「“正義のヒロイン”なんて、つまらない」歌手・安斉かれん“アンチ・ヒロイン”の追求
物語のヒロインは、いつだって清楚で正義。周囲の期待を裏切らない。歌手・安斉かれんは、そんな手垢のついたヒロイン像とは真逆の“アンチ・ヒロイン”を追求している。
1stアルバム『ANTI HEROINE』『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』を2枚同時リリースした彼女。ドラマ『M 愛すべき人がいて』で主人公・アユ役を演じた強烈なイメージを軽やかに飛び越え、さまざまなジャンルの音楽を横断する──その歩みは、世間の固定観念を打ち破るための挑戦でもある。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.166(2023年4月27日(木)より順次発売)掲載のインタビューを転載したものです。
安斉かれん
1999年生まれ、神奈川県出身。歌手。2019年5月リリースのデジタルシングル「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でメジャーデビュー
こういう音楽をやっている私も私だから
──今回、「安斉かれんに一体なにがあったんだ!?」ってぐらいビジュアルも音源も印象が変わったなと思うんですけど、こうした変化を見せた理由から教えてもらえますか。
安斉 もともと、いろいろなジャンルの音楽をやりたいって話をしていて。今回のアルバムでそれを表現したというか。やっと自分が出せてきたなって感じ。変わったというより、全部出しはじめたみたいな感覚ですね。
──ドラマ『M 愛すべき人がいて』でアユ役を演じたインパクトが強く、“ポスト浜崎あゆみ”的な見られ方をすることも多かったと思うんですけど、そうしたイメージから脱却する意味合いもあったのでしょうか?
安斉 そう見られることもあると思うんです。でも同時に、もっと自分を知ってもらいたい気持ちは当然ありました。それも私だけど、こういう音楽をやっている私も私だから、いろんな自分を出したって感覚。なので、脱却とは思ってないです。
──安斉さんが影響を受けた音楽はローリング・ストーンズをはじめとした洋楽だったりするわけですが、今回のアルバムを聴いて、ど真ん中にいる安斉さんってどれなんだろうなと思って。
安斉 どれも全部自分なんですけど、「どれだ?」って言われたらわかんない。聴く音楽もジャンルレスですし、やりたい音楽もそのときそのときで違うし、どれがって言われると難しいけど、自分ってどれなんだろうってことはずっと探してます。自分でもわからないから、とりあえず本当に好きなものを全部やっていこうみたいな。
──音源制作にあたって、リファレンスで具体的な固有名詞やアーティスト名や曲名を出さないとも担当の方から聞いたんですけど、それはなぜですか。
安斉 たとえばマシンガン・ケリーは好きだけど、マシンガン・ケリーになりたいわけじゃないというか。こういう曲をやりたいとかはありますけど、この人っぽくとかっていうのはなくて。結局それだと新しいものにならない気がしているんです。
──今回1stアルバムという形で2枚同時リリースされたことについては、どんな気持ちでしょう。
安斉 『ANTI HEROINE』は、本当に好きでやりたかった曲をやっていたらアルバムになった感覚なのですごくうれしいですね。もう1枚の『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』はデビュー曲から収録されているので、エモいなと思いつつ、それがあってこその『ANTI HEROINE』だなっていう感覚はあります。
憧れのアンチ・ヒロインは「ドキンちゃん」
──安斉さんにとっての“ヒロイン”ってどんなものでしょう?
安斉 ヒロイン像みたいなものって、世間がつけていると思うんです。たとえば、日本映画のヒロインだったら黒髪でちょっと清楚っぽいとか。勝手に期待されている部分が大きい。その子がヒロインっぽくないことを言うと、すぐ叩かれるじゃないですか? でもそれってその人の見えなかった部分が見えただけで、ヒロインの子からしたらそれが正義かもしれないし、それが自分だしって感覚だと思うんです。安斉かれんはこうあるべきとか、こうだよねって思われがちだけど、そうじゃない自分もいるし、こういう曲も私だよ!みたいな感覚があって。今回のアルバムでも『ANTI HEROINE』って言葉が浮かびました。
──なにか具体的にイメージしているアンチ・ヒロイン像はありますか?
安斉 私にとってはドキンちゃんが憧れで。それで「私はドキンちゃん」のカバーを入れました。ドキンちゃんって悪役にされがちなんですけど、好きなしょくぱんまんとくっついたら、彼も菌になっちゃうからくっつけない。それをわかっていながら、一途に想い続ける気持ちが健気でかわいいなって。主人公たちはほとんど食べ物だから、マイノリティのコミュニティにしか入れないっていうキャラクターで。ばいきんまん側にいるしかないんだけど、相手側の人をすごい好きになってしまう。すごく人間くさいですよね。「私はドキンちゃん」は尖った歌詞なんですけど、ドキンちゃんが言うから許されるところがあって。それって、見た目もそうですけど、真面目にバイ菌をやっていて、真っ直ぐだからこそ許される。それは人間も一緒で、人となりだったり、見た目もそうですけど、人間性とかその人が持つ物語って、すべてが連動していると思うんです。
──安斉さんの思想や考え方がかなり楽曲にも反映されているんですね。
安斉 今作の「おーる、べじ♪」も、「言葉の行き先を想像しないベイビー」って歌詞で言っちゃってるんですけど、ネットのアンチとかの言葉って理不尽すぎるから、全員野菜だと思いましょうみたいなことを歌っていて。そう思っていたほうが楽って感覚で書いてます。でも、これはガツンとしたメロディがあるから書けたというか。この歌詞をバラードで出したら尖りすぎてしまうから、バランスを見てこの曲ではそういう気持ちを出しています。
──安斉さんの気持ちとか想いを、全面的に主張しない理由はなんでしょう?
安斉 聴いていてマイナスな感じになっちゃうんだったら書かないほうがいいというか。無駄じゃないですか、そのマイナスの感情って。そこはすごく気にしますね。そこまで強く尖れないっていうか、それは私の性格かもしれないです。
──最後に、この先思い描いている構想などあれば教えてください。
安斉 『ANTI HEROINE』で新しい曲が増えたので、ライブハウスのような感情的に歌える場所でライブをしたいです。この曲たちをライブでやったらどんな感じなんだろうって。私もまだわからないので、この先のライブが楽しみです。
INFORMATION
1st album『ANTI HEROINE』
▶各配信先はこちら
同時リリースのもう1枚の1st album『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』
▶各配信先はこちら
▶安斉かれんオフィシャルSNSはこちら
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR