手塚治虫の幻の原稿。そこから読み解く手塚漫画の描き方と真髄(てれびのスキマ)

てれびのスキマ

テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。

『浦沢直樹の漫勉neo』

新シリーズ初回のテーマは“特別編”的に手塚治虫。手塚のアシスタントをしていた高見まこ、堀田あきお、石坂啓が集結し、手塚漫画の描き方に迫る。彼らは1978年からアシスタントをしていた同期。のちにプロとして成功する作家が同時期にそろっているのだから凄まじい。このころは最も忙しい時期で、『ブラック・ジャック』、『三つ目がとおる』、『MW』、『ブッダ』、『ユニコ』、『火の鳥』の連載を抱え、あるときには1カ月で18本もの締め切り、266ページを描いていたという。

原稿を見ると、筆圧の強さや下書きがほぼなしだったりするのがわかる。決めカットでは、髪のベタで消えてしまうブラック・ジャックの片目もちゃんと描いている。一方で手塚は「雑誌に載ってなんぼ」という考え方で、途中のことは気にせずホワイトを入れることなどに躊躇しなかったそう。つまり、原画を版下(本を作るときの製版の元となる完成原稿)と捉えていたのだと。

『漫勉』の企画のきっかけになった手塚の密着ドキュメンタリーの映像も。その映像から、通常支点にするべき小指を浮かせて描いていたり、柔らかい雑誌を下敷きにしたりといった描き方の特徴があぶり出される。相変わらずマニアックで興味深い。

浦沢直樹にとって『COM』の『火の鳥(乱世編)』が自身のマンガの描き方の基礎になったそうで「中学から高校にかけてほぼこの絵なんですよ」と語る。次の9月号が待ち遠しくて夢に見るほどだったが、そのまま廃刊。たった1回で終わってしまう。そんな幻の第2話(『COM』版)の原稿が見つかったという。それを見ると、コマ割りしてセリフを描くことから始めているなどといった手塚の描いていくプロセスがわかる。

高見は『火の鳥』の印象的な1ページとして、弁太とヒノエのその後についての言い伝えを描いたページを挙げる。2コマを使って正反対のふたりによるふたつの結末が描かれている。「今のマンガはこれに数ページ費やす」と浦沢は言う。「この2コマでじゅうぶんなんだ、という自信。伝わるんだっていう読者を信じている感じ」があると。日本に漫画読者を生み、それを自ら育ててきたのが手塚。「受け手と読み手の相互で鍛え合う」という「手塚漫画の真髄がここにある」のではないか、と。

あと、手塚が亡くなる数年前、56歳のときに語った「あと40年ぐらい書きますよ。アイデアだけは、バーゲンセールしてもいいくらいあるんだ」というセリフは何度聞いても痺れる。

『タモリ倶楽部』

最も作るのが難しいとされる「金のテロップ」を特集。そういったことに詳しい人物として、テレ東元社員の上出遼平がまさかのゲスト出演。「先日、妻(大橋未歩)がお世話になった」と上出。その大橋は『タモリ倶楽部』出演時、オープニングでタモリの前を横切って登場していた。そのことを笑って回想するタモリに上出「満足気に帰宅してまして、手応えを感じてました(笑)」。

テロップは通常「オペアシ」と呼ばれる人がディレクターの指示を受けて作っているそう。上出は画面いっぱいにたくさんのテロップを過剰につけることを「ディレクターの自信のなさが表れて、なんでも足し算してしまう」と語る。最小限のテロップで色もあまり使わない『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を作っていた上出が言うと説得力がある。特にダサくなりがちな「金」を使おうと思ったことはないという。

複数の職人が「森田一義」を金色のテロップにすると、どのように光沢感をつけるかとか、枠や影のつけ方などで全く違うものになるのが興味深かった。少し前まではテロップ=テレビの悪い部分みたいな言われ方をしていたけれど、いまやYouTubeでもテロップは当たり前。だからテレビ画面のアートワークみたいな観点で深掘りできるジャンルかもしれない。

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1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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