競争が激しく加熱する昨今のボーイズグループ戦線。ステージの上で脚光を浴びる者もいれば、道半ばで夢破れる者もいる。
芥川賞作家・町屋良平の新刊小説『IDOL』は、「夢」という巨大なエネルギーに突き動かされる弱小ボーイズグループのSF青春劇だ。
町屋が本作ですくい上げたのは、オーディション番組で一度は“選ばれなかった”者たち。アイドルという仕事にそれぞれ屈折した思いを持つ彼らの葛藤と成長を描いた理由や、執筆中に観ていたという『No No Girls』におけるちゃんみなの批評性など、『Quick Japan』vol.183に掲載のインタビューを公開する。
(まちや・りょうへい)1983年生まれ。2016年『青が破れる』で文藝賞を受賞しデビュー。2019年『1R1分34秒』で芥川龍之介賞、2022年『ほんのこども』で野間文芸新人賞、2024年「私の批評」で川端康成文学賞、『生きる演技』で織田作之助賞、2025年『私の小説』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2026年4月、『IDOL』(太田出版)を刊行
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潤沢な資源のないアイドルは「愛」を与えられるのか?

──小説を書き始めるときは年単位で言葉を自身に溜めていき、書き出しを見つける作業がある、と別のインタビューでおっしゃっていました。今作に関しては、ボーイズグループウォッチャーとして、溜めていた言葉がたくさんあったのではないでしょうか。
町屋 この小説に関しては意識的に言葉を溜めることはなく、オーディション番組やボーイズグループを日常的に見ている中で勝手に溜まっていました。最初は、Quick Japanさんから違うテーマで短編小説の依頼を受けたのですが、忙しさもあって断ってしまったんです。時間が経って、ふと「ボーイズグループのメンバーがタイムスリップしてくればいいんだ」と思いついたのが始まりで、そこから溜まっていた思いを小説にぶつけました。
──まさに、アイドルを見ていると「人生何周目だろう?」とタイムスリップを疑うような人がいますよね。
町屋 グループ活動している人の中でも、メンバーが未来人じゃないかって疑っている人はいるかもしれませんね(笑)。
──どのようにテーマを絞り込んでいったのでしょうか?
町屋 タイムスリップしてきた主人公のアリスとキルト以外はどういう人たちなのか、よく考えました。私がオーディション番組を見ていて気になるのは「選ばれなかった人たち」なんです。文学との相性のよさもありますが、自分の作家としての適性を考えると、選ばれない側なりの強さや厳しい現実への奮闘ぶりを考慮して、なんとか彼らなりの輝きを見つける、というのが書く上でモチベーションになりました。

──まさしくキャラクター設定が秀逸で、町屋さんのボーイズグループへの解像度の高さを感じました。
町屋 実際のアイドルに当て書きするわけではなく、さまざまなオーディション番組で見た「選ばれなかった人たち」の詰め合わせだと思います。その人たちから受け取るエネルギーは大きいので……あるオーディション番組で落ちてしまった子に、強烈に感情移入してしまったことがありました。そのことだけで10万字書けそうなほど。特に、彼が自分で「自分はスターになれない人間なんだ」と気づいてしまった瞬間が、私にははっきり伝わったんです。才能もスキルもあるけれど、オーディションの過程で完全に気づいて泣いてしまう。そのシーンの力も大きかったです。
対して、作中のキャラクターたちが所属する8koBrights(エコーブライツ)のメンバーはまだ自分の可能性を信じていて、自分たちはまだまだ輝けるとがんばっている。そう思える強さは素晴らしいなと思います。
──選ばれなかった人間である8koBrightsのメンバーは、なぜ「愛着経験に乏しい」という設定なのでしょうか?
町屋 私の小説に通底するものですが、スターは愛や成功体験に恵まれている人が多いなと思います。潤沢な“資源”があるからこそ、無条件に自己を慈しめる。だからこそ、ファンも愛せるというのが一般的だと思います。じゃあ、そうではない人間は出る側になれないのか?と問いたかったのかもしれないです。
本当のところで自分の存在を肯定できていない人もアイドルの中にはいるはずだけれど、ファンに何も返していないわけではない。愛情に飢えている存在が、他者に本当の愛情を与えることはできないのか、いやできる、という葛藤を抱えながら書きました。そこで、最終的に「音楽が好き」という気持ちでつながれる可能性もあるのではないかと考えました。ただ、これはあくまでも私の価値観として受け止めてもらえたらと思います。
「夢」「才能」「おもしろさ」の暴力性

──未来からすれば信頼や思いやりは〝過去人メンタル〟とくくられ、才能はAIでどうとでもなり、夢は健康を害するため軽犯罪。つまり、アイドルとは「淘汰されていくもの」が詰まっていると感じられるような視点が興味深かったです。
町屋 現在から過去を見ても、体罰やうさぎ跳びといった〝過去人メンタル〟ってありますよね。今はギリギリ〝努力〟が残っていますが、価値観は常に更新されていきます。たとえば〝おもしろい〟を求める気持ちは、はっきりいって暴力的だなとよく感じます。
「おもしろい」という評価は、「おもしろくない」存在を前提としているから成り立つ。小説の賞も、おもしろいものが受賞して、それ以外とは大きな格差が生まれます。こと芸能は、おもしろいものが提供できなくなったら存在価値がない、という錯覚を起こしがち。本来はそんなわけないですし、その暴力性に気づく時代がやってきたら、70年後には「おもしろい」が罰せられる未来もあるかもしれません。
──オーディション番組も、能力とは関係のないおもしろさで番組が成り立っていてもつい見てしまう。おもしろさの暴力性が日常になっている危険を感じます。
町屋 ある意味オーディション番組は、おもしろさの暴力性について大衆に気づかせる、うってつけの機会なのかもしれません。誰しも思うはずです、「このおもしろさは作られたものだ」と。候補者たちの一部を切り取っているだけで、ここに映っていることがその人のすべてじゃないことに気づきますよね。
──才能も些末なものとして、未来では淘汰されている設定です。
町屋 AIが人間の知能よりも上にあるので、才能はAIでいくらでも調整できるようになったからですね。鋭すぎる才能はAIで作れるので、人間とAIの鋭さをつなげられるくらいのちょうどいい〝凡才〟が最も才能がある、という概念に変わってしまっています。
「才能」という言葉を出したのも、私が「才能」に弱い人間だからかもしれません。才能さえあれば自分も他人も許せてしまうところがあって、それはよくない気がしています。まさに過去人メンタルで、いずれ痛い目を見るかもしれません。
──夢は健康に悪いため未来では軽犯罪、という視点にもうなずきました。たしかに、夢は自他を壊してしまう巨大なエネルギーでもありますよね。
町屋 これまでの人間関係を踏まえると、自分の夢のために平気で人を傷つける人が多いなと思っていました。また、やりたいことのために自分自身を犠牲にしている人もあまりにも多い。それはまずいかも、と常々思っていましたし、いつしかこういう考えが当たり前になって「夢なんて持ってるの!? 絶対まずいよ」という会話がなされる世の中になるかもしれません。
私自身も、夢が健康に悪いと感じることはたびたびありました。小説家が夢だったかは定かではないけれど、気づけば小説に蝕まれてしまうので、体調管理第一で執筆をしています。元気にしておかないと、小説を読んだり書いたりできないです。
真実そのものを突くちゃんみなの言葉

──書きながら参考にしたオーディション番組はありますか?
町屋 執筆の前後で見ていたのは、『No No Girls』です。ちゃんみなさんのアーティストとしての実力と楽曲の可能性を追求するパフォーマンス力、そして批評性が素晴らしかった。他のオーディション番組でもトレーナーという存在はいますが、近年あれほど辛辣に直接言った人もいないし、それでいてあれほど人を救った人もいなかったと思います。見る前は、いいことばっかり言っているんだろうなと想像していたら、実はけっこう厳しい。それが言えるのは、真実だからだと思いました。真実の周辺のことを言われるとすごく傷つく可能性があるけれど、真実そのものを言われると傷つかないことを、ちゃんみなさんに教わりました。
──ちゃんみなさんも“未来人”説ですね。
町屋 そうかもしれないですね。核心を突くことしか言ってないですから。
──題材はアイドルですが、SFやミステリー的な読みもできる作品で間口の広い小説だと思いました。
町屋 自分でも多くの人に届く可能性がある小説になったと思います。これまでは、文学の世界でも少数の本を読む人たちと一対一で向き合って書いていましたが、今回は誰が読んでも何かを受け取ってもらえるものになったはず。6章のうち「第3章」は未来における小説の在り方について考えを巡らせる展開ですし、アイドルに興味がなくても読めるものになっています。推敲では、しっかりめにSFとミステリーを食い込ませて、SF小説としての精密さを追求しました。なので、そういったジャンルが好きな方にも読んでもらいたいです。
『IDOL』特設サイトもオープン!
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町屋良平『IDOL』(太田出版)大好評発売中!
これがおまえが「夢」見た「アイドル」だろ。責任とれよ──
芥川賞作家・町屋良平が、「アイドル」の輝きと暴力性を克明に描き出すタイムトラベル青春劇!
「夢」が禁じられた未来から、現代にタイムスリップした双子の兄弟・アリスとキルト。国民的オーディション番組の落選組によって結成された弱小6人組ボーイズグループに加入したふたりは、あらかじめ運命づけられた解散の日を迎えるまで束の間の夢を見る。しかし、バンコクでのフェス出演をきっかけに、運命は少しずつ変わり始めた──。
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