書いている感覚もあったし、「今の様式美をぶっ壊して、そのときにないものを提示していくバンドを作りたい」と思っていました。それはメンバーみんな同じで。Kroiは思考がわりとパンクなんです(笑)。

浅野さんは、お若いときにマンガ業界に対して反骨精神はありましたか?

ありましたね。昔はマンガといえば子供が読む物だとバカにされていて、僕は「マンガを描いてる」ってまわりに言えなかったんですよ。それをどうにか覆したくて、子供には意図が伝わらないような表現や、ちょっと過激なことを描いたりしました。

簡単にいえば、メジャーな少年誌に対する反骨精神。少年誌文化が年々大きくなっているから、僕みたいな作風の人はますます肩身が狭いし、まったく勝ち目がないんですけどね(笑)。

Kroiは『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に出演したり、日本武道館でのライブを成功させたり、どんどんメインストリームで存在感を示していますが、目指すところとしてはメジャーど真ん中なんですか?

みんなに伝わるようにやることと、自分たちでやりたいことの両方を意識していて、今はあえて前者に注力してみているところですね。メジャーシーンで変革を起こすなら、一回売れて偉くなってからじゃないと説得力がないし、ダサいじゃないですか。ちゃんと売れてからヤバいことをやりたいから、今はその下準備だと捉えています。

キャッチーなものを作ることには、やりがいを感じますか?

そうですね。海外のポップスを聴いて育ってきたし、メロディはポップなものが好きなので、無理をしているわけでは全然なくて。あえて聴きやすいポイントを作ってみる感じですね。

なるほど。Kroiのやってる音楽は、僕からするとすごくレベルが高いことをやってるようでいて、聴いている人を振り落とす感じがしないんですよ。ちゃんとキャッチーで聴きやすい部分があって、曲ごとにバリエーションがある。コントロールできるバンドなんだなって。

本当ですか……うれしいです!

ただ最近、キャッチーなものを作りすぎて、それがクセになってしまうのが怖くもあります。何が変革を起こす部分なのかが、わからなくなりそうで。そんなときは、中学生の自分を呼び起こしながら曲を作っています。

うんうん。やっぱり自分が一番おもしろいと思えるものを目指していないと、やっていけないと思う。

僕も「読者のために」と思っている時期もありましたけど、結局自分のマンガを一番おもしろいと思ってるのは、自分。世の中の「おもしろい」「いい」の基準は簡単に変動してしまうから、それを定期的に思い出さないといけないですよね。

「思い込みこそが個性」

先ほど「自分なりの感想を持てる作品に触れたほうがいい」というお話もありましたが、おふたりとも過去のインタビューで、作品ではすべてを描ききらず、受け手に委ねるという考えをお話ししていたんです。そこは創作する上で重視していますか?

一番大事なことこそ読み手が気づくべきだと思うから、僕は言葉で説明するのではなく、そこだけ描かないことが多いです。まわりの情報は全部描くけど、ぽっかりと空いている部分だけは残しておいて、受け手に気づいてもらう。

自分で気づかないと、受け売りになってしまって、自分のものにならないんですよね。でも音楽は……歌詞なんて特に、受け取られ方に幅が出そうですよね。

最近日本の音楽シーンで流行している音楽は音数も言葉数も多く、はっきりシチュエーションを描く曲が多い印象がありますが、Kroiの歌詞はかなり抽象的ですよね。

めちゃくちゃ抽象的です。自分の場合、聴いてくれた人の中で曲が完成するという意識もありつつ、その世界を作り上げるものを曲の中に配置していく感覚で、詞を書いています。だからけっこう無駄なものも多い。

でもそういうものを配置していくと、より世界が完成していくんですね。リスナーにはその世界に入ってもらって、その中で見えたものを、一人ひとりに感じてもらいたいです。

箱を用意しておいて、その中で受け手が何をするかは自由ということですよね。僕もそういう考え方でマンガを描くことが多いんですよ。主人公にフォーカスするというより、その人が置かれた環境全体を描くことが好きで。

浅野さんの作品は、画面の描き込みの密度と情報量がすごく高いですもんね。最新作『MUJINA INTO THE DEEP』は特にそう感じました。

そうなんです。『MUJINA INTO THE DEEP』では、主人公のいる街を3Dモデルで作っているんですよ。まず箱を作って、そこから話を考えるという順番。通常と逆なんですよね。

ここまでのアクション作品を描かれるんだと驚きましたが、最初に「Kroiのフィジカル感に惹かれている」というお話を聞いて、「なるほど」と思いました。

僕もびっくりしています(笑)。Kroiの立ち振る舞いや見た目に惹かれるのは、自分が今こういうものに憧れているからだと改めて感じますね。

すごくうれしいです!

内田さんは22歳でメジャーデビューし、現在25歳。浅野さんは18歳で漫画家デビューし、25歳というと『ソラニン』で一世を風靡していたころです。勢いに乗り続けているKroiへ、少し先を歩むクリエイターの先輩として、浅野さんから伝えておきたいことやアドバイスなどはありますか?

いやー、なかなか……(笑)。時代が違うから難しい部分もありますが、やっぱり「自分を信じてやるしかない」ということですかね。自分の20代を振り返ると、描いていたものは出来が悪くてめちゃくちゃだったけど、とはいえ若い自分が悩んで描いた内容に間違いないから、今振り返っても価値を感じるんです。

そう考えると、自分の内面をひたすら見つめるしかない気がするんですよね。25歳のときの僕はネット嫌いだったから、パソコンは持っていたけどネットにつないでなかったんですよ。今考えるとすごく無知だったけど、思い込みをしているがゆえに描けた部分もたくさんあった。

逆に今は情報がありすぎるから、すべてのものが均一化されてしまって、誰が描いても何かにカテゴライズされてしまう。特にパーソナルなものを表現する上では、勘違いや思い込みが大切になってくると思います。

だから……あまり賢くならないことですね(笑)。思い込みこそが個性。それをなくすわけにはいかないと、今になっては思います。

ありがとうございます……うれしいです。

せっかくなので、最後に僕にもひと言ください。

大好きな浅野先生と共通する部分も多くて、自分が創作する上で考えていたことが「間違いじゃなかったんだ」と思えました。『アンダーニンジャ』のときは花沢健吾先生と対談させていただいたんですが、そのときもすごく刺激をもらえたんです。

曲を書いているときは「自分はなんのためにこれをやっているのか」「モノを作ることは自分にとってなんなのか」ということを延々考えているので、音楽以外のものを作っている方と交流することで新しい扉が開けるし、「今までと違うものが作れるかも」という感覚になれて、今日は最高でした。ありがとうございました!

Kroiニューアルバム『Unspoiled』

「PULSE」、「風来」、「Hyper」(テレビアニメ『アンダーニンジャ』オープニングテーマ)、「Sesame」(テレビアニメ『ぶっちぎり⁈』オープニングテーマ)、「Water Carrier」(スターオリジナルシリーズ『SAND LAND: THE SERIES』オープニングテーマ)、そして5月29日(水)に先行配信された「Amber」(「ダイドーブレンド」ブランドCMソング)含む全13曲を収録。リードトラック「Green Flash」はノンタイアップながらKroiの現在地点を象徴するような一曲に仕上がっている。

2024年6月19日(水)発売
CD Only:3,300円(税込)
CD+LIVE DVD “Kroi Live at 日本武道館”:6,050円(税込)
CD+LIVE Blu-ray “Kroi Live at 日本武道館”:6,050円(税込)

Kroi『Unspoiled』 Kroi『Unspoiled』ストリーミング視聴

【収録曲】
1.Stellar
2.Psychokinesis
3.Sundown (Interlude)
4.Green Flash
5.Signal
6.GAS
7. Hyper(テレビアニメ『アンダーニンジャ』オープニングテーマ)
8.Amber(「ダイドーブレンド」ブランドCMソング)※5月29日先行配信スタート
9.PULSE 10. Sesame(テレビアニメ『ぶっちぎり?!』オープニングテーマ)
11.Water Carrier(スターオリジナルシリーズ『SAND LAND: THE SERIES』オープニングテーマ)
12.papaya
13.風来
14.明滅

【LIVE DVD/Blu-ray収録曲】
01.Fire Brain
02.Drippin’ Desert
03.shift command
04.夜明け
05.Mr. Foundation
06.Sesame
07.Monster Play
08.Page
09.Hyper
10.侵攻
11.Astral Sonar
12.Never Ending Story
13.risk
14.帰路
15.Pixie
16.Network
17.selva
18.HORN
19.WATAGUMO
20.Shincha
21.Juden
22.Balmy Life
23.Polyester

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岸野恵加

(きしの・けいか)ライター・編集者。ぴあでの勤務を経て『コミックナタリー』『音楽ナタリー』副編集長を務めたのち、フリーランスとして2023年に独立。音楽、マンガなどエンタメ領域を中心に取材・執筆を行っている。2児の母。インタビューZINE『meine』主宰。

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