サンドウィッチマン結成26年目、富澤たけしが抱く“野望”「(自分の役割は)伊達の望みを実現させること」

文=釣木文恵 撮影=嶌村吉祥丸


今年そろって50歳を迎えるサンドウィッチマン。独特かつ洗練された芸、そして自然体な姿で、大衆と同業者の双方から厚い信頼を寄せられる彼らが、絶大な人気を獲得してから久しい。一方で富澤たけしは、今も相方・伊達みきおの人生を変えたことへの“責任”を感じているという。

本稿では、2024年2月20日(火)発売の『クイック・ジャパン』vol.170に掲載した80ページ以上にわたるサンドウィッチマン総力特集から、富澤のロングインタビューを一部抜粋して公開。「僕が伊達をこの世界に引っ張り込んだ、という負い目はまだありますね」と語る彼は、サンドウィッチマンの行く末をどのように見据えているのか。

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好感度は「知らねえよ」

──東日本大震災以来、おふたりは震災復興支援に尽力されていますよね。今年の能登半島の地震の際もすぐに行動された。そういう活動と、お笑いとを自然に両立されています。それはとても難しいことだと思うのですが。 

富澤 もちろん、最初はすごく話し合いました。でも東日本大震災は地元でしたし、僕らはその日現場にいた当事者でもあった。だからやろうと。震災に関わることで「もう笑えなくなっちゃった」と言われるんだとしたら、僕らの実力がそこまでということなんだろうから。真剣に伝えるのはほかのニュースとかでやればいいことで。全部に手を出そうとは思わないし、ちょっと笑いも入れつつ伝えることは、自分たちにしかできない。シリアスになりすぎないうまいやり方が何かあるんじゃないかと思って、やるようにはしていますけどね。 

──NHKでやられている『病院ラジオ』も、そういった経緯があってこその、サンドウィッチマンらしい仕事だなと思います。 

富澤 めっちゃ難しいですけどね。ただ、あの番組に関してはNHKの方が事前に何カ月も取材をして関係性を作ってくれていて、「話したい」という方が来てくれているので、なんとか明るくできてますけど。だから、しんどいですけど重くなりすぎずに観られるのかなとは思います。 

──まさに、一人ひとりの置かれた状況は身に迫るものなのに、どこか軽快な部分もあって、本当にいい番組だなと思います。 

富澤 実際にはひとり1時間くらいしゃべっていて、もっとボケたりツッコんだりしてますけど、わりとそこはカットされることが多いんですよ(笑)。現場ではもうちょっと笑いがあるけど、放送はだいぶまろやかになってますね。 

──たしかに、たまにツッコんでいるシーンもありますね。おふたりが相手に気を遣いすぎずに対峙している感じがします。 

富澤 そう、僕ら「人を傷つけない」だのなんだの言われることありますけど、意外と失礼なんですよ(笑)。ただ、いろんなロケとかで人と接していくなかで、なんとなく「行くべきか、ここで引いたほうがいいのか」という距離感、踏み込み方がうまくなったのかもしれない。失礼に見せないやり方で、実はけっこう踏み込んでるんですよね。 

──好感度ナンバーワン芸人といわれて久しいですが、そういわれることについてはどう考えていますか? 

富澤 「知らねえよ」というのが率直なところですね。好感度というのはそっちが感じることであって、こちらは別にそのためになんかしようとは思わない。まあ多少は「こういうことは言わないほうがいいんだ」というのは、ないわけではないですけど。でも、そこに左右されるのもめんどくさいですから、なるべく気にしないようにしていますね。 

──そこを気にしないところこそがサンドウィッチマンの魅力であって、そういう姿を見てまた好感度が上がるのかもしれないですね。 

伊達をこの世界に誘った責任 

──富澤さんご自身は、サンドウィッチマンというコンビの独自性はどういうところにあると思いますか? 

富澤 なんでしょうねぇ。僕ら、「これがやりたい!」で今の状態になっているというよりは、気づいたらここにいるという状態なので。別にMCをやりたいという気持ちもなかったけど、気づけばいっぱい番組をやって、MCもやってる。だから、変な感じではあるんですよ。「じゃあ何をやりたいの?」と言われると「なんだろうな」ともなるし。目標がちゃんとしてないのに進んできちゃってるなという感覚はありますね。 

──それでもいいなと思っているのか、本当は目標を考えてそこを目指したほうがいいと考えているのか、どちらですか? 

富澤 本当は目標があったほうがいいかなと思いつつ……。でも、今、伊達が「コロッケの番組やりたい」とか「ゴルフの番組やりたい」と言って、それが実現するようになってきているから、それはそれでいいのかなと思いますね。 

──たしかに、伊達さんは好きなことや趣味が仕事になっていますね。 

富澤 だから、俺はどっちかというとそれがうまく運ぶようにしたいですね。伊達が望んでいることをちゃんと実現するにはどうしたらいいのかなと。 

──富澤さんは、伊達さんの夢を実現する役割。 

富澤 伊達って「これがやりたい!」とだけ言って、そのためにどうするかとか、どうしたら実現するかとかはあんまり考えてないんですよ。だから、その過程やまわりのことを考える、作るのは俺の役目なのかなと。 

──そういえば漫才でも、富澤さんは伊達さんが楽しんでいる「ネタに入る前」の時間に付き合っているわけですよね。結果、20分のところが40分になったり、単独ライブではさらに際限なく延びたりもするけれど、それでも伊達さんのやりたいことのほうを尊重している。 

富澤 そうですね。そこはやっぱり、根本的に僕が伊達をこの世界に誘ったというのが……。 

──その思いが。 

富澤 はい。そこがあるからだと思うんですけどね。コンビを組むために、会社も辞めさせてますから。だから僕は、伊達がいかに楽しんでくれているか、ノッてくれているかというところに常に不安を抱えているんじゃないかな。 

──結成してもう26年目なのに、「自分が誘った」という負い目はまだついて回るんですか? チャラにはならないですか?  

富澤 僕の中ではこれは責任だと思っているところがあります。あいつの人生を狂わせているわけじゃないですか。そのまま会社を辞めずに仕事をやってりゃ、ずっと続けられていただろうし。それをこっちに引っ張り込んで、人生を変えちゃってるわけですから。その責任はずっと感じてます。 

──『M-1』チャンピオンにもなって、これだけ活躍している現在の状況を傍から見れば会社を辞めさせてでもこの道に誘ったことが正解に思えますが……。 

富澤 でも、どうですかね。仕事を続けていった先に、そこにはそこの幸せがあったかもしれないから。結果的に見れば僕が誘ったことで有名になって、お金持ちになっているかもしれないけど、そうじゃない人生を進んでいれば得られた幸せというのもあるはずで。だから、今のほうが幸せかといわれたら、比べられないとは思います。 

──どちらにしても、道を断念させているという気持ちが。 

富澤 それはどうしてもありますね。 

最後まで逃げ切れたら勝ち 

サンドウィッチマン『クイック・ジャパン』vol.170

──サンドウィッチマンは結成25周年を超えて、おふたりとも50歳になりましたね。  

富澤 数字は苦手だからあまり考えないですね。何周年とか言われても別に気にしないし、何か特別なことをやりたいとも思わない。そういうことを何も考えずやってきて「ああ、何十年経ってたね、よかったね」とかいうほうがいいのかなと思います。 

──富澤さんはかねてから、「60歳くらいで引退したい」と話されていますよね。一方で伊達さんは「将来は仙台に帰りたい」とおっしゃっています。その齟齬はどうなっていくんでしょうか。 

富澤 どうなんでしょうね。60歳を超えてそれ以上続けたいというのは、もう伊達の問題なので、そこは好きにして、と思いますね。……やっぱり、終わりがないとしんどいじゃないですか。マラソンをずっと走っていて、ゴールがないと言われたら「えーっ!」となるし。だからなんとなくそのへん、60歳で辞めようかなぁと思っているということであって。わかんないですよ、需要があれば全然辞めないかもしれないですけど。「そのへんにゴールがある」と思っていたほうが、気持ちが楽なんですよ。 

──「絶対に引退するんだ」ということではなくて、今走る自分の気持ちのためにそうやってゴールを設定しているということですね。 

富澤 そうですそうです。「なんとなくこのへん」というゴールさえあれば。到着してみて意外と「あ、もう何キロか行けそうだな」となれば、行くでしょうし。 

──これまでのお話によれば富澤さんは伊達さんのやりたいことを叶え続けてきたわけで、伊達さんが「もうちょっと走ろう」と言ったら走ることになるかもしれませんね。 

富澤 どうなるでしょうね。 

──最後に、富澤さんのこれからの目標、野望を教えてください。 

富澤 まあ、仕事がなくならないまま逃げ切りたいです。最後まで逃げ切れたら勝ちです。 

──今のおふたりを見ていると、そう簡単にはなくならない気がしますが……。 

富澤 いやいや、今はもう何がどうなるかわからないですから。 

──「この世界に自分が誘った」という伊達さんに対する負い目は、どうなったらなくなりそうですか? 

富澤 それも、逃げ切ったらじゃないですか。その「最後」が引退なのか、死ぬまでなのかわかりませんけど、お互い生活に苦労することなく終われたら「ああ、よかった」となると思いますね。だから、最後の最後までわからないんですよ。 

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釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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