神保町よしもと漫才劇場を中心に活動している吉本興業所属のお笑いコンビ・めぞんの吉野おいなり君による連載「吉野おいなり君の妄想日記」。子供のころから「妹が欲しい」と願うおいなり君が、「脳内に生み出した架空の妹たち」との日常を綴る。
例年どおり、年越しの瞬間も「ゆうか(長女)・ゆめ(次女)・うた(三女)」の三姉妹と過ごしたという、おいなり君。冬の恒例となった初詣では、兄妹の暖かさを感じたそうです。
おいなり君の妹たちについてはこちら(#1「人生の半分以上、僕の頭の中には現実にはいない妹がいる」)
今年も三姉妹とともに
今年も一年よろしくお願いします。
本日もカフェでQJWebさんの最高コラムを書かせていただいております。
毎月、月の始まりにこのコラムを書くかとカフェに行く習慣がついてきております。今年が始まって最初に思ったことも「月が始まったしコラムを書くかぁ」でした。それほどに最高コラム仕事と僕の生活は密接になってきました。
このコラムを書いていなかったときの自分がどうやって生きていたか、今ではもう思い出せません。
いつもこの場所で、この僕の大切な電脳サンクチュアリで妹のことを書かせてもらえることで、妹の影が濃くなり、輪郭がはっきりとしていくのを感じます。
幻影が実像に変わっていくグラデーションを肌で感じながら、その月を始める。そして、今月は一年を始めることができました。ありがとうございます。
今日はカフェでホットコーヒーを1杯飲んだらお腹が完全に壊れてしまって、3度目のトイレをしています。
自分の席からトイレに行くまでの道中で電話をしているおばさんがいたのですが、「今の質問を受けてどう思った? 私はね、この質問をしゃべる人みんなにしているの、そのときの反応や答えでその人の性格を診断しているのよ」と言っていました。気になる。
そういえば、うたがそういう診断とかにハマりやすくて、ちょくちょく気に入ったものを家族に試してくることがあります。
ゆめは「そんなの誰にでも当てはまるように作られているだけだし、“バナナーム効果”だよ」と言っていたのですが、それをいうなら“バーナム効果”だし、以前、僕に心理テストを持ちかけてきたゆめに、僕が言った言葉の受け売りでした。
最近のゆめは「そういうの信じないんだよね」というスタンスなのですが、それは完全に僕の影響を受けています。お兄ちゃん的にはうれしいような、そんな子に育ってほしくはないような、複雑な気持ちです。笑
結局、一番優しいゆうかが「うんうん、えっ、そーなんだ!」と、うたの心理テストの被験者になってあげて、丸く収まるといった感じです。うたはおもしろがってすぐに試すけど、本当に占いとか心理テストを信じているというよりは、楽しんでいるといった感じ。逆に、ひねくれた見方をしているけど、結局、一番信じちゃうのはゆめかもしれません。
そんなうちの三姉妹ですが、おみくじやお賽銭など、初詣ではどうなるのか? 時期的にもみなさん、気になるんじゃないでしょうか?
もちろん、今年も家族で初詣に行ったので、今日はそのときの話をさせてもらいましょう!
吉野家の年越し
我が家は全員、初詣に乗り気というか、冬のイベント事はだいたい好きなので(僕に似ていますね)、昔から初詣はみんなで行きたい、というのが総意でした。
僕もほかの行事だと、三姉妹たちに付き合わされて渋々、なんてことが多いのですが、初詣は違います。むしろ、寒いのが苦手なゆめ、夜は眠いうたを引っ張りながら連れて行くぐらいの勢いです。
今年も、リビングでみんなでこたつに限界まで体をシンクロさせながら、『NHK紅白歌合戦』を流し観している(うたが絶対に『紅白』を観たい)まま、ダラダラしていると年越しの瞬間が来ました。
僕は特にテレビは観ずに、スマホでマンガを読んでいて、その横でゆめが僕が勧めたマンガを読んでいました。
年越しそばの残骸たちを片づけてくれて、洗い物まで終えたゆうかが、申し訳程度に「あ、そろそろ年越しの瞬間だよ〜」と言うも、年越しの瞬間にはさほど興味のない面々が「今年こそみんなでジャンプする?」「一番高く飛べた人に金一封です」「絶対に負けないぞ〜」など適当にしゃべったのちに、0時になった瞬間にゆうかだけ小さくジャンプして恥ずかしそうにしていました。
だが、お遊びはここまで。
「みんなで初詣に行くか!」と立ち上がった僕を、ほかの3人が気だるそうに一瞥して、自分の作業に戻っていきました。慕われていない係長が“華金“に思いきって飲みに誘ったときみたいな空気が流れるも、僕はめげません。(厳密にはゆうかはそそくさと上着を取りに行ってついてくる気満々でした。かわいいやつだ)
「初詣に行った者にだけ……一年に一度の金一封がある……正真正銘のな……」
ゆめとうたの目つきが変わる。
「それってあの……“玉”と称されるものですよね……」
「ああ、そうだ……」
「ゴクリ……」
「あと5分以内に支度を終わらせたものに限る!」という叫ぶ声が家中に響き渡った瞬間、2匹の眠れる虎が目を光らせてこたつから飛び出した。
うむうむ、痛い出費だが、まあ最初からあげるつもりだったし、こんなに嬉々としているならいいか。
昔のかわいかったコイツらを思い出す。
「絶対に初詣行く! 年越しの瞬間も起きてる!」と息巻いて、スヤスヤと眠ってしまっている妹たちに、元旦の朝に「なんで起こしてくれなかったの〜!!」と、どやされていたころ。いや、あのときから生意気ではあったか。
なんてしみじみしていると、世界記録を更新するスピードで身支度を済ませた妹たちが、玄関から「早く行くよ〜、何もたもたしてんの」とあり得ない逆転文句を投げつけてきた。
うたはなんだかんだ、外に出ると楽しそうにさっき『紅白』で観た最近お気に入りのアーティストの話をしながら先導していて、ゆめは寒さからひと言もしゃべらなくなり、ゆうかは普通にうれしそうにしていた。
本来なら全然めんどくささが勝つ行為を、一年に一度の特別感だけに背中を押されて前に進んでいく感じが、お兄ちゃんはたまらなく好きなのだ。
だから、僕は初詣が好きだ
神社に着くとあまりの長蛇の列に、一同総意でお賽銭とお参りは3日ぐらいに人が少なくなってから再チャレンジしようということになり、みんなでおみくじを引くことにした。お焚き上げの前から一歩も動かなくなったゆめをみんなで引きずりながら。
【おみくじの結果】
ゆうか 大吉
ゆめ 末吉
うた 大吉
僕 末吉
「えぇ!! 嫌だ!! なんで!! うたとお姉ちゃんだけズルい!!!」
興味ないですよ、みたいな顔をしながら、やっぱり一番気にするタイプのゆめが末吉であり得ないぐらいゴネ出して、「もう一度引かせろ!」と僕の財布を強奪しにかかってきた。人の財布を強奪して引き直したおみくじで大吉が出ても神の御加護はないだろ。
結局のところ、神社で一番楽しそうに騒いでいたのはゆめだった。
そんなこんなで文句を垂れながらも、なんだかんだ初詣を昔のように楽しんでいる3人を見て、なんだか心が弾むようなうれしさに包まれた、幸せを感じるんだ。
外が寒ければ寒いほど、兄妹の暖かさを感じるというか、なんでもかんでも初めが楽しいタイプだからか、一年の始まりというものに心が躍る。躍る心に暖められて、少し寒い年始の冬にも歩を進められる。だから、僕は初詣が好きだ。
別に神様に何をお願いしたいわけでも、何かを報告したいわけでもないけれど、大切な1秒を繰り返しての今だから、見上げたら広がる空だけじゃなくて地面から1ミリでも上がったらそこはもう空だろ。
だから、年越しの瞬間に地球上にいなかった。なんてのは、実はただのジョークなんかじゃなくて、1秒でも始まったらそこはもう今年なわけで、また大切な1秒を今年も繰り返せるなら、それはもう飛びっきりの奇跡なんだ。
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