緊急事態宣言直前、不要不急の大句会『東京マッハ』が燃えた日

2020.4.15


戦いは、いつものように始まる

公開句会『東京マッハ』第24回「國難ニ際シ句會ヲ配信ス」のお題は、「今の状況しばり」だった。
ゲストは、『ピエタとトランジ <完全版>』の作家、藤野可織。
初のオンラインということで、ひとり4句、投句。5人なので全部で20句。

清記用紙を見て、特選1句、並選2句、逆選1句を選んでもらえるとうれしい。

清記用紙。選句してみてください

登壇者の選は以下。

千野帽子選。
並選11番 清明や玻璃の器のあはきあを
並選19番 並びたる靴に足なき遅日かな
特選17番 不意の空き地の不意の広さや春日傘
逆選1番 くつずれでもはやこれまで蝶の昼

米光一成選。
並選14番 春愁のちゃんと痛そうな仙人掌
並選13番 夕雲や四月の窓に風あたる
特選7番 大いなる嵌め殺し窓鳥雲に
逆選6番 くるしくて夜には夜の桃の花

藤野可織選。
並選7番 大いなる嵌め殺し窓鳥雲に
並選20番 外は春不要不急の水餃子
特選19番 並びたる靴に足なき遅日かな
逆選10番 こうもんは穴人間も穴だ春

長嶋有選。
並選7番 大いなる嵌め殺し窓鳥雲に
並選17番 不意の空き地の不意の広さや春日傘
特選20番 外は春不要不急の水餃子
逆選10番 こうもんは穴人間も穴だ春

堀本裕樹選。
並選10番 こうもんは穴人間も穴だ春
並選17番 不意の空き地の不意の広さや春日傘
特選13番 夕雲や四月の窓に風あたる
逆選1番 くつずれでもはやこれまで蝶の昼

登壇者たちの選句結果

出ていけない状況と鳥の対比

約100人が見守ったZoom画面。左上から時計回りに、千野帽子、藤野可織、長嶋有、堀本裕樹、米光一成

最も得点を集めた句がふたつ。
ひとつは7番。

大いなる嵌め殺し窓鳥雲に

まず特選に選んだ米光が称賛する。
「嵌め殺しって言葉が凄い。嵌め殺しってあれだよね、フィックスした窓だよね。窓を嵌め殺すという言葉の重さね。いま、こういった状況なので、外に出にくい。そういうときに外と通じる窓があるというありがたさみたいなものと当時に、嵌め殺されるんだっていう、嵌め殺しと嵌めコロナってかけてるのかと思うぐらいの不穏さ。で、渡り鳥を指す季語の『鳥雲に』につづく。内側にいる自分たちと、外にいて自由に飛んでいる渡り鳥の対比、内側と外側をつなげる嵌め殺し窓。その嵌め殺し窓に『大いなる』って形容がついてることの調和。すごい調和でもって組み立てられてる!」

「嵌めコロナが、受けてるよ」とインスタライブのチャットを見て報告する長嶋有も、「大いなるっていう言葉が、チャールズ・ディケンズみたいでさ。大いなるで、窓自体に歴史を感じさせる。5音も使った大仰な言い方が、開けられない向こうに行けない嵌め殺し窓の特性を、さらに大きく厳かにしてみせた」とそのよさを語る。

「巨大なもの大好きなので、それで選んじゃった。出ていけない状況と、自由に飛び回ってる鳥の状況の対比がきれい。“鳥雲に”で終わってるのも、自分は内側で大した動きはできないけれど、鳥には動きを感じさせる終わり方で素晴らしいと思います」と藤野可織。

嵌め殺し窓を、巨大だとイメージする者と、小さくて偉大だとイメージする者に分かれた。
句は17文字なので、受け手によってイメージが大きく違うことがある。
解釈を語ることで、それぞれのイメージがぶつかり合い、混ざる。
最後に、句の作者が明かされる。堀本裕樹の句であった。

空き地って不意に空き地になるから


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