タイのGMM&日本のLDH、業務提携の“希望”「これは、世界で売れる」両国のエンタメが融合する未来

2024.6.19

6月5日、LDH JAPANがタイを代表する大手音楽レーベルGMM MUSICと業務提携し、合弁会社「G&LDH」設立を発表。

BALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERがバンコクで活動を行うなど、かねてよりタイへの進出を視野に入れていたLDH JAPAN、そしてほかのアジア諸国を拠点とするアーティストや企業とのコラボレーションを積極的に展開するタイエンタメにおいて最大手となるGMM MUSICがタッグを組んだのだ。

タイと日本のエンタメ企業がタッグ

ある日届いた、1通のメール。それはタイのエンタメ企業GMM MUSICが、LDH JAPANと新会社「G&LDH」を立ち上げるにあたり、バンコクで開催するプレスカンファレンスへの招待案内だった。

チェンマイにある筆者の自宅付近

少しだけ脱線するが、僕は昨年、日本からタイ北部の都市・チェンマイに移住した。旅行で訪れて、街や人々が醸し出すムードに惹かれたのもひとつの要因だが、T-POP(タイポップス)やタイドラマなどから、日本のカルチャーにはない魅力と希望を感じたことこそが最大のきっかけだ。

話をもとに戻すと、僕が夢中になっているタイエンタメシーンのフロントランナーこそ、GMM MUSICが属するGMMグループである。特に『2gether』などの人気ドラマを生み出していることで知られるGMMだが、タイの音楽業界を第一線でリードしてきた存在であることも忘れてはならない。

タイドラマに続くブームとしてT-POPが注目されるなか、遂にタイの音楽業界の巨人が、日本市場の攻略に向けて動き出した──。そんな事実を先ほどのメールで知り、驚きと興奮で胸がいっぱいになった僕は、すぐにバンコク行きを決意した。

タイのLDH人気を実感

会見当日、会場に到着すると、すでにたくさんのファンがアーティストの出待ちをしていた。プレスカンファレンスとなる本イベントは一般向けではなかったが、数時間前から待機してアーティストを応援するために100名以上のタイのファンが集まっており、その熱量には驚かされた。

あとから判明したのだが、そこで見た人々のほとんどは、現地のLDHアーティストファンだった。平日の昼間から大勢を集められるだけの人気を既に確保していることに、彼らのタイ人気を知った。

GMM MUSICとLDHが「G&LDH」に託す狙いとは

遂にプレスカンファレンスが始まった。映画館の重厚な音響と巨大スクリーンを利用した映像を挟みながら行われるプレゼンは、さながらエンタメイベント。期待感が高まる。

記者会見の模様はこちらからチェックできる(日本語での通訳あり)

GMM MUSIC最高マーケティング責任者のファーマイ・ダムロンチャイタム(ฟ้าใหม่ ดำรงชัยธรรม)、そしてHIROことLDH JAPAN代表取締役会長兼社長・五十嵐広行と、サプライズで登壇したNAOTOから「G&LDH」設立の狙いが発表された。

GMM MUSIC側の狙いとして語られたのは、以下の3点。

・機会の向上(Upscale Opportunity)
日本とタイ、両国でデビューができ、成功を収めるチャンスが増える。デビュー後はそれぞれの会社がマーケティングを担うことで、可能性を高める。
・クオリティの向上(Uplift Quality)
両国での練習を通じて質の向上を目指す(目標は「日本市場における成功」と言及あり)。
・価値の解放(Unlock Value)
日タイの会社がタッグを組むことで、国境に制約されていた価値を解放し、両国で成功を収める(最重要と言及あり)

日本市場の大きさ、LDHのアーティストが持つパフォーマンス力を魅力と捉え、日本市場における成功を目指すと名言していたことが印象的だった。

続いてLDH JAPANからHIRO、NAOTOによるプレゼンテーションで明らかになったのは以下の狙いだ。

・アジア市場への展開
ガラパゴス市場からの脱却。
・GMM MUSIC、タイのアーティスト、クリエイターとの協働
・LDH(日本)のオリジナリティをタイへ、タイからアジアへ

彼らの言葉から、ダンスパフォーマンスをコアバリューとするLDHのアーティストを、タイを通じてアジアへ、そして世界へと売っていきたいという思いが伝わった。そしてここからうかがい知れる、両者に共通する狙いは「合同練習等を通じたパフォーマンス力の向上」「タイ・日本両市場でのマーケティングリソースの相互提供」だといえるだろう。

次世代アーティストたちが示すGMM MUSICの可能性

その後、司会による「どのように両者が発展していくかは、アーティストのパフォーマンスを観るのが早いでしょう」という言葉をきっかけに、GMM MUSICとLDHの各所属アーティストによるライブパフォーマンスがスタート。

GMM MUSICのトップバッターを務めたのは、2005年生まれの男性ソロシンガー・TIGGER。弱冠19歳ながら包容力や色気をも感じさせる、外見も内面も魅力的なアーティストだ。生歌ながら録音かと思うくらい高い歌唱力でバラードを熱唱し、観客を一気にGMMの世界観へと引き込む。

続いて登場したのは、練習生として訓練を重ねたのち、GMM MUSIC傘下のレーベル・GNESTから初の女性ダンス&ボーカルグループとしてデビューした5人組ガールズグループ・VIIS。

筆者が特に驚いたのは、優れたプロポーションから繰り出される彼女たちのパフォーマンススキルの高さだ。170cm前後の高身長に加え、タイの伝統的・今時の美的感覚にかなうビジュアルを携えた5名が、一糸乱れぬダンスと安定した歌唱を見せつける。クオリティはK-POPレベルだが、韓国のグループにはない視覚的・音楽的な新鮮味。

まだけっして知名度は高くないにもかかわらず、GMM MUSICが抱えるアーティストのポテンシャルの高さを感じさせるにじゅうぶんの実力だった。

ラストを飾ったのは、GNEST初のアーティストとしてデビューを果たした5人組ボーイズグループ・PERSES。

ダンスのキレと一体感にあふれたパフォーマンス、なにより恵まれたプロポーション。GMMTVの俳優・アーティストにも同じことが言えるが、そのほとんどが高身長だ。年々ビジュアルよりも才能・スキルが重視されるようになっていると言われるタイの芸能界だが、国内最大手のGMMはスキルがあるのは当たり前で、かつプロポーションにも恵まれた、狭き門をくぐり抜けたアーティストのみが所属できる事務所なのだ。

LDHアーティストによる驚異のパフォーマンス

GMM MUSICによる“王者”の貫禄を目の当たりにしウンウン唸っていたところ、間髪入れずにLDHのパフォーマンスがスタート。それを目の当たりにした僕は、いちT-POPファンとして、LDHアーティストのパフォーマンスに衝撃を受け、度肝を抜かれることになる。

まずはEXILE TRIBEとして11名がパフォーマンスを披露。彼らは全身を使って大きく体を動かし、全員が同一の振り付けを激しく踊った。個々が異なる振り付けで魅せるのではなく、全員が同じ方向を向いて踊る姿は、タイや韓国ではあまり見ない種類のダンスで、その様子は阿波踊りやよさこいといった日本の伝統文化のイズムを感じさせる。

曲が変わり、洗練された音色のシンセサイザーのアルペジオが鳴り響く。登場したのは7人組ボーイズグループ・PSYCHIC FEVER。体が勝手に動き出すような、メリハリあるビートに乗せて耳障りのよいボーカルとラップがマイクリレーで展開されていく。踊りながらも安定感は抜群だ。

なんだ、この素晴らしい音楽は! これは海外に売らなくてはいけない。世界で売れねばならない。それまでLDHのアーティストのパフォーマンスを生で観る機会がなかったことを後悔した瞬間だった。

続いて登場したのは、照明の光を浴びてきらびやかに輝く銀色の衣装に身を包んだTHE RAMPAGE。

ステージからは、勢いや激しさが切実に伝わってくる。僕は「100degrees」のパフォーマンスを観ながら感じた。先ほどのPSYCHIC FEVERとは明らかに、グループの色が違う。

思い出したのは、幹部プレゼンの際にHIROやNAOTOが口にしていた「LDHはグループごとに異なるカラーを持っている」という言葉。それは紛れもない真実であることを、彼らはステージを通じて証明した。

「グループごとにカラーが違う」とはすなわち、「表現の幅が広い」ということ。LDHアーティストは多様なスタイルを自由に行き来することができる、凄まじい実力の持ち主だったのだ。

LDHが持つパワーを実感

先述した「G&LDH」の狙い「合同練習等を通じたパフォーマンス力の向上」「タイ・日本両市場でのマーケティングリソースの相互提供」がそのとおりに実現すれば、LDHは GMM MUSICが持つタイ最大級のマーケティングリソースやノウハウを活用して、タイ市場に乗り込むことができる。規模感こそ注視したいところではあるが、圧倒的な実力に裏打ちされたポテンシャルを持つLDHのアーティストがタイ市場に本格的に売り込まれたときのタイ国民の反応は、想定以上のものだろう。

T-POPライターとしてT-POPの人気が高まることを第一義的に考えていた僕だったが、むしろLDHの実力が「脅威」にまで感じられるほど、彼らのパフォーマンスにはパワーと魅力があった。

一方、GMM MUSICのアーティストについて考えてみるとどうだろうか。もし、T-POPにおいても際立ったプロポーションと高いスキルを持つ彼女ら/彼らが、LDHの表現力を身につけたらどうなるか。そして、LDHのマーケティングリソースを活用して日本市場に進出してきたらどうなるか。人々が予想だにしない、想像を超えたムーブメントを巻き起こす未来が、頭の中に思い浮かんだ。

HIROも言及していたように、GMMにはすでに実績がある。タイのアーティストが日本で爆発的にヒットする世界線が、現実味を帯びてきたのである。

T-POPとJ-POPの“最高の未来”

GMMおよびLDHの両幹部は「双方の長所を融合したらおもしろいのではないか」と語っていたが、「おもしろい」どころではない。未だかつて見たことのない魅力をもった“エンタメ・モンスター”が誕生する。しかもそれがタイと日本の2拠点で成長していくのだから、非常に驚異的である。

そして、タイと日本で両国のアーティストが人気を博したら、いよいよアジア全体を巻き込んだ新しいムーブメントの幕開けとなるだろう。その先陣を切るのはタイのアーティストであり、日本のアーティストなのだ。

率直にいうと、市場規模の成長という面において、世界から取り残されている日本の音楽市場に不安を感じていたことも事実だ。しかし、LDHアーティストがタイで見せたパフォーマンスの素晴らしさは、その不安をあっさりと払拭させた。G&LDHのプレスカンファレンスは自分にとって、T-POPにもJ-POPにも希望を見出せた有意義で記念すべき機会となったといえる。読者のみなさんと、T-POPとJ-POPがタッグを組んだ先に待つ未来を見届けていきたい。

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トムヤム亜久津

(とむやむ・あくつ)ライター・コンポーザー。1997年生まれ、東京都出身。北海道大学卒。タイの音楽とカルチャーに魅了され、2023年に単身タイ移住。J-POPとK-POPを通ってきたZ世代の視点から、T-POPの魅力を発信。

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