写真を撮ることにこだわりを持つアーティストや俳優・声優による連載「QJカメラ部」。
土曜日はアーティスト、モデルとして活動する森田美勇人が担当。2021年11月に自身の思想をカタチにするプロジェクト「FLATLAND」をスタート、さらに2022年3月には自らのフィルムカメラで撮り下ろした写真をヨウジヤマモト社のフィルターを通してグラフィックアートで表現したコレクション「Ground Y x Myuto Morita Collection」を発表するなどアートにも造詣が深い彼が日常の中で、ついシャッターを切りたくなるのはどんな瞬間なのか。
想いを“込める”から“伝わる”へ
第96回。
楽曲制作に頭を抱え、ここ最近はフラフラとした毎日を送っている。
どんな行動をしていても、そのすぐそばで悩みがアメーバのように漂う、そんな感じ。
この長いトンネルを手探りで歩いているなか、カメラマンの友人とランチをする機会ができた。
人と言葉を交わすのは久しぶりのような気がして、少しばかりの緊張と楽しみが混ざる。
都内のカフェは人が賑わい、おしゃれを施したそれぞれが少し高いトーンで会話をしている。
先に到着した私はそんな光景をぼーっと眺め、無口な自分との強いコントラストに浸っていた。
体感時間は長かったが、ほどなくして彼女が到着した。
ずいぶん見た目が変わっていた。
頬は痩せこけ、黒だった髪は銀に染まり、優しい目つきは鋭さを増していた。
いったいどうしたのかと話を聞くと、コンテストに作品を出展するため、制作活動に追われていたらしい。
誰とも会わず、床に広げた写真とひたすら向き合ってきたのだという。
孤独を飲み込むように自分の作品を見つめ続け、光の中に飛び込むような集中力でそれをやり遂げたのだという。
制作に対する苦しかった想いを晴れやかな口調で語ってくれた。
会ってすぐには驚いた見た目の変化だったが、話を聞くうちに澄んだ目の色と精悍な眼差しは前と変わってなかったことに気づいた。
あふれ出る想いを作品に乗せ、発表することに迷いを感じていた私の心に火が灯る。
その松明(たいまつ)を消さないように、私もトンネルを抜けた先にある光を目指そうと決めた。
後日、彼女はそのコンテストで特別賞を受賞した。
想いを“込める”から“伝わる”に変わった瞬間に立ち会えてうれしかった。
これはそんな尊い日の写真。
そして私も個展が決まり、いよいよそのトンネルの向こう側へ行く覚悟ができた。
『Myuto Morita Exhibition “SIKI”』
2024.5.8 Wed.-5.13 Mon.
KATA(LIQUIDROOM 2F)東京都渋谷区東3-16-6
open 13:00-close 20:00 ※5.13 Mon.のみopen 13:00-close 18:00
NAOYA(ONE N’ ONLY)、中山莉子(私立恵比寿中学)、セントチヒロ・チッチ、工藤遥、RUI・TAIKI・KANON(BMSG TRAINEE)、森田美勇人、南條愛乃が日替わりで担当し、それぞれが日常生活で見つけた「感情が動いた瞬間」を撮影する。
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