スクリーンで林裕太の演技を初めて見たとき、ひと目で引き込まれた。
その人物が、今もこの世界のどこかで生きているんじゃないかと思わせる力が彼にはある。多くを語らずとも伝わる自然な出で立ちや、世界をまっすぐと射貫く瞳は観る者をあっという間に魅了した。
「俳優」という職業や自分の生き方に対して真摯に向き合い、思案しながら言葉を紡ぐ彼が、「今」、何を感じているのか。
「愛とは何かを探すために生きる」と語る林裕太の演技に通ずる人生論に迫った。
底が抜けてしまった社会で感受性を失わないために、2000年代生まれの編集者とライターが同世代の感性に迫るルポルタージュ連載「イン・ザ・ライトブルー」。第5回は俳優・林裕太が登場。過去記事はこちら。

演技と人生において大事なことは共通している
俳優・林裕太の演技は、すべて彼の人生論に通ずる。
「演じるなかで大事なことは人として生きるために大事なこととも共通している気がして、この仕事に出会えて本当によかったと思います」感じ考えたことすべてが表情や身体の動きとして画面に映し出される俳優という仕事を楽しみ、そう話す。「感じ方や考え方を深めていけば、俳優としても人間としても、深みが出てくると思っています」
2000年生まれ、2020年にデビューし、2025年公開の映画『愚か者の身分』では「第30回釜山国際映画祭」で最優秀俳優賞を受賞。国内でも数々の新人賞を受賞するなど高く評価されている、注目の若手俳優だ。

ニュートラルな佇まいで、親しみやすい雰囲気。取材当日は俳優業の話題を起点に、人生や愛といった壮大な概念まで話が広がっても、さっぱりとしつつ実感がこもった自身の言葉で語ってくれた。
「最近は、演じる上で苦しみすぎることもなくなってきて、楽しさや喜びが大きくなりました。暗いバックグラウンドの役を演じるからといって、ずっと悲観していればいいわけじゃないなって。役のその人物だって生きていくために前向きな部分は絶対にあると思うし。じゃあ何が生きる希望になっているんだろう、何を楽しみに生きてるんだろう、と考えるようにしています」
以前は、役柄の持つ重みを背負い込み、苦しむこともあったという。
「大切な人を亡くした役や、誰も自分をわかってくれない、誰かにわかってほしいという欲望がある役を演じたとき、苦しみを味わわなければ、自分を追い込まないと、と思い詰めてしまったことがありました」
それでも、感覚と経験でバランスをつかんできた。
「今までは『なんでこの人はこうなってしまったんだろう』と考えていたけれど、最近は『なんで自分はこうならなかったんだろう』と考えます。自分が選択しなかったほうをたどっていけば、もしかしたら同じような結果になっていたかもしれない。たとえば人に対する憎しみを抱きそうになったとき、それでも踏み留まったりどうにか消化したりしてきたけれど、そうできない状況だったら、と考えていくと、わからない人を拒まなくなると思うんですよね」

わからなさを恐れるのは人間の自然な反応だが、わからないからと拒絶や排除に向かってしまうと、差別や暴力、悲劇はなくならない。人生は、わからなさを何度も乗り越える旅で、わかろうとすることこそが愛の始まりなのかもしれないと考えさせられる。
素直でいたいから、不器用な自分も隠さない

林にとって、他者と心を通わせることができるのが演じる楽しさや喜びだという。では、心を通わせるために意識しているのは?
「自己開示ですね。自分はこういう人間ですって繕(つくろ)わずにさらけ出すこと」
でも、自分をさらけ出すのが怖いときもありませんか?
「案外、人は誰かの不器用なところに愛着を持つと思うので、怖がらなくていいんじゃないかな」
そう思うのはなぜでしょう?
「僕自身が誰かのそういうところに愛着を持つからです」
ちなみに、林さんの不器用なところは?
「きれいな人や憧れの人を前にすると、顔が赤くなって汗が止まらなくなるとか……。ほかにもいっぱいあります。でも、素直でいたいので、不器用な自分も隠さないようにしています。あとは、どんな相手のこともまず、好きかも、と思ってみるといいかも。人って掘り下げたらみんな魅力的だから、まだよく知らない段階でも好きかもしれないと思って接するようにしています」
「ポジティブすぎるかもしれないけど、そう信じて生きていくのが大事だと思うから」とつけ足す。
本当に大切なことは、今、目の前にあるささやかな幸せを感じること
どう生きるか、深く考えてきた痕跡がある言葉を持っている彼に、日常についても聞いた。
セリフ覚えには時間をかける。反復して身体に染み込ませ、不安なく現場に向かうため。散歩したり走ったりして体を動かし、身体感覚を大切にする。映画を観たり、写真を見返して思い出を振り返ったり、ひとりの時間を大切にする。

「たとえば、現場で共演者と仲よくなってもまた次の現場で会うまでは離ればなれというのを繰り返していると、別れに鈍感になってしまいかねない。でも、本来は一つひとつの別れがすごく寂しいんですよね。だから、日常を大切に生きて感じたことをちゃんと心に留めておくために、自分と向き合う時間を大切にしています」
「今を生きる人が自分と他人を比較しないのは難しいことです。だって、朝起きたらスマホをいじるし、SNSを開けばいいところを切り取った生活が見られるわけで。自分もいいところを切り取って投稿して、いいねがついたら充実したと感じられるかもしれない。でも本当に大事なのは、今、目の前を楽しむ姿勢だと思うんですよね。過去や未来に目を向けて『あのときが幸せだった』『こんな幸せをつかめたら』って思うのも悪くないけれど、まずは朝起きたらカーテンを開けて日を浴びて、気持ちいいいなと思うとか、今、目の前にあるささやかな幸せを感じたいです」
そうして日常的な感情の機微をとことん大切にしているから、大きなテーマを語っても地に足が着いている。
演技とは愛を探す旅
「生きていく理由なんてたいそうなものはないと思うんですけど、いろいろ突き詰めると結局、愛につながる気がしていて。人を大切に思い続ける意志を持って、愛とはなんなのか、時間をかけて探しながら生きていきたいと思っています」。
そう話す林からはたしかに、演じる役や共演者への愛のみならず、広く、他者への愛が感じられる。林の言葉を反芻(はんすう)して、愛とは、相手をわかろうとすることと素直な自分で向き合うことから始まり、時間をかけて、自分自身や関係性とともに育てていくものなのだ、と納得できる気がした。

プレッシャーを跳ねのけ、仕事と生活において自分がどう感じ、考えるかに集中する強さを持ちながら、誇示するわけでもなく、淡々としている。スクリーンで瞳の表情ひとつで観客の心をつかむ林の芝居は、思考力と想像力と、人を愛そうとする意志によって裏打ちされているのだと感じる対話になった。
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