「被写体としての女性」の尊厳はどこにある?ヌード写真集制作で知った“わいせつ”の線引き【夕方5時の会議室 #7】

編集=高橋千里


少女写真家・飯田エリカと、QJ編集部・高橋の音声番組『夕方5時の会議室』。メディア業界で働く同世代ふたりが、日常で感じているモヤモヤを、ゆる〜くカジュアルにお話しします。

第7回は、飯田さんがモヤモヤした「八代亜紀さんのフルヌード写真付きCD」問題について、過去にヌード写真集を制作したときのエピソードとともに語ります。

※音声収録は2025年4月16日に行いました

この記事では、音声の前半部分だけをテキストで公開。後半はYouTubeまたはPodcastよりお聴きください。

「八代亜紀さんの私的写真付きCD」問題に騒然…

高橋 前回は枝 優花さんゲスト回の感想をたっぷり語りましたが、その延長で、今回は飯田さんがモヤっとしているお話をふたりで話していこうかなと思います。

飯田 もしかしたらこれが配信されるころにはまた新しい動向があるかもしれないですけど(※)、八代亜紀さんの生前に撮られたプライベートな(フルヌード)写真を特典にしてベスト版CDを出すという、レコード会社からのリリース情報が出て、ネット上が騒然として。この音声を収録している段階では、八代亜紀さんの事務所から「刑事民事両面から対応します」という声明が出されていましたけど、そのニュースをXで見かけたときに、やっぱり女性の写真に関わることなので、私が何も言わずにいるのはあれだなと思ってささやかにポストしたんです。

※2025年6月現在、大手の通販サイトやCDショップなどでは発売を中止しているが、レコード会社では通信販売が開始され、事務所は引き続き法的措置を取る方針を明かしている

そもそもフルヌードの写真ってすごく扱いが難しくて。今回、刑事的にも問題になるのではっていわれてるのが「わいせつ物頒布等罪」っていう罪。性的な写真というか、主に性器が明らかに写ってる写真が該当するんですけど……女性のヌード写真の歴史の参考に、安田理央さんという方が出してる本を持ってきました。

高橋 今日飯田さんが持ってこられた『ヘアヌードの誕生』(イースト・プレス)ですね。

飯田 今日の話に関わりそうなところをかいつまんで読んできました。私、少し前にとあるヌード写真集を制作したんですけど、それを出すときに、その壁にぶち当たったんですよ。「アンダーヘアが写ってると“わいせつ”とされる可能性が高い」と言われて。

高橋 そうなんですね……!

飯田 アンダーヘアが写ってる写真は写真集に入れて売ることができません、という話になって。でも、わいせつなわけがない写真なんですよ。性的な行為を感じさせるようなものは一枚もないし、女性の身体の美しさを女性同士で撮ることで「自分たちの身体には何にも奪われない尊厳がある」という意識もあって撮ってたのに、やっぱり出版に際して、そこ(アンダーヘア)が何かしらで隠れてるか、映らない角度か、バストアップか……みたいな、すごく制限されたんですよ。

高橋 それって、アンダーヘアが写っているということがダメ?

飯田 そう。すごく難しいんですけど、わいせつ物頒布等罪って、警察にわいせつだと見なされたら罪になるそうなんですよ。最終的には裁判所次第なんですけど、過去の判例では「アンダーヘアが映ってるもの」=「わいせつ」という線引きがあって、その流れも日本の性産業の歴史にすごく関わるんです。でも、私たちの身体は私たちのものだって表現したくて撮った作品が、そのアンダーヘアという一点において線引きされるのが意味がわからなくて……。

安田理央さんにもお話を聞きに行ったんですけど、(わいせつ物頒布等罪って)なんか本当に変なんですよ。すごく歪んでいるというか、「性的な興奮を感じさせたり、刺激するもの」という基準はあるんですけど、それってわからないじゃないですか。

高橋 そうですよね。警察の方がどういう基準でこれはわいせつだと思うかって、人それぞれですよね。

飯田 しかも、時代によるんです。過去には、それこそ『Santa Fe』(宮沢りえ/1991年)とかはフルヌードなんですよ。でも、あれは芸術だからOKとされてきたんです。そのあたりから「芸術としてのヌードはわいせつじゃないよね」っていうブームが起きたときにはもうアンダーヘアが写りまくっていて、正直、性的な目線で買う人が多くて。ヘアヌードブームが90年代に起きたんですけど、そのときも芸術作品ならOKみたいな感じで。今も写真芸術としての写真集をたくさん出している出版社だと、全然アートですって感じで。

でも、私たちがお話をいただいた出版社がヌード写真集自体をそんなに出してなかったり、アート系の出版社じゃなかったりとかして。今は時代的に出版社側も、警察にケンカを打って「うちの写真集はアートです」って言いきるよりは、よけいな争いは避けたい感じなんですよね。

「成人向け」っていうラベルを貼って、本屋で開けない・包まれてる状態だったら本にできますって言われたんですけど、私たちは女性に届けたかったので、そんな感じで本屋の隅に置かれるのは本末転倒で、どっちにしろすごくモヤモヤした経験があって。

だから八代亜紀さんの騒ぎが起きたときに、「著作権も肖像権も売買契約を結んでいるので売れます」みたいなことを(レコード会社側が)主張していたと思うんですけど、権利がどうのこうのじゃなくて、そんな不要意にプライベートで撮ったヌード、人によっては性的だと感じる写真を特典にして……ということがそんな簡単にできる世界じゃないはずって気になって、めっちゃモヤモヤしたんです。

高橋 なるほど。飯田さんはそういう実体験があって、知識としてもあったから、これはおかしいというのに気づけたんですね。

【続きはこちらから!】AIを利用した「性的ディープフェイク」問題にも言及

次回は、特別ゲストが登場します! お楽しみに。

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