年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月。
今月は、5月18日に決勝戦が生放送された『THE SECOND~漫才トーナメント~2024』(以下:『THE SECOND』)を振り返る。
目次
『THE SECOND』らしさを感じる「観客投票システム」
5月18日の夜に『THE SECOND』が放送された。昨年に引き続き2回目の開催となった本大会だが、今年も素晴らしい4時間だったと感じる。
昨年と同じく、大会はネタ時間6分のトーナメント方式。最終決戦まで残った組は全部で3本もネタを披露するという、これまでのどのお笑い賞レースにもなかったボリュームだ。
普段お笑いを観ていないと「長すぎる」と感じる人もいるのであろう。しかし、ライブや寄席で活躍している芸人さんの上質なネタを地上波でこれだけたっぷり観られるというのは、本当に贅沢なことだ。テレビ越しとはいえ、これだけ貴重なものを無料で浴びられることに感謝しなければならない。
観覧のお客さんによる投票というシステムも『THE SECOND』の特徴。昨年の第1回が放送されるまでは、観客投票に対して疑問の声もあったが、2年目にしてこれが『THE SECOND』らしさなのかも、と感じさせられた。
普段は劇場で目の前にいるお客さんを笑わせている芸人さんたちなのだから、その勝敗をお客さんが決めるというのはシンプルかつ真っ当だ。もちろんお客さんの好みが分かれるというのはあるが、それは審査員がいる賞レースでも同じこと。人が審査する以上、好みが入ってくるのは仕方がない。
ほかのお笑い賞レースでは、優勝が決まったあとに「あっちのほうがおもしろかった」というような意見が湧き上がることも多々あるが、『THE SECOND』は最終的な結果に対して批判の声が少ないように見受けられる。これはやはり観客投票というシステムが関係しているのだろうか。
1点から3点までのどれかを選ぶ、というのも絶妙だ。「おもしろくなかった」の1点がついてしまうと、勝敗に大きく影響が及ぶ。僅差の勝負も多かったが、全試合で一度も同点がなかったのは、このシステムが秀逸であることの表れだと思う。
ひとつだけ気になるのは、絶対評価が求められるなかで、一部に相対評価をしている人がいることだ。予選を観ていても「〇〇のほうがおもしろかったので3点にした」というコメントをしている人がたまにいた。
しかし、3点だけつけ続けるわけにもいかない。最終的にそれで勝敗が決まるのだから、観客投票のシステムとしては今のかたちが一番よいのであろう。
ノックアウトステージも、最高の闘いだった!
今大会のノックアウトステージ(予選)は、どの試合もアツく、最高の闘いだった。
ランジャタイやジャルジャルや流れ星☆など、バラエティなどでも活躍し、知名度のあるメンバーが開幕戦で敗れ、昨年ファイナリストの囲碁将棋、超新塾、テンダラー、マシンガンズも決勝に残らないという予想外の展開であった。
予選で印象的だった芸人さんは多い。
かもめんたる
まず、かもめんたるのノックアウトステージのネタが凄まじかった。芸歴14年目ごろから本格的に漫才を披露するようになり『M-1グランプリ』(以下:『M-1』)ラストイヤーでは敗者復活戦までのぼり詰めていた。
翌年となる2023年は『THE SECOND』ベスト16まで進み、今年もベスト16まで勝ち上がった。コントチャンピオンが、この、たった数年で漫才に力を入れて結果を出しているのは純粋にかっこいい。
『M-1』に出場したときは、(岩崎)う大さんの狂気を漫才にして、槙尾(ユウスケ)さんが翻弄されるというスタイルだった。
ところが、今年の『THE SECOND』予選では、また新たな扉が開いているようなネタを披露していて驚いた。う大さんの狂気ともまた違う人間味が感じられて、個人的にはこれまで観たかもめんたるの漫才で一番好きだった。
このまま来年も出場すれば、決勝まで勝ち上がる可能性も大いにある。来年にかけて、漫才のかもめんたるも注目していていいだろう。
ザ・ぼんち
今大会で芸歴最長のザ・ぼんちの漫才は感動した。1972年結成という大大大ベテランは、劇場で会う若い世代の芸人さんに触発されて、大会出場を決意したそうだ。
ほかの出場者を圧倒する勢いを感じるエネルギッシュな漫才で、とにかくおもしろかった。一見はちゃめちゃにも見えるのに時間もピッタリで、芸歴52年の威厳をふたりの姿で見せていたのには痺れる。
対戦相手のハンジロウに惜しくも2点差で負けてしまったが、対戦後も「楽しかった」「自分たちは最高の漫才を披露できたので悔いはない」といった感想を述べ、ハンジロウに握手をして激励をしていて、心の底から素敵だと思った。
けっして上からではなく、同じ舞台上で現役の漫才師として闘っていて、『THE SECOND』という大会の素晴らしさを思い知る試合だった。
リニア
ザ・ぼんちに勝ったハンジロウと戦ったのは、リニア。ライブで同時に観たこともあるふた組だったので、どちらかが敗れてしまうのは心苦しかったが、この試合もよかった。
『THE MANZAI』で3年連続で“認定漫才師”になっていたものの、『M-1』では決勝に進むことなく、昨年ラストイヤーを迎えたリニア。いつライブで観てもおもしろいというイメージがあるコンビなので、今回の『THE SECOND』でベスト16まで進んだのはうれしかった。
予選のネタは2本ともとてもおもしろく、高得点を獲得していた。最後はライブで切磋琢磨しているハンジロウに負けてしまったものの、やはり相手を応援するコメントをしていて温かい気持ちになった。
芸歴を重ねているからこそ、どの試合も悔しさ以上に対戦相手を賞賛し、「自分たちの分までがんばって」という想いがあるのが『THE SECOND』のよいところ。
ほかの賞レースの緊張感やバチバチとした空気感はなく、ネタ以外のコメントやトークでベテランの余裕を感じる。
東京ダイナマイト
昨年はハチミツ二郎さんの病気療養で出場辞退となった東京ダイナマイトが、今年は満を辞して予選に出場。
二郎さんは入院中で、杖をつきながらセンターマイクまで歩いていた。伝説の漫才師という風格だった。「昼と夜の点滴の間に来た」という衝撃的なツカミも不思議と笑えてしまう。
漫才は最高のパフォーマンスで、杖をついていることも含めてだんだんおもしろくなってしまう。審査員のお客さんに「老体に鞭打って出場していてすごい」と言われていたのもゲラゲラ笑った。髪色も相まって、ものすごくおじいさんだと思われていたみたい。
対戦相手のザ・パンチが異次元のウケ方をしていて、残念ながら負けてしまったけれど、漫才師そのもののかっこよさを東京ダイナマイトから感じた。
グランプリファイナルの8組は「3点以外つけられない」
トーナメントを追っていると「誰が誰に勝ってここまで来た」というストーリー性も楽しめて、よりグランプリファイナルの重さとすごさを感じる。予選の分母が大きくないからこそ生まれる物語なので、この点もほかのお笑い賞レースとは大きく違う。
金属バットを除く7組は、今回が初のセカンド決勝となり、昨年とはまったく違う顔ぶれになったのもおもしろい。てっきりこの大会は実力派のベテランが毎年残っていくものだと思っていたので、こんなにもカラーが変わるとは思わなかった。
それゆえに、2年連続でベスト8に残った金属バットがどれだけすごいかというのもわかる。昨年『M-1』を終えた人も次々と入ってくるので、来年以降もメンバーがどんどん移り変わっていくのだろうと思うと楽しみだ。
グランプリファイナルの8組はもちろん全組おもしろくて、「3点以外つけられないなぁ」と思いながらひとり観ていた。
予選ではガクテンソクとザ・パンチが、特に最大瞬間風速のようなものが抜きん出ているように思えた。最終決戦もこのふた組になったので、やはり実力で勝ち上がる大会なのだと実感。
予選から涙を流して笑ってしまった、ななまがりのネタ
個人的にはななまがりが大好きなので、予選からずっと応援していた。開幕戦は決勝と同じネタで292点という高得点を取っていたにもかかわらず、次のノックアウトステージでは3点か1点かという賛否両論のネタを披露していて、なんともななまがりらしかった。
それは『M-1グランプリ2020』のマヂカルラブリーの比ではないくらい「漫才か、漫才じゃないか論争」が巻き起こりそうなネタだったので、地上波で放送されたら大きな話題になると思ったが、残念ながらそれは叶わなかった。
マヂカルラブリーを漫才じゃないと言っていた人が、そのななまがりを見たら泡を吹いて倒れてしまうかもしれない。私は漫才かどうかなんて考えられないくらい、涙を流しながら笑ってしまった。
決勝では定番の「僕が、ななまがりの、〇〇のほうで、こいつが、〜です」のツカミを披露していたが、全員がそのツカミを知っている前提で進んでいるようなトリッキーな始まりでおもしろかった。初見殺しだと思う。
でも、のちの敗退コメントで、このフォーマット史上最も美しい「僕が、ななまがりの、がんばっていた分より悔しいほうで、こいつが、もう前を向いてるほうです」を繰り出していて最高だった。
そろそろ『私のバカせまい史』で賞レースの敗退コメント史をやってもいいころだと思う。私が紹介したい。とにかく、このななまがりのコメントは歴史に残るべきだ。
昨年と今年の傾向を見ると、人間力や奇抜さだけでは勝てないのが『THE SECOND』だとわかる。けれども、昨年ならマシンガンズ、今年ならザ・パンチと、準優勝のコンビもとても愛らしい。
芸歴を重ねていくと、ネタも人間も磨かれていくのだろうなというのが、2年の結果から感じ取れた。
ハイパーゼネラルマネージャー・有田哲平が意識していた“公平さ”
松本人志さんに代わり、今大会からハイパーゼネラルマネージャーのくりぃむしちゅー有田哲平さんと、スペシャルサポーター博多華丸・大吉のおふたりも出演されていたが、絶妙なバランスで見ていて楽しかった。自分より後輩のお笑いを、真っ向から楽しく好きな気持ちを持って見守るという構図はとてもいい。
特に有田さんは、『有田ジェネレーション』や『ソウドリ』などでかなりの数の若手芸人を見ていて、賞レースの審査員として誰もが納得できる存在だが、これまで審査員をしていたことはなかった。
今回も常に公平さを保つことを意識していたようで、本当にお笑いを好きだからこその立ち位置を築いているのがわかった。それゆえに、今回初めて賞レースの現場に引っ張ってくれた『THE SECOND』は偉大だ。来年以降どうなるかはわからないが、去年とはまた違う味わいがあって楽しかった。
同じく、『マルコポロリ!』などでたくさんの若手芸人さんを見ている東野幸治さんがMCというのも安心感がある。ザ・パンチに対して「共演、楽しみにしてます」と言っていたのも、東野さんだからこそ言える重くて優しい言葉だと思った。『M-1』が今田耕司さんで、セカンドが東野さんという対比もなんだか素敵だし。
「今までどこにいたのよ?」のオンパレード
4時間という放送時間や、中身のお笑い濃度の高さからは、お笑い好きに向けた番組のようにも思える。それでも、テレビの視聴者が「こんなにおもしろい人がいたのか」と書き込んでいるのも見かけた。それこそがこの『THE SECOND』の存在意義なのではないだろうか。
昨年の『M-1』で、ヤーレンズが山田邦子さんに「今までどこにいたのよ?」と言われていたのがすごく印象的だった。
地下のお笑いライブに行っていると、たまに信じられないくらいおもしろいおじさんやおばさんがいる。何者なのかと調べてみると、紆余曲折ありながらお笑いを20年くらい続けている人だった、ということがこれまでに何度もあった。
そのたびに、これほどおもしろい人がまだまだいるという事実に心が躍り、同時に「この人たちが陽の目を浴びることはこれからあるのだろうか」と考えた。
『THE SECOND』はまさに、「今までどこにいたのよ?」のオンパレードだと思う。コアなお笑い好きではない人にとっては特に。関西と関東という、ないようである壁も壊されていく。
それから、そのタイトルのとおり、一度チャンスをつかみかけたけれど何かのピースの違いでつかみきれなかった芸人さんのための大会だ。
これらを悲観する場面は一度たりともない。ハンジロウが「明日もカレー屋さんだ」と言っても、カレーの煽りVTRは流れない。それぞれの巧みな言葉だけが光っている。
そこでザ・パンチの「一回死んだ」というコメントが生まれ、最後に大吉さんの「あなたたちは死んでなかった」というキラキラした言葉が添えられた。
『THE SECOND』から自然に生まれるストーリーは、作り話よりも美しい。
「劇場で観てみたい」という気持ちが生まれたら
本当に大切なのは、この大会を観たあとに生まれる「劇場で観てみたいな」という気持ちだと思う。もちろんテレビでの活躍も楽しみだけれど、ここで観た芸人さんの漫才をこれからも観続けるには、劇場に行くのが一番だ。
なにより、生で観るお笑いはテレビ越しの何倍もおもしろい。セカンド世代の芸人さんはテレビより何十倍もおもしろい。
来年も『THE SECOND』が開催されることを願いながら、また劇場に通う。生の漫才、一緒に観に行きませんか。
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