活動場所の選び方
デビューしたばかりのVTuberがプラットフォームを選ぶ際最初に考えなければいけないのは、視聴者との距離感だ。YouTubeでの配信はアーカイブがはっきり残るため記録としては最良ではあるが、配信をしているというのを何らかで告知・宣伝しないと、ほとんど発見されない。
一方でREALITYやMirrativなどの配信アプリは、トップを開くと配信をしている人が一気に出てくる。そのため新規の人が「なんとなく」で訪れやすい。IRIAMはイラストひとつで自動で動ける便利なプラットフォーム。「YouTubeよりも気軽におしゃべり」とうたっている。リアルタイム性重視でアーカイブは残らない。
SHOWROOMは配信画面がかなり特殊で、中央の巨大なディスプレイに配信者が映し出されるステージ形式。視聴者はフロアにアバターで並んで見ることになる。投げたギフト(お金で買えるアプリ内アイテム。配信者は投げられたギフト分の報酬をプラットフォームから受け取ることができる)の高い順に視聴者は整列するため、TOPファンが視覚化されやすい。
加えてSHOWROOMにはランキング機能があり、人気順(ポイント制)に配信者が並べられる。アイドル枠だとAKB48や乃木坂46のメンバーも参加。タレント、モデル、シンガー、声優、芸人などがしのぎを削っている。ここに「バーチャル」が別枠で追加された。アーカイブは残らない。
ポイントになるのは視聴者のギフティングやコメント。ランキング上位になれば必然的に配信者が目立つ上に、公式のガチイベントも開催されているため、ファンとVTuberの熱心な活動が繰り広げられている。上位争いのないYouTubeでのゆったりした配信とは、テンポ感がだいぶ変わってくる。
そもそもYouTubeでの配信は収益化が非常に難しい。チャンネル登録者数が1000人以上、直近12カ月の総再生時間4000時間以上という壁は、新人にはものすごく厳しい。
近い距離感で気軽に話すことができ、ある程度人を集め、収益も視野に入れられる、となるとYouTubeよりも向いているプラットフォームはたくさんある。最近ではライブやセミナーなどを有料配信できるシステムのところもあり、自由の効くプラットフォームを選択できる幅がある。
ただ、アーカイブを残して作品化する、という点ではYouTubeが今は一強だろう。アーカイブを蓄積すること自体が動画配信者のキャラクター性になるため、個性がコンテンツになるVTuberとの相性がいい。作品づくりをしたいのか、視聴者と会話をしたいのか。自身の活動目的が、プラットフォーム選びにつながっていく。
動画配信文化が合流したVTuber
YouTuberは動画をアップして広告収入を得るのがメインなので、アーカイブがしっかり残るYouTubeが主戦場だ。その分広告をつける制約は厳しいが、作品を残し世界の人に見てもらえる安定感は高い。
ミュージシャン・ボカロPや「歌ってみた」「踊ってみた」で活動する人は、より多くの人に見てもらうために、ランキングやタグが機能し、いつでもコメントで盛り上がりやすいニコニコ動画が多く利用されていた。最近はYouTubeに移動したり、並行アップする人も多い。
ゲーム実況者は、期間限定でアーカイブが残るTwitchやニコニコ生放送などでの活動が目立っていた。編集動画にした実況動画はニコニコ動画・YouTubeにアップする場合が多く、大手実況者は次第にYouTubeに活動拠点を移している。
「ニコ生主」と呼ばれる人たちによるニコニコ生放送での配信は、かなり尖ったジャンルの活動も多く、悪口も匿名で飛び交う、なんでもありな無差別級的な空間だった。その分先鋭的な技術と混沌と才能が数多く生まれた場所だ。
17Live、ツイキャス、ふわっち、LINE LIVE、インスタライブ、TwitterのSpacesのようなカジュアルなプラットフォームは、スマホの進化にあわせて全く別の文化圏として育っていた。不特定多数に向けてのボイスチャット的な感覚なので、家事や料理やカラオケなど、なんでも流される。中高生もいれば、子育て中の主婦や、仕事休憩中の会社員、お年を召した方がやっていることもある。投げ銭で稼ぐことを視野にいれつつも、リアルタイム交流がメインなのでアーカイブを残すという意識がまず存在しない。
これらの配信動画文化は、ユーザー層がほとんど重なっていなかった。しかし今は、バーチャルアバターをかぶれば全員「VTuber(YouTubeにいなくても)」になる。
かつては主にニコニコ生放送やツイキャスなどを中心に見ていて、今VTuberとしてYouTubeで活動している、と明言する人は割と多い。となるとアーカイブを残す残さないの価値観が根本的に異なってくる。YouTubeで活動を始めると大体の人がアーカイブを残すようになるが、ツイキャス感覚でサクッと消す人ももちろんいる。
視聴者側もどこをメインに見ていたかで感覚が変わる。YouTubeをメインに見ていた人にしてみたら、交流のためのSHOWROOMやIRIAMなどのプラットフォームでVTuberのアーカイブが残らないのは、歯がゆいかもしれない。SHOWROOMのギフト飛び交うリアルタイムなノリを、アーカイブとして残すのに抵抗がある人もいるだろう。
YouTubeでアーカイブ保存をする活動と並行して、ツイキャスなどで気軽に消えてもいいような日常会話をするVTuberもかなり多い。VTuberの公私の使い分けを垣間見ることができる、ファンサービス的配信としての使い分けだ。
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