河川敷には家にいて気が塞いだらしき人々がちらほら
調べてみると、そのファイアーディスクは重さ1.6キロと簡単に運べるほどで、専用のキャリーケースも付属していて、肩に引っかけてすぐ外に持ち出せる。ケースから取り出したら、下部についた折り畳み式の3本の脚を開くだけで設置完了。とにかくコンパクトでシンプルな構造。翌日にすぐ届いたものを箱から取り出してみると自分の顔が移り込むほどに銀色に輝き、なんだか美しい楽器のようだ。
外箱にはこう書いてある「広い焚き火スペースと高い収納性 収納ケース付きの オールインワンモデル」。焚き火の世界に「オールインワン」があるなんてな。
それから数日後、天気のいい昼下がりに焚き火をしに出かけることにした。
ファイアーディスクの入ったキャリーケースを颯爽と肩にかけ、着火用のライターと新聞紙と片付け用のゴミ入れと、あとは普段どおり、携帯用の小さなイスを持って行くぐらい。近所の100円ショップで炭とトングを買い、コンビニで缶チューハイを買って河原へ向かう。うちからそれほど遠くない場所に広い河川敷があり、火気使用が許可されているエリアがある。
河川敷には、家にいて気が塞いだらしき人々が、距離を取りながら、少人数単位で集まっている。これからファイアーディスクを使った初めての焚き火をするにあたり、誰かの迷惑にならぬよう、私はエリアの端っこに陣取る。迷惑に、というのもそうだし、「え、あの人、焚き火してる?」と指をさされるのもなんだか照れるし、とにかく目立たぬようにやりたい。
さて、ケースから取り出した銀の皿を前に深呼吸だ。これから焚き火を始めるわけだが、うまくいくだろうか……。そもそも炭に火を移すのだって、BBQなんかするときはアウトドア慣れした人に任せていて、確かあれにもコツがあったはず。と、どんどん不安になってきたが、まあ、最悪、皿に乗った冷たいままの炭を眺めて過ごせばいいだけだし、と開き直ってスタート。100円ショップの炭を数個、皿の上に並べ、持ってきた新聞紙を棒状に固くひねってその下に潜り込ませるように置いてライターで火をつける。
新聞紙が燃え、その火がすぐに小さくなって、シーンとした時が流れる。ダメか。しかし耳を澄ますとシンシンと炭が少しずつくすぶるような音が聞こえ、しばらくしてトングで動かしてみると、意外にもあっさりと炭に火が移っているではないか。この「ファイアーディスク」が優れている点はその構造にあって、浅いボウルのような、お相撲さんが優勝してお酒を飲むデカい器みたいな、ああいうふうな形になっているので、炭を薪を置いたとき、その下に隙間ができる。そこに空気が入り込むから、焚き火が作りやすいんだそうだ。
キャンプで本格的な焚き火をする人のブログを見たりすると、最初に薪を組む形からしてうまく空気を通したり、火力を上手に集めたりするためのコツがあるようだけど、それがこのグッズのおかげで初心者でも簡単、ということらしい。
思った以上に楽に炭に火が移り、そこからは、すぐそばに落ちている枯れ枝の細かいのを集めて燃やし、火が消えたらまた少しくべて、と、缶チューハイをゆっくり飲みながら揺れる火を眺めて過ごした。