三遊間「意外と王道、でもまだ途中」ラジオのおかげで幅が広がったふたり、ブレイクまでの未来予想図は?
「苦労を重ねてきた人ほど、きっとこれから輝かしい未来が待っている」。そんな視点から編集部がピックアップした若手芸人の、売れる直前までの“苦労や挫折”を記録する連載「芸人プロローグ~ブレイクまでの物語~」。輝かしいものになるであろう、“これからの芸人としての未来予想図”をどう描いているのかを聞いていく。
第1回は、現在大阪を拠点に活動しているコンビ・三遊間。ライブで超えられなかった“70点の壁”、賞レースでの勝ちきれない日々。なかなか日の目を浴びなかったふたりだが、2025年にはラジオ番組『三遊間のMBSヤングタウンNEXT Podcast』が始まり、舞台以外の場でも存在感を広げつつある。まだ「最高傑作」を模索する途中にあるものの、確実に次のステージへと向かっているふたり。これまでの苦労と、この先、それぞれがひとりの芸人として目指すものを聞いた。
なかなか超えられなかった70点の壁

(いなつぐ・りょう)1995年9月26日生まれ、兵庫県出身。よしもと漫才劇場で行われた翔メンバー(※芸歴7年目以下)の人気ランキングを決定する『第2回翔総選挙』で地道な選挙活動の末、1位となった

1996年5月25日生まれ、滋賀県出身。ラジオ番組での口数の多さから「多弁師」と呼ばれる。今回の取材現場でもなぜか取材後1時間ほどスタッフに話しかけていた
──三遊間さんは最初『M-1グランプリ』に出場する目的で、ユニットを結成したんですよね。そのときいきなり3回戦まで進んで、そのあとも好調でした?
さくらい 最初どうやったかな……。けっこうスベってた気がしますね。3回戦(2019年10月)からの数カ月、コロナの感染拡大でいろいろ自粛になるまで(2020年3月)あんまりウケてなかったです。
稲継諒(以下、稲継) 3回戦行けて、そこまではいいやんと思ってたら、そのあとにライブ出ても全然ウケへんくて。1年ぐらい経ったときに、やっとウケ出した感じで、そこまではほんまにひとつもウケなかったですね。そこらへんの時期はしんどかったです。
──振り返ると、そのころはどうしてウケなかったと思います?
稲継 それは普通にオモんなかっただけですね。
さくらい それはありますね。たぶん今やったら辞めてると思います。でも僕ら1年目でスタートしたばっかりで、まあまあまだやってもええかという時間的な余裕があったんで。同期も劇場に上がれていたら早いという状態やったし、スベってもみんなスベってるし……という感じでした。
──最初にウケたネタは覚えてます?
さくらい 当時出ていたライブで、ひとつの目安だった70点を延々超えることなく、54点とか60点とか出しまくったんですよね。そうしたら1年目の最後──ほんまにコロナ禍に入る前、2022年の『M-1』準々決勝でやる、車のあるある言うみたいなネタができたんですよ。それが初めて70点を超えて、初期の初期の話でいうと、僕的にそれは印象残っていますね。そこで初めて基準点を超えて、初めてウケた気がしたので。
稲継 俺が覚えてるのは、枕の下に本を入れて夢に出るのが題材のネタですね。それをライブでやったとき、最初だけパンってウケたんですよ。結局オーディションライブの『UP TO YOU!』でやってみたら負けたんですけど、そのあとまた先輩がおるライブでやったらめっちゃウケて、「こんなん作ったらええんか」という感覚をつかんだのは覚えてます。劇場メンバーなる前あたりからはライブでウケるようになって、先輩からも「オモろいな」と声かけてもらえるようになっていきました。そこで「自分たちもある程度はできるんかな」と思えましたね。
──お客さんよりも先に先輩芸人さんがおもしろがってくれたりしました?
稲継 いや、そんなことはなくて、ウケてないけど「おまえらオモろいな」と言われる、みたいなタイプではなかったです。スベってるときなんて、誰からも何も言われへんかった。ウケ出して、あんま似たタイプがおらんかったから、たぶん先輩らも声かけてくれたんじゃないですかね。
さくらい 僕ら変な顔したりムチャクチャしたりじゃなくて、意外とセオリーどおりのことをするんで。ちょっとだけウケてきて、少しずつおもしろがられて……みたいな感じでしたね。
──三遊間さんってネタを大量に作ってる印象があるんですよ。こんなに量産して、しんどく感じたりしないのかな、と勝手に心配してまして。
さくらい ネタ作りはしんどくないわけではないんですけど、普通に飽きることはありますね。中途半端なウケのネタを3回も4回もやるのはしんどいんで、それやったらもうええわってやらなくなるという。ほんまはよくないんですけど、1回しかやらんネタとかはめっちゃありますね。でも僕らはどっちもネタを考えて、ネタ数÷2を各自が作ってるニュアンスなんで、みんなよりは楽ですね。どっちも作るから、みんなの倍作ったことになるというお得なシステムやなと。だから、人より多く作ってやろうとか別に思ってないです。
稲継 さくらいの考えたネタは、どんなやつも基本的にやるんですよ。僕のネタはさくらいがやるって言ってくれへんと基本的にはできひんから、ハードル高くてけっこうしんどいかもしれないです。やるネタはさくらいのほうが多くて、体感として僕は10個のネタを送ったらそのうち1個やるぐらいの感じですね。
さくらい 基本2パターンあって、いわゆる設定みたいなのが稲継から僕のところに送られてきて、その中でいけそうなやつをふたりで考えていくのがひとつのパターン。もう1パターンは、僕が最初から最後まで全部考えたのをとりあえずやってみて、よさそうやったら稲継が合流してふたりでそれをちょっとずつ変えていく。基本この2パターンなんで、たしかに稲継が送ってきたやつを全部が全部やるという感じではないですね。
ようやく自分たちに合った方向性が見えてきた

──今、歯がゆいことあります?
さくらい 給料が少ないのは歯がゆいっすね。吉本は賞レースを獲ったら、舞台で1回漫才するときにもらえる単価が上がっていくんですよ。僕らは何も獲ってないんで、ほぼもう最低ラインのところにおるんで。今バイトこそしてないんですけど、賞レースで活躍できたら給料が上がるんやろうなとは期待してますね。
稲継 歯がゆいはもうずっと歯がゆいです。できひんことがいっぱいありますからね、ネタとか平場とか……。
──関西の賞レースで決勝に出ても、優勝や最終ラウンドなどその先にもうひとつ進めない現状に歯がゆさを感じたりしてます?
稲継 たしかに賞レース負けてんのも歯がゆいかな。自分的に「絶対これいけるやん」というネタで負けるんやったらまだええけど、「なんかどうや?」という感じで臨んで負けることが多いんで。負けるんやったら納得して負けたい気持ちがあって、それだけはないようにしたいなと思いますね。
──これまで100%納得したネタで賞レースに出たことはない?
稲継 ないんですよ。「これ絶対勝てるやん」という状態にならへんと、準決勝や決勝に進まれへんねやろなとは思います。それができてないのが、けっこう歯がゆいかもしれないです。
さくらい まあ相当自分の責任やけどな。
稲継 うん、自分の責任でしかない。自分に歯がゆさを感じてます。
さくらい でも、僕は2025年の『M-1』準々決勝で方向性が決まった感じがしましたね。去年の準々決勝で台本中心のネタをやって、「これはいかん、もうどうやったって勝たれへんがな」という気持ちになって、台本に振るんやったら、もう人間性に振ったほうがいいと思ったんですよ。今年のネタはほんまは狙いたい台本と人間性の中間地点よりは人間性のほうに振ってるんですけど、まだそっちのほうがいいという気がしました。今年やってみて、台本中心のネタではなく、人間性に振ったネタをネタっぽく微調整するほうが意味あるなと思いましたね。
──試行錯誤してようやく先が見えてきたと。
さくらい 賞レースの決勝に出て漫才以外の部分をピックアップされても、ほかの能力が今まだそんなにないんで、全部が万全になってから勝ったらええかという気持ちもありますし。でも、わかんないですね。賞レースに出られるタイムリミットも迫ってきてるし、別に万全の準備してなくても、その環境に放り込まれたら体が適応していくという可能性もありますし。出ていくのを怖がる必要はないんかな、というのが最近思うことですね。
──コンビの関係性はどうでしょう。昔、稲継さんがさくらいさんに怒られることが多かったと聞きました。
稲継 怒られてました。最近は、あんまりないですね。
さくらい 言いたいことはもういっぱいあるんですけど、ここまで来たら良くも悪くも、もう言ってもしゃあないかっていうのはありますね。
──結果、コンビ間としてはよくなっています?
稲継 コンビ間ではやりやすくなってます。
さくらい ネタに関しては、関係性が良かろうが悪かろうが、生み出すもののクオリティにはあんまり関係ない気がしているんですよ。でも、雰囲気良くても悪くても変わらないんやったら、雰囲気いいほうがいいなとは思いますね。
想像よりも王道を歩いている

──この数年で転機になるようなことはありました? 2025年は『MBSヤングタウンNEXT』が始まったり、さくらいさんの単独ラジオ『多弁師さくらい』(ABCラジオ)の放送があったり、稲継さんが『第2回翔総選挙』で1位になったり、多くのことがありましたが。
さくらい ラジオ始まったのが一番大きいんかなって思いますね。無料で誰でも聞けるラジオを公開したのは初めての経験で、やってみたら今までやってきた中で反響が一番大きかったです。リスナーからリアクションあったり、人から何か言われたり。
──ファンが増えたり広がったりしました?
さくらい いや、あからさまにお客さん増えて人気になったという体感はないですね。でも東京の舞台立ったときに、明らかに前より受け入れられてる感覚があって、それはたぶんラジオのおかげかなと思ってます。
稲継 そうですね。自分らのこと言っても意味が伝わるようになって、ウケるようになった気がします。ラジオを始めて、やれること、言えることの幅が広がりました。
さくらい あと僕はここ何年かで、大喜利ライブとかトークライブとか、ひとりでいろんなところに行く機会が増えて、それもでかかったです。ネタはどうしても僕以外の要因が入ってくるんですけど、ひとりでやるときは自己責任の場に出て、ほんまに勝負してる感があって、作業としてはめっちゃいいんかなって思いますね。それを経て、やり方がわかってきたというか、ちょっとずつできるようになってきてるな、と思うときはあります。
──成長してる感覚がある。
さくらい 漫才だけやってたら結局ふたりで出した結果なんで、たぶんその感覚ないと思うんですよ。そうじゃない部分で少しずつ進んでる気はします。
──数年前に「自分たちはこうなっているだろう」と思い描いてたイメージと今一致してます? それともだいぶ違ってます?
さくらい 僕は想像してたよりも、遥かに楽になったなと思いますね。ただ好きなことを言うとか、なんも気にせず言うとか──それが人間性の開示やとは思ってないんですけど、お笑いが成立するなかで、「ここまで言っても受け入れてくれるんや、笑ってくれるんや」ということが増えていった。4、5年前は狭いところから選んでいたのが、今は広いところから引っ張ってこられる。おもしろくなってるかはいったん置いておいて、言えることの幅が広がったことで楽にはなりましたね。
稲継 昔イメージしてたよりはウケてますね。もっとスベって、もっとウケてへんと思ってました。「普段はウケてへんけど『M-1』は準決行ってる」系かなと思ったら、めっちゃ逆ですね、今。舞台数がそこまで多くなくて、もっとマニアックな存在……今でいう牛ペペさんみたいになってるイメージがありました。
さくらい 明らかにそれはもう僕とおねえちゃんさんの違いですね。
稲継 誰がゆたかさんと俺は一緒やねん。ゆたかさん、稀代の変人なんで。
さくらい たしかに思ってたより王道進んでいる気はします。もっと邪道のつもりでやっていたのに、いつの間にかど真ん中のルート歩いてるやんこれ、と思うことはあって。たまに先輩とそんな話すると、だいたいの先輩は「そっちのほうがええよ」と言ってくれますね。別に今のスタイルを戦略的に選んだわけでもないし、ほんまは向こうに行きたいのに仕方なくここにおるわけでもないんで、まあまあええかと思ってるんですけど。ここが果たして王道なのかどうかはさておき、僕らのイメージよりは遥かに王道にいると思ってます。
ひとりの芸人として、それぞれの未来予想図
──1年後、5年後、10年後の理想の未来予想図を教えてください。
さくらい ひどいやつと思われるんで、あんまり言わんようにしてるんですけど、僕はでっかい放送局でひとりでラジオやりたいですね。そもそも僕はそれがしたくて入ってきたんで。
──くりぃむしちゅーさんに憧れたと公言されてますもんね。
さくらい そうですね。コンビとしてはくりぃむしちゅーさんのラジオがめっちゃ好きでした。でも個人的にはオードリーの若林(正恭)さんが一番好きなんで……。僕はほんまに自分勝手な人間なんで、全責任を自分で負うなかでラジオしたいなとは思います。この世界に入った限り、漫才はやっていかなあかんし、そこをクリアせえへんかったらなんもないんで、もちろん一生懸命取り組みます。でも、ひとりのラジオはやりたいです。
──いつごろまでに叶えたい夢ですか。
さくらい 僕は1年後でもいいと思ってます。でも現実的じゃないから、5年後ぐらいになるんですかねえ。
稲継 僕はその逆で、これやろうというのはマジでないですね。自分ひとりでなんかしようとか、これからほんまにニ度と考えないと思うんで。
さくらい たぶん今何言ってるかわかんないと思うんですけど、こないだ『翔総選挙』1位になった特典で、稲継ひとりが主役になる90分のライブ(2025年11月23日『翔・全員ライブ90!!! 稲継内閣始動!!お笑い臨時国会!!』)を打ったんですよ。その内容がどえらいことなってもうて、そこからひとりでは何もせえへんというのを貫くことにしたみたいです。
稲継 それもあって僕は「ひとりでは何もしない」が芸人における座右の銘になりました。これから先、ひとりで何かをすることはたぶんないと思います。
さくらい ほならあのライブ、みんな観に来といたらよかったな。
稲継 最後の雄姿でした。だからさくらいがひとりでラジオするのも、全然やってくれていいです。ぜひお前が矢面立ってくれ。俺はもう立たへんから。
さくらい 家の中におるんか。
稲継 まあ自分のルーツをたどって、学生時代を思い返してみると、前に出て何かやるタイプではなかったし、そもそもそういう人間じゃなかった。前に出ないほうが居心地いいんで……。だから、ネタですね。やりたいお笑いは全部ネタに入れるようにしたいです。
さくらい 僕もラジオはやりたいですけど、ネタありきではあるんで。
稲継 さくらいがひとりでラジオするって言い出して、最初は「いや、俺も連れて行けや!」と言ってたんですけど、ぜひやってくれ、ひとりで。これからは俺を漫才だけに集中させてくれ。
──10年後もネタを続けたいとして、直近の1年後にこれを達成したいとかはあります?
稲継 『M-1』決勝行きたいのは当然ありますし、あとそろそろ自分らの最高傑作出したいですね。僕は「このネタ、ここはええけどここはあかんな」って、どのネタもネガティブに思ってしまうんで、この1年で最高傑作を作って、2026年の『M-1』でそれをやりたいです。それがどんな結果になるのかを見たい。そこ目がけてがんばりたいです。

アザーカットで構成したブックレットの発売決定

特別ミニブックレットには、今回のインタビュー全文だけでなく、WEB記事には未掲載の写真をたっぷり収録。太田出版のECサイト「QJストア」限定での発売で、現在予約受付中。
さらに本作には、限定特典としてアザーカットを使用したポストカードが1枚(全3種/うち1枚をランダム)が封入される。
『三遊間 意外と王道 「Quick Japan」presents 芸人プロローグ~ブレイクまでの物語~』
2026年2月7日発売/発送
サイズ:B5判/並製/フルカラー/18P
価格:1,500円(税込1,650円)
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