「アイドルっていい職業ですよ、本当に」。10年もの間、乃木坂46という第一線のグループで活動してきた高山一実はひとつの照れもなくそう言った。
K-POPをはじめ、数々のサバイバル・オーディション番組が盛り上がりを見せ、アイドルが昔よりも身近な職業として浸透してきた昨今。
乃木坂46時代に執筆した『トラペジウム』のアニメーション映画の公開を5月10日に控えた今、彼女自身はアイドルを目指す過程でどんな経験を得たのか。
そして『トラペジウム』と自らの10年間のアイドル人生を振り返って、何を思うのか。これから夢を目指す若者に向けて話してもらった。
目次
「理想のアイドル」を目指す過程でつかんだ、小説執筆のチャンス
──『トラペジウム』は、アイドルを目指す高校生・東ゆうが主人公として描かれている作品です。現実世界でも、今はオーディション番組が増えて、昔よりもアイドルが職業選択のひとつとして浸透してきている気がします。高山さんもオーディションに合格して乃木坂46に入りましたが、当時のことを覚えていますか?
高山一実(以下:高山) 私はずっとアイドルになりたくて、乃木坂46に入る前は何度もオーディションに落ち続けてきたんですよ。
それで、やっと受かったのが高校3年生の夏。まわりのアイドルに比べたら遅いほうなんです。正直もう大学に進学するつもりでいたし、さすがに高3からアイドルとして活動する未来なんて想像できていなかったので……。
高校卒業まで半年を残したタイミングで、先生から「(アイドルの活動が忙しいなら)ほかの学校に転校したほうがいいんじゃない?」って言われたり、難しいこともいっぱいありました。それでも、アイドルっていう夢をようやくつかんだから、あきらめる気持ちにはならなかった。
──アイドルという夢への執着という点では、ゆうにも似ている部分がありますね。
高山 夢のためなら犠牲を厭わない、っていうところは似ているかな。
でも私は全然、ゆうよりは成功していない立場だし、ゆうみたいにアイドルになったあとの目標が明確にあるわけじゃなかった。「アイドルとして成功して、その先は女優になるんだ!」みたいな夢を私は見つけられなかったので、そのあたりは正反対かもしれないですね。
だから小説を書きながら、ゆうという人物がどんどん勝手に動き出すような感覚でした。私のまわりにも、ゆうみたいながむしゃらなタイプじゃなくても人気のあるメンバーはいっぱいいたし、私はアイドルになってからも「アイドルになりたい」って憧れているようなところがあったので。
──自分の中で、なりたいアイドル像があったんですね。
高山 そんなにはっきりとしたものではなかったけれど、ありました。どうやってそこに近づくか、って考えたときに小説を書くチャンスをいただけて。
だから、ゆうみたいにまっすぐ夢を追いかける気持ちが、当時この作品を書いていた自分にもあったんだと思います。「これを書けば、何か世界が広がるんじゃないか」っていうワクワクする気持ちが。
時間が経って、作品をフラットに見られるようになった
──アイドルを卒業した今、映像化された『トラペジウム』を観てどんな感想を持ちましたか?
高山 主人公たちが自分の感情を抑えきれずにぶつかり合ったりとか、ストレートな言葉で人を傷つけちゃったりとか、自分で書いたはずなのにそういうシーンを見ると「まあまあ、落ち着いてよ」って思いますね(笑)。若さ特有の感覚を描くのは、今よりも得意だったのかな。
──実際にアイドル時代、メンバー同士でぶつかった経験もあったんですか?
高山 いや、それがうちのグループは本当に穏やかな子たちばっかりだったから、全然そういうのはなかったんですよね。だから「もしかしたらこういうときもあるんだろうな」って想像して書きました。
でも、実際に経験したことも想像して書いたことも、映像になると自分の手を離れて生き生きと動いている感じがするんですよね。時間が経って恥ずかしさみたいなものも薄れて、純粋にフラットな気持ちで彼女たちを見られるようになったんだと思います。
──昔を振り返るような気持ちになったと。
高山 そうです、そうです。自分も今はちょっと落ち着いたし、若い時代ってよかったな、みたいな。がむしゃらにアイドルを目指すゆうを応援したくなる気持ちも、小説を書いていたとき以上に湧いてきました。私もがんばろうと思えるというか、背中を押された気持ちです。
選択肢が増えたからこそ、自分の理想像を大切にしてほしい
──今、執筆活動のほかにもバラエティ番組でのタレント業や俳優業など幅広い仕事をされていますが、アイドルとして経験してきたことを活かせる瞬間はありますか?
高山 もちろんたくさんありますし、すべてが糧になっていると思います。でも、もっと大きなことでいうと、自分がこの人生でよかったな、って思えるのは間違いなくアイドルという職業に就いていたからなんですよね。
アイドルにずっと憧れていて、アイドルとしての活動を終えたあとも「すごくいい職業ですよ!」って心から言える。そういうアイドル人生を送らせてもらって、本当によかったと思います。
──『トラペジウム』を観てアイドルになりたいと思う人がいたら、高山さんもおすすめしたいですか?
高山 本当に、もうぜひ応援したいです! でも、昔よりもアイドルになる道が増えたから、逆にどの道を選ぼうって悩んじゃうと思うんですよね。
──たしかに、自分に合ったグループを見つけるのも難しそうです。
高山 だから、まずは自分が一番なりたいアイドル像を思い浮かべて、その夢を叶えるにはどれが一番近道なのかを考えてみる。やっぱり自分が好きだったグループに入れたらつらいことがあってもがんばれるし。
もし入りたいグループのオーディションに落ちちゃったとしても、それでもアイドルを目指したいのか、そのグループに入れないなら違う仕事をしようと思うのか、考えられると思うんです。だからまずは挑戦、だと思いますよ!
アイドル時代「しんどい」と思うことはなかった
──高山さんが、そこまで堂々とアイドルという職業をおすすめできるのはすごいことですね。
高山 私はアイドルに憧れて、実際になってみて、しんどいなって思うこともほとんどなかったんです。いい職業ですよ、本当に。胸を張っておすすめしたい。
──きっとこの作品を観た人も、アイドルという夢を目指すゆうの姿に背中を押されると思います。
高山 そうだったらめちゃくちゃうれしいですね。もちろん大人になってから「こういう時代もあったな」って懐かしむような気持ちで観てもらえてもうれしいし。特に学生の方には、この作品を通じて、つらいときも夢のためにひと踏ん張りできる勇気をもらってくれたらいいな、って思います。
学校の先生や家族に反対されたりするかもしれないけど、どんな夢でもやっぱり自分の意志でがんばってみることが大事だと思うので。そういう若い人たちの背中を押す物語になっていたらうれしいです。
『クイック・ジャパン』vol.172では、高山一実のアイドル観をさらに深掘り!
高山一実のインタビューは、2024年6月5日(水)より発売となる『クイック・ジャパン』vol.172にも掲載。
アイドルグループにいた10年間を「幻のような時間だった」と振り返る、その真意とは──。映画『トラペジウム』の公開に合わせて、“アイドル”という仕事について、たっぷりと語ってもらった。
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