夢があるかどうかはわからないが、夢に出てきそうではあった『R-1グランプリ2024』
毎年さまざまな試みで大会としての純度を確実に上げている『R-1グランプリ』。ここまでレギュレーション変更が多い大会は『R-1』か『F1』くらいだろう。そして『R-1グランプリ2024』にも大きな変化があった。まずは「芸歴制限の撤廃」。これにより、檻の中に閉じ込められていたような獰猛な芸人たちが一気にあふれ出した。
さらに、3分だったネタ時間は4分に。この1分がネタにどれだけの影響を及ぼすのか……まったく予想できない大会が始まってしまった。本記事ではブロガーのかんそうが、『R-1グランプリ2024』決勝に出場した芸人たちのネタをすべて振り返る。
ファーストステージ
真輝志:冴えない高校生の才能が開花したはずが……
冴えない高校生の才能が部活などをきっかけに開花するという青春アニメ的なあるあるから、その開花した才能があまりにパッとしないという、裏切りのギャップが軸のひとりコント『僕の物語』。
「社会人の草野球でベスト16」「軟式ラグビー部」などの絶妙なワードチョイスと、主人公の見た目からは想像つかない「ほなええわ!」というストレートなツッコミが小気味よく、そのまま最後まで続いてもじゅうぶんおもしろい。
しかしさらに、ナレーション側が主人公をイジったり、近くにいた冴えない女子の才能が大きく開花したりと、予想もつかない展開が続き、最後まで飽きることのない素晴らしいネタだった。
ルシファー吉岡:婚活パーティーの自己紹介タイムで起きた問題
婚活パーティーというベタな設定かと思いきや「参加者女性全員がその場のルールをわかっていないがゆえに、1分の自己紹介タイムがただの説明で終わる」という、おバカなのに「ちょっと本当にありそう」と思わされる絶妙な設定。その時点で最高。
恐るべきは、ルシファー吉岡の演技力と情景描写力。そこに存在するのは紛れもなくルシファー吉岡ただひとりのはずなのに、次々と女性たちがベルトコンベアのように流れていく様子がありありと想像できた。
審査員のマヂカルラブリー野田クリスタルが「すごすぎた。ピン芸を極めている。今のコントをふたりでやるよりもおもしろい。ひとりでふたりを超えている。」と評していたのだが、まさに。そこにいるはずのない婚活パーティに参加している何十人もの人間がルシファー吉岡によって召喚されていた。完全なるお笑いサモナー。
個人的に震えたのが、中盤のハゲいじりをされて喜ぶくだり。ハゲをネタにしづらくなっている昨今において「本人がうれしそうならいい」という、ひとつの正解を示してくれた気がした。
街裏ぴんく:温水プールに突如として現れた石川啄木らの様子を克明に描く
作り話をあたかも事実かのようにしゃべる「ファンタジー漫談」を武器にする化物芸人。ツカミの「着替えてきたルシファー吉岡です」「こう見えて女芸人です」から、ひとりコントをしていたそれまでのふたりとは、まったく毛色が違う異物感を演出していた。
もはや話の内容以上に、ピンクのスーツを着た丸メガネハゲの大柄成人男性が、作り話に「石川家の名前の由来」「森鴎外の葬式」「キュリー夫人が聞き手」といった異常なまでに細かいディテールをつけて話しているという「現実」が一番おもしろい。
ルシファー吉岡のネタ中の言葉を借りるのであれば、今年の『R-1グランプリ』は「街裏ぴんく以前街裏ぴんく以後」に分かれたと感じた。最初は明らかに戸惑っていた観客も、徐々にその熱量と話術に引き込まれ、最後には完全に場の空気を支配していたのではないだろうか。
kento fukaya:マッチングアプリに次々出てくる異様な男たちにツッコみ続ける
次々と現れる相手男性のプロフィールの異様さを、ハイテンポで息つく間もなくツッコむ「冴えない男性マッチングアプリ大喜利」で、最初から最後まですべてのくだりがおもしろかった。ポップの中にもほどよい毒があり、なぜこれで得点が伸び悩んだのかと思った。
「name. たぁそん(51) 職業. コンビニ連勤 趣味. 常温サウナ 一言. 身体目的お断りします」など、ネタ中にほとんど触れない人間ですらボケをちりばめる作り込みのすごさなど、何回でも楽しめるディズニーランドのようなコントだった。
寺田寛明:もしも国語辞典にコメント欄があったら?
いつも設定だけで嫉妬してしまうほどの「わからせ」をしてくれる寺田寛明。今回も「YouTubeなどのコメント欄が国語辞典にもあったら?」という自分が思いつきたかった設定を披露してくれた。
どれだけ調べればこんなにも再現度の高いコメントを再現できるのだろうか。冷静かつ淡々とした序盤からの「犬侍」→「応仁のわん」→「ポメ騒動」から一気にギアが上がり「あんたんたる」でさらに加速していく展開はテレビの前で爆笑とともに震え上がってしまった。
サツマカワRPG:防犯ブザーの使い方指導をしていたはずが、いつの間にかホラーに
快活なギャガーのイメージが強いサツマカワRPGだが、ひとりコントが本当にうまい。単純な設定のおもしろさ、芝居のうまさもさることながら、とにかく「表情」が素晴らしすぎる。カツラを外したあとの人すら殺めかねない笑顔は、でんでんや竹中直人のようだった。サツマカワRPGがカツラだと認識していなかった人は、トラウマになってしまったのではないだろうか。
中盤、子供が持つお父さんの肉声を吹き込んだ防犯ブザーに対し「全然おもしろくないよ? これおもしろいと思っちゃった? お父さんさ、ハガキ職人やってるでしょ? そういう人間のユーモアの感じがした」は、学生時代に林家東南西北(トンナンシャーペー)という名前で深夜ラジオに投稿するがただの一通も読まれることのなかった私の首をきれいにはねてくれた(ちなみにYouTubeにアップされていたバージョンは「ハガキ職人やってるでしょ?」ではなく「ベンチャー企業務めてるでしょ?」だった)。
吉住:圧倒的な演技力で見せる変な結婚あいさつ
彼氏の家に結婚のあいさつに来た女性が、あいさつの前にデモに参加していた設定のひとりコント。彼女のコントは「吉住」という人間の中身がまったく見えてこないのが本当におもしろい。「絶対に許さない」というプラカードと拡声器が見えた瞬間から、後半は絶対にやばいことになるのがわかりきってるからこそ、最初のわざとらしい猫なで声がおもしろすぎた。
「大丈夫ですか? 私を敵に回して。私、自分の意見押し通すプロなんですよ」「もうあのころの日常が戻ってくると思わないでください」「もっと骨のある奴らかと思ってました」然り、デモに参加する人たちがどうこうではなく、吉住が演じている女性そのものが圧倒的な奇人だということがわかる。もっと、もっと変な人を見せてくれ。
トンツカタンお抹茶:かりんとうの老舗が作った普通自動車の歌
このネタ『かりんとうの車』を言葉で語るほど愚かなことはないのだが、ひと言だけ言わせてほしい。審査後のコメントがおもしろすぎる。
どくさいスイッチ企画:ある男がツチノコを発見してからの目まぐるしい日々を描く
披露したネタは『ツチノコ発見者の一生』。これは「すごい」としか言いようがない。ネタを観たあとの満足感でいえば一番だったんじゃないかと思うほど濃密な4分間だった。
「ツチノコ発見◯時間前」など、SEを使える場面でも一切使わず身ひとつですべてを表現する潔さと、展開が二転三転して最後はネッシーを発見して終わるという「人生は何が起こるかわからない。だからおもしろい」と言わんばかりの物語の美しさ。
そして、どくさいスイッチ企画自身が落語家としても活動をしているからなのか、流れ上の偶然なのかはわからないが、お辞儀でネタを締めたのがとてもかっこよかった。
ファイナルステージ
吉住:事件が起きた会社にやってきた鑑識の女の狂気性
代表的なコント『女審判の彼女』をさらにレベルアップさせたような設定で、鑑識あるある(あるあるなのかはわからないが)をふんだんにちりばめつつ、ただのバカップルかと思いきや「もし犯人捕まえることできたらさ、絶対結婚式呼ぼうね!」などと言い放ち、この女性の狂気性を徐々ににじみ出させる流れが素晴らしかった。
街裏ぴんく:モーニング娘。の初期メンバーとしてデビューするはずだった話
ファーストステージの偉人よりも身近な対象の話を持ってきたことと、コントに入らない芸ゆえに、内容こそ違っても「ファーストステージの話の続き」のように聞けたのが勝因のひとつだったのではないだろうか。
明らかに死んでいる偉人とのエピソードと違い「絶対にないとは言いきれない」モーニング娘。メンバー加入の話の中にある唯一の異物にして最大のパワーワード「悦夫・越・嗚咽」は一生忘れない。
ルシファー吉岡:隣人が言いに来たのは、騒音の苦情のはずだった
騒音の苦情を本人に伝えに行く隣人のひとりコント。明らかに悪いのはうるさい大学生なのに、いくら会話が丸聞こえだからとはいえ一言一句漏らさず覚えている異常な記憶力と、どれだけウザがられようが一切話を止めない鋼のメンタル、一見まじめそうな見た目としゃべり方が相まって、より狂って見えた。ゆっくり歩いて定位置に戻り「じゃないんだよ」でいったん締めるくだりは何百回でも見たい。
9人全員まったく違うタイプの変人奇人が存分に見られて、私は本当に満足している。『R-1』に夢があるかどうかはわからないが、夢に出てきそうな大会だった。
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