寄り添う方法は「理解」だけじゃない――ドラマ『死にたい夜にかぎって』で描かれた、他者との共生のヒント
「人に寄り添う」と聞いて、はたしてどんな印象を持つだろうか。相手に「理解を示す」ことと同義のように思う人は多いかもしれないが、本当に方法はそれだけだろうか。
ライター早川大輝の連載「忘れたくない僕のテレビドラマ記録ノート」、今回は爪切男の人気エッセイがドラマ化された『死にたい夜にかぎって』について。女性たちに振り回されながらも楽しく生きてきた男は、どのように他者に寄り添っているのか。私たちにも必要な、他者との共生のヒントを探る。
人に寄り添うことの難しさ
人が他者と完全にわかり合うことは難しいと思う。それはたとえば、同じ行動を取ったとしても、その行動を実行に移した理由、その理由が生まれた経緯、根源にある本人の価値観、価値観を育んだ環境などがそれぞれ異なるからだ。そのすべてを理解した上で、相手の考えや行動を受け止めるというのは、不可能に近い。
それでも、相手が「なぜこのように考えるのか」「なぜこのような行動を取るのか」をできる限り理解して寄り添うことが、人と人が共生する上では大切とされてきた。他者と共に生きていく難しさを描く作品では、特にこの傾向はあると思う。
ドラマ『死にたい夜にかぎって』で描かれたのは、目の前の相手をそのまま受け入れて、寄り添う姿勢だった。
つらいことの中から楽しいことを見出す主人公
『死にたい夜にかぎって』では、主人公・小野浩史(賀来賢人)の半生が最愛の女性・橋本アスカ(山本舞香)と過ごした6年間を軸に展開される。
浩史は幼いころに母親に捨てられ、父親のスパルタ教育の下で育った。高校時代に憧れのクラスメイトから「笑顔が虫の裏側に似てる」と指摘されて以来、うまく笑顔を作れなくなった。そして、彼女であるアスカには何度も裏切られるなど、彼の人生は女性に振り回されるばかり。
それでも浩史の人生が悲劇に見えないのは、彼が「つらいことの中から楽しいことを見出せる」人間だからだ。浩史がアスカと共に引っ越した、壁が薄い新居のベッドでのこと。「壁が薄くて外の音が聴こえるの、にぎやかでいいよね」と捉える浩史をアスカは「ポジティブマインド」と評する。その言葉に対して彼は以下のように答える。
「『どんなにつらいことがあっても、その中にひとつでも楽しさを見つけて笑え』って、親父が言ってた」
彼のポジティブさは、日常の些細なネガティブをポジティブに捉え直すことだけにあるのではない。たとえば、アスカは、うつ病を抱える女性だ。彼女は前向きに根治を目指して断薬を始めるが、断薬の禁断症状によって他者への攻撃性が増し、突発的に浩史を絞め殺そうとするようになる。しかし、就寝中に最愛の女から殺されそうになるという状況に対してさえも、浩史は楽しみを見出そうとする。
「首を絞められることはつらいことじゃなくて、楽しいことだと考えよう。そうだ、首を絞められた回数に応じてご褒美をもらえるポイントシステムにしよう。10ポイントで好きなマンガを1冊買う。30ポイントで好きなCD1枚。50ポイントでプロレス観戦」
ただ、「つらいことから楽しいことを見出す」という浩史の性格は、「自分が楽しめれば乗り越えられる」ということではない。そこには、目の前の相手と共に生きていくことへの眼差しも存在する。それが色濃く表れるのが、つづきのシーン。