尾崎世界観「母影」の視点への疑問
杉江 作者はクリープハイブでボーカルを担当しています。尾崎は小説はこれが初めてではないですし、以前から文芸好きにも注目されている書き手でした。
「母影」あらすじ
〈私〉のお母さんは、体のどこかが壊れてしまったお客さんをマッサージで「直す」仕事をしている。だが、お店に来る男のお客さんの中には変なことをさせようとする人もいるようだ。小学生の〈私〉にも、お母さんが嫌がっていることはわかり、不安な気持ちになる。
マライ 社会の慣習にまだ染まっていない子供の視点によって現実が再構築されていきます。そこで淡々と描き出される情景のエグさが印象的でした。この描写センスは、フィリップ・K・ディック『火星のタイム・スリップ』に登場するマンフレート・シュタイナー少年の現実観にちょっと似てるなとか思ったり。シュタイナー少年は現実の根底にあるものを見抜いて戯画的に描き出してしまう能力の人でした。本作についても、子供が再構築する現実の姿が、世俗的な善悪基準を超えた本質的直観なのかもしれない、と読者に感じさせるところがあると思います。
杉江 語彙が少ないからこそ、残酷なくらいに本質を見てしまうという着想はおもしろいと思うんですが、ちょっと作者に都合のよ過ぎるかたちでで子供の視点を使っているな、というのが私の率直な感想です。この子の母親はマッサージ店で、違法なかたちで性奉仕をさせられている。そうした姿を見せられた子供は深く傷つくと思うんですが、それを「よくわからないことをお母さんがしている」と書くのは私には逃げの姿勢に見えてしまったんですね。また、この子は電車の乗り方も知らないくらい幼いのに、性に関するタブーを語るときなど、もう少し成熟しているように見えるときもある。作者の都合で精神年齢を上下しているように感じられて、そこは大きく減点材料でした。
マライ 厳しいですが、確かにそれは言えている。主人公の主観で構築された世界は論理的に破綻もせずによくできていると思うんですが、「大人の男性が想像して書いたんだろうな」感が漂ってしまう面はありましたね。
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