『アイドルになってよかったと言いたい』──15歳から24歳までアンジュルムのメンバーとして活動していた和田彩花が、当時の葛藤や願いを込めて名づけた一冊が刊行された。
本書は、2024年からQJWebで連載されたエッセイをまとめた一冊。「アイドル」を語ることで見えてきた社会の問題や、和田自らの言葉で発信しようと思った理由など、『Quick Japan』vol.183に掲載しきれなかったインタビューを掲載する。
「広い輪」の中に、ネガティブな気持ちも存在させたい
──書籍にまとまった現在の心境はいかがですか?
和田 素直に、すごくうれしいです。自分で書いた文章を一冊にまとめた本を出せる人になろう、という思いで大学でもがんばって勉強をしてきたので、夢が叶いました。
最近は、こうやって本を出したり、「LOLOET」というバンドで大きな会場でライブをしたり、自分が積み重ねてきたものが少しずつ世に出ていく感覚があって、楽しいです。

──本連載は“遺書”的にパソコンに書き溜めていたものだと「おわりに」に書かれていましたが、自身の言葉を世間に届けようと思われた理由は?
和田 Quick Japanさんから「令和のアイドル論を書いてほしい」という依頼を受けたときに、いわゆる社会一般的なアイドル論を書いても説得力がないと思いました。
それよりも、経験してきた10年間のアイドル人生を、自分の考えや疑問を含めて書けると、今につながる問題意識を共有できるんじゃないかと思って、書き始めました。
そうすると、必然的にメンタルヘルスの話題はどうしても避けられないテーマで、自分としても書かないと前に進めない感じがしました。
特に、うつ病になったときの記憶や心の中のことは、意識的にパソコンに書き殴っていたんですね。
それを友達──元アンジュルムの相川茉穂ちゃんなんですけど、茉穂ちゃんに話したら「読みたい」と言ってくれて。そこで、苦しいことも伝えてもいいんだな、興味を持ってくれる人がいるんだなと驚きました。
苦しい経験をした者同士だからこそ、これまでもいろんな話をしています。信頼する友人が興味を持ってくれるなら、ファンも読んでくれるはずだし、広くは世の中のためになるといいなと思って書きました。
──和田さんが、うつと過ごした7年を振り返る章を読んで勇気をもらった人、最初の一歩として「病院に行ってみよう」と思った人もいるのではないかと思います。
和田 自分の気持ちに深く触れていくと暗い側面も出てしまうので、弱さや暗さを世の中に出すべきか考えました。SNSでも、楽しいことのほうがシェアしやすいじゃないですか。
ただ、自分のこれからの生き方として、常に“自分自身”でありたいし、そういう姿をみんなに見てほしい。ありのままとは違うけれど、音楽をやっている人間として、自分の本当の気持ちを置き去りにしたまま表現することは難しいと思いました。
だからこそ、暗い部分も自分を構成するひとつの要素として、世の中に届けられたらいい。自分の活動を形作る「広い輪」の中に、ネガティブな気持ちも普通に存在させたい、と思いました。
──すごく素敵な話ですね。これまでは輪の外側にあったかもしれない、もしかしたら存在すら隠していた感情を、自身の輪の中に“ただ”存在させるだけで、自分であることに近づけるのかなと思います。
和田 それが、自然なあり方ですよね。強がる必要もないし、無理もしないし、暗い感情も自分を構成するひとつとしてただ輪の中にあるだけで気持ちが変わりました。

──連載に書かれてから、メンタルヘルスについて発言する場面が増えているように感じていて、劇作家の山田由梨さんとのトークイベントも非常に興味深かったです。
和田 自分の精神的な部分を発信し始めてから、「メンタルヘルスについて話してほしい」と言われることが増えました。でも、まさか話してほしいと言われるとは書く前はまったく思ってなかったんです。
この経験を聞きたい人がこんなにいることに驚くと同時に、たしかに自分がうつ病になったときを思い出すと、情報がまったくなくて。
だから、病院に行く選択肢が自分の中になかったり、そもそもうつ病であることを1〜2年受け入れられなかったりしました。
自分の状況を理解する術がなかったからこそ、当事者の声は大事な気がします。世のためってなると大きすぎるので、誰かのきっかけになったらいいな、くらいのささやかな気持ちで自分の経験をシェアしています。
「アイドル」を語って見えてきた、社会の問題
──近年は朝井リョウさんの小説『イン・ザ・メガチャーチ』や、田中東子さんや上岡磨奈さんといった学術的側面からアイドルを紐解く方の存在など、「アイドル」を考える機会が増えています。アイドルを語ることで見えてくる社会への疑問について、和田さんはどのようなことを感じますか?
和田 この本を書いているときに、はっきりと「これは社会の問題である」と思っていました。
ひとりの未成年が学業を疎かにして、芸能界に飛び込むことが、どれだけの支障があるのか。得るものもあるけれど失うもの、犠牲にすることも多いので、未来の子供のために必要な情報だと思って書きました。
否定するわけではないけれど、たとえば子供が「アイドルになりたい」と言ったときに、ふと私の言葉を思い出してほしい。
大人になるときに必要なこととは何か、未成年はどう扱われるべきか、という問いは常に自分の中で考えていることなので、私の疑問をシェアしたい気持ちがありました。

──輝かしい面ばかり目が行きますが、それだけではない。15歳でデビューした当事者としての言葉の重みを感じました。
和田 電車に乗っていると、アイドルの映像を観ている人がわりといるんですよね。アイドルがみんなのがんばる原動力になっていることは素晴らしいし、ときめく気持ちも素敵だけれど、その輝きの先も一緒に考えてほしいと思います。
アイドルは、先が見えないからこそ考えることが必要だし、アイドルという文化そのものを見直さなきゃいけないと思います。
──社会に出るタイミングも、同年代の方よりもずいぶんと早かったと思うので、そういった意味でもギャップや疑問を感じることはありましたか?
和田 自分の女性性がものすごく社会的に扱われることがけっこうな衝撃でした。
それは、ジェンダーギャップや性役割に紐づく問題だと思っていて、たとえば仕事の帰り道に毎日のように道端で声をかけられたんですね。それ以来スカートを履けなくなってしまって、ピンクや花柄といった女性らしいものも身に着けられなくなりました。
連載を読んでくださった新社会人の方から、社会に出て、仕事の場で初めて自分が女性としてどう見られているのか意識した、とコメントをたくさんいただきました。
社会に出ると他者の視線に敏感になり、自分のしたいようにはできなくなり、さらに結婚や出産で、自分を手放さざるを得ない場面が増えていきます。
今も、家庭は女性任せになりがちだからこそ、社会の古い価値観や性役割といったものを見直すときに、アイドルの文化から見えてくるものがある気がします。
「アイドルになってよかった」とは言えないけど、「よくなかった」とも言いたくない

──『アイドルになってよかったと言いたい』と、未来への願いを託すようなタイトルに込めた思いは?
和田 連載を始めたころは、「アイドルになってよかった」と言えない自分に戸惑っていました。
どうして言えないのか考えたときに、手放したものもたくさんあって、叶えられなかった時間も無視できないと思ったんです。あとは、アイドル業界の問題をすべて肯定することはできなかった。
ただ、一方で「よくなかった」とも言いたくなかったんですね。アイドルをやっていて楽しかったこと、学んだこと、メンバーとの出会い、得たものがたくさんあったので、希望を見出したかった。
全肯定も全否定もしなくていいんじゃないかなっていう気持ちを込めたタイトルです。
──連載で印象的な反応はありましたか?
和田 ライブハウスで音響のお手伝いをしてくれた方から「和田彩花さんですか?」と声をかけられたんです。
だいたい、そういう発言のあとって「アンジュルムが好きでした」とアイドル時代のことを言われることが多いんですけど、その方は「連載を読んでいて、ファンです。今日の詩も楽しみです」と言ってくれたんです。連載きっかけで私を知ってくれた方がいることが、ものすごくうれしかったですね。
あとは、後輩からも連絡をもらってうれしかったですし、アイドル当事者の方の感想もまた違う喜びがありました。

──本を読んで、もう少し自分なりに学びを深めたいと思う方もいると思うのですが、書籍を書かれるなかでご自身に寄り添ってくれた本はありますか?
和田 いっぱいありますね……若桑みどりさんの『イメージの歴史』(ちくま学芸文庫)という本が大好きで、何度も読み返しました。美術史を、ジェンダーという視点で解説している本で、新たな発見がいくつもありました。
あとは、『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』(青弓社)の存在にも励まされました。別の立場ではあるけれど、同じような精神性でアイドルについて一生懸命考えて、応援してくださっている方の声は、自分が活動をしていく上で心の支えになっています。
なので、私も自分の言葉を通して、何かひとつ力添えできるといいなと思っています。
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和田彩花『アイドルになってよかったと言いたい』(太田出版)大好評発売中!
和田彩花が綴る「アイドル」と、フェミニズム/自己表現/メンタルヘルス/家族/恋愛/労働問題 etc…
2024年12月から1年間、QJWebで連載されたエッセイを完全収録のほか、2019年のグループ卒業当時に『Quick Japan』にて連載した「未来を始める」も一部掲載。
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